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魔法とスキル

「ふむ……? これは……先生、一つ聞きたいことがあるのだが?」


 と、ソーマから質問の声が上がったのは、そんな時のことであった。


「あん? なんだ、何か分かんないことでもあったか? それとも、また何か分かったのか?」


 しかしそれに対し、カミラがおざなりな言葉を返したのは、ソーマの疑問に対し、カミラはその大半に答えられないからである。


 ソーマが読んでいるのは、先に述べたように研究者などが読むような専門的な代物だ。

 カミラは高等部にこそ行ったものの、そこから先には進んでいない。

 何かを聞かれたところで、答えられるわけがないのだ。


 それに何より、その分野が問題でもある。

 ソーマは魔法の研究結果が書かれたものを、読んでいるのだ。


 一年前には魔法の知識などろくになかったソーマがそんなものを読んでいるのは、ソーマが頑張ったから、というわけではない。

 いや、ソーマが頑張ったことを否定するわけではないのだが、そもそも魔法に関しては、高等部以前の段階で学べる知識というものがほとんどないのだ。


 というのも、魔法は今のところ完全に才能に依存したものであり、才能があれば使えてしまうものである。

 そこに理論や知識というものは、必要としないのだ。


 必要としなければ、それに関して調べたりする者は限られるのは当たり前のことであり、そのため、魔法に関して存在している資料というのは、その大半が研究資料、ということになってしまう。

 魔法に関する知識を得るには結果的にそれを読むしかなくなってしまい、ソーマがそれを読んでいるのはそういう理由であった。


 ただ研究者が読むような代物であるため、そこには当たり前のように様々な専門用語や専門知識が並べられており、それを知っていることが前提となる。

 ソーマがそれを読むことが出来るというのは、そういったものを既に学んだということでもあり、そういう意味ではやはりソーマは十分頑張ったと言えるのだ。


 もっとも、さすがに高等部の全てを一年で学ぶのは不可能であるため、当然今もその勉強は続いている。

 ただしソーマの関心が高いのが魔法であるため、半分はこんな感じで、残り半分が勉強、ということになってはいるが。

 閑話休題。


「うむ、疑問の方なのだが……ここに、魔法は基本的に失敗しないし、失敗させることも出来ない、などと書かれているのであるが、これは本当なのであるか?」

「まあ、私は魔法が使えないから断言は出来ないが、一応そう言われてるな。というか、そもそもそれは魔法に限った話じゃないしな」

「ふむ? というと?」

「そうだな、お前にはちょっと分かりづらい感覚だとは思うが……基本的にスキルを持ってるやつが起こした行動っていうのは、相手がそのスキルより上の等級のスキルを持っていない限り失敗することはない」


 極論、特級の剣術スキルを持っていれば、その一撃は必ず相手に届く、ということだ。

 これに例外はない。


 例えば相手が空間転移で逃げたところで、放たれた斬撃は空間を越えて斬り裂くのだ。

 それを可能にするから特級なのだということを考えれば、それほど不思議なことでもないだろう。


「……ふむ、相手の回避行動や阻害行動の全てを上回るからこそ等級が上、ということを考えれば、確かにそれほど不思議でもないかもしれないであるな」

「いや、十分不思議ではあるんだけどな。ただ、そういうのを調べるのは研究者の仕事だし、私達はそれをそういうもんだと思ってりゃ十分だ」

「……ちなみに、であるが、失敗させることも出来ない、ということは、自分の意思で外すことも出来ないわけであるか?」

「例外はないっつったろ? 当然だ」


 だからこそ、基本手合わせ等をする時には等級が同じ相手でなければならないのだ。

 異なる場合は、等級が上の者が必ず防御側に回り、攻撃側となってはいけない。

 防御不可能なそれは、既に手合わせではないからだ。


 まあつまりカミラがソーマに対してやったことは、かなり非常識ではあったのだが……それ以上の非常識を相手が見せたのだからノーカンだろう。


「ふうむ……」

「それがどうかしたのか?」

「いや、失敗が出来ないはずなのに、失敗した事例を我輩つい先ほど見たばかりであるからな……」

「ああ……そういやそんなこと言ってたな」


 ソーマが日課を続けていることは知っているが、カミラはあの一度を除きそれに同行したことはない。

 ただ、時折その話を雑談の中で聞くことがあった。

 先ほども聞いたばかりであるし、だから魔の森でソーマがアイナという名の少女と会っている事や、ソーマが何をしたのかも知っているのだ。


 まあソーマも全てを語るわけではないのだが、概要だけでもある程度の推測は可能である。

 ソーマがどれだけ規格外の存在であるのかを、知ることも。


「……本人はなんか自覚してなさそうだけどな。にしても、スキルが全てじゃないって分かってたつもりだったが、本当につもりでしかなかったって実感させられんな」

「うん? 何か言ったであるか?」

「ただの独り言だから気にすんな。それより、失敗しないはずなのに何故失敗したのか、って話だが、すまん、さっきちょっとだけ嘘吐いた。例外はないが、特級の連中だけは別だ」

「特級が別ということは、特級が例外になるのであるから、例外はあるのではないか?」

「そこら辺も説明が難しいとこなんだが……まあ簡単に言うなら、特級の連中ってのは常識の外の力を振るう連中だから、ってとこだな。最初から外れてるから、例外ですらない、ってことだ」


 別に難しい話ではない。

 剣で空間を斬り裂くような連中が、常識に含まれるはずがないだろう、という話である。


「ふむ……? いや、剣で空間を斬り裂くぐらい、ちょっと剣を極めれば割と普通に出来ることだと思うであるが……」

「普通って言葉の意味を調べてから出直して来い。ともあれそういうわけだから、特級の連中だけは、自分の意思で失敗させることが出来る。おまえが見たのも、そいつが特級だったからなんじゃないか?」

「うーむ……魔力を込めすぎて術式が爆発した、とか言っていたであるから、魔法は全般的にそういうことが起こるのかと思っていたのであるが……」

「まあ或いは、魔法だけはそういう方法で失敗することもあるのかもしれん。私は確かに聞いたことがないが、それは単純にこの国の魔法研究が遅れてるせいだって可能性もあるしな。それに関しては、お前もよく分かってるだろうが」

「まあ……そうであるな」


 そこでソーマが苦い顔を見せたのは、魔法の研究資料と言われているもののほとんどが、実際にはそうでないということを分かっているからだろう。

 何せその実態は、聖神教の布教用の代物なのである。


 魔法は完全に才能に左右されるものであるため、どうやればそれをより上手く使えるのか……いや、もっと言えば、最初に魔導スキルを覚えるにはどうすればいいのかが、ほとんど分かっていないのだ。

 剣術スキルであれば、剣を振っていればそのうち覚えるし、等級も進んでいく。

 だが魔法はそれがよく分かっていないため、聖神教に入ったことで覚えた、などというものがちょくちょく混ざっているのだ。


 とはいえそれは出鱈目というわけではなく、一応大真面目に研究した結果でもある。

 上が布教目的に研究させたものであったとしても、だ。


 しかし研究は元々がハードルが高いというのに、そんなものが溢れているとなれば、やる気がなくなってしまうのも仕方のないことだろう。

 そのため益々そういったものばかりになり、真っ当な研究はさらに行われなくなる。

 そんな悪循環に陥ってしまい、この国の魔法研究は大して進んでいないのだ。


 それはソーマがまともに読めるものが少ないということでもあり、ソーマがどれだけ頑張ろうとしたところで、当たり前のように成果は上げられない。

 それは苦い顔もしようというものであった。


「ただそうなると、何故そいつはそんなことを知っていたのか、ということになるが……」


 考えられるのは、別の国からの移住者……或いは、亡命者、ということだろうが、そうであれば、特級スキルの持ち主ということもあり、早々に確保のために動くべきだ。


 もっとも、カミラはとうに軍に所属する身ではないし、特級スキルを持つ者が目立たずにいられるわけもない。

 ソーマがやらかしたことによって普通に魔法も使えるようになったようであるし、そのうち勝手に誰かが探し当てるだろう。


 不安なことがあるとすれば、どうにもソーマの話を聞く限りでは不法滞在者なのではないか、という疑惑が出てくることだが……まあ、それもあまり気にすることでもない。

 ここら辺は全て公爵領だが、場所柄割とよくあることなのだ。

 魔の森が近くにあるという時点で、あまり細かいことは気にしていられないのである。


 重要なのは、魔族を通さないことだ。

 だからそれ以外の者は、犯罪でも犯さない限りは特に取り締まったりすることはない。


 ソーマならば相手の本質を見誤らないだろうし、そもそも魔の森近くに住んでいる者達は全て身元が確かな者達だ。

 そこに世話になっているのだろう少女であれば――


「……いや、そういえば?」


 そこでふと、カミラはあることを思い出した。

 魔の森の近くに住んでいるのは、何も公爵領の者達だけではない。


 魔族側の領域にも、小さな村があった気が……?


「……いや、それこそまさか、だな」

「ふむ……常識外れ……常識外れであるか……」

「って、おまえはおまえでどうした? 何かまた余計なことでも思いついたのか?」

「また、とは、それでは我輩がよく余計なことを思いついているようなのであるが?」

「だからそう言ってんだろ。なに、そんな馬鹿な!? みたいな顔してやがる」


 これが本気で言っているのだから性質が悪いが、言ったところでどうにかなるものでもない。

 まあだからこそ、尚更性質が悪いとも言うのだが。


「まあそれはともかくとして……で、何を思いついたって?」

「うむ、常識外れのことが出来るというのであれば、我輩に魔法を教えることが出来るのではないか、と思ったのである」

「あー……確かにそれが出来たらかなりの常識外れだが……」


 剣で空間を斬るのと、スキルを持っていない者に魔法を教え使えるようにするの。

 果たしてどちらがより常識外れだろうか……などとふと考えてしまい、カミラは苦笑を浮かべた。


 決まっている。

 そんなものはどっちも常識外れだし、そもそもそんなことを思いつく時点で、やはりそれも常識外れだ。

 常識の範囲内で生きているカミラに、判断できるわけもなかった。


「ま、とりあえず試してみればいいんじゃないか? 相手が受けてくれたら、の話だけどな」

「うむ、頼み込みまくって、絶対に試してみるのである」


 そう言って生き生きとした表情をしだしたソーマに、カミラは小さく息を吐き出す。

 それから、やっぱりこいつも常識外れな連中の同類だなと、そんな今更のことに、さらに苦笑を深めるのであった。

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