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元最強、聞き覚えのある声を耳にする

 路地裏の道を、ソーマは機嫌よく歩いていた。

 もちろんと言うべきか、先ほどの鍛冶師とのやり取りが原因だ。


 その結果として、現在ソーマの腰にいつもの剣は差されていない。

 ただ代わりとして別の剣が差されていた。


 つまりそれは、代理の剣である。

 いつもの剣の修繕を頼んだため、それが終わるまで借りたのだ。


 借りる際に見せてもらい、実際に振るいもしたが、それなりに良い剣であった。

 いつものものと比べればさすがに格は落ちるものの、適当に店で見つけようと思っても見つけられない程度には良い剣だ。

 やはりソーマの目は狂っていなかったらしい。


 そしてそうなれば、否が応にも期待が高まるというものだ。


 無論それは、修繕に関してではない。

 修繕に関しては、最初から疑ってはいないのだ。

 きっとあの鍛冶師は、完璧に仕上げてくれることだろう。


 だから期待しているのは、もう一つの頼みごとであり――


「ふむ……鍛冶師殿は期待するななどと言ってはいたであるが……それは無理というものであろう。そもそも、そんなこと本人ですらも信じていなかったであろうに」


 言葉の上では謙遜してみせていたし、あるいは本人もそうだと思っていたのかもしれない。


 だが心の中では、間違いなく彼は自分のことを信じていたはずだ。

 自分ならば、あの剣以上のものを打つ事が出来る、と。


 そう、ソーマが彼にしたもう一つの頼みごととは、いつも使っているあの剣以上のものを作り出してくれ、というものであった。


 そもそもソーマが本当に探していたのは、実のところそっちなのだ。

 確かにいつもの剣の手入れができるような鍛冶師も探してはいたものの……本音を言ってしまうのであれば、あの剣には少々限界を感じ始めていたのである。


 もっともそれを感じ始めたのは、割と最近のことだ。

 少なくとも、学院に行くまではアレで十分だと思っていたのである。


 それが、剣が壊れたわけでもないのにもっと上のものが欲しいと思ったのは……迷宮でそれなりに強力な魔物と戦ったりしたせいだろうか。

 とりあえず、暴走した邪神の力を斬った時には、もっと上の得物があれば、と思ったのは事実だ。

 あるいはそうであれば、あれを完全に押さえ込むことも出来ていたかもしれない。


 もっとも、もしもそこで成功してしまっていたら、ソーマはエルフの森に、というか、魔女の森に行くことはなかった可能性もある。

 その場合、フェリシアはほぼ間違いなく死んでおり……ついでに言うならば、エルフ達もどうなっていたか分からない。


 何となくでしかないが……あれはそもそも、フェリシアが犠牲になれば全て解決した、という話ではなかったように思えるのだ。

 まあ本当に、ただの勘でしかないのだが。

 しかし何にせよ、邪神の力を斬るのに失敗してしまったからこそ、今の結末があると言えた。


 ともあれ、剣がなかったのは悪いことばかりでもなかったが、不足を覚えているのは確かなのだ。

 だからこそ満足のいくような剣を探しており、かといってそんなものがそうそう見つかるわけもない。

 なので鍛冶師の方を探し……それはそれでそう簡単に見つかるとも思ってはいなかったが、都合のいいことに見つかったため、頼んでみた。


 今回のことは、そういうことであった。


「っと、そういえばフェリシアで思い出したであるが……」


 何をと言えば、自分の現状を、だ。

 即ち、宿探しをしていた、ということであり……ついでに言うならば、勝手に剣を頼んでしまったことをである。


 修繕の方は問題ない。

 明日には終わっているとのことだったので、普通に明日取りに行けばいいだけだ。


 しかし新しい剣の方は、成功するか否かに関わらず、一月はかかるとのことだった。

 ただ作るだけならばもっと早く出来るものの、全身全霊をこめ最高のものにしたいため、相応の時間がかかる、と。


 そう言われてしまえば、否やなど言えるはずもないだろう。

 より良いものを手にしたいのは、ソーマも同じなのだ。


 だがそれは要するに、一月ここから離れられないということである。

 勝手にそれを決めてしまうのはまずいだろう。


「ふむ……まあ、いざとなれば剣に関しては後で取りに来ればいい話でもあるか」


 不満はあるが、あれでも十分戦えはするのだ。

 実際邪神の欠片だろうと、不完全ではあるが斬れはしたし、森神相手でも問題はなかった。

 あの剣でも無理となると……余程特殊な相手とでも戦おうとしなければ有り得ないだろう。


 それこそ、前世でのヒルデガルドとか……あとは――


「あるいは、あの森神とやらが邪神の力の欠片を手にしていたら、分からんかもしれんであるな。あれならば、本来の力を出し切れそうであるし……」


 とはいえ、消し飛ばした以上は、それはもう有り得ない事だ。

 考える必要はなく、ならばやはりあの剣でも問題はないということだろう。


 学院にまで戻ってから、あとで取りに来ればいい。

 もっともそうなると、ここまで来るにはさすがに次の長期休暇あたりまで待つ必要があるだろうから、半年ほどは先か。


 随分と先になってしまうものの、仕方のないことである。


「とりあえず、そのことを話してどうするかを決めるべきであるな。……まあ、さすがにここで一月足止めとなると、厳しいであろうが」


 というか、普通に考えれば無理だ。


 宿代などに関しては稼げばいいだけなのだから、そういう話ではない。

 言うならば、自分達の都合以外のことだ。


 何せ一月後となると、学院の長期休暇が終わってしまう。

 ソーマとしてはまあ別に構わないかな、などと思っているのだが、それはあくまでも授業に出なくとも、という意味だ。

 多少の遅れならば取り戻せる自信があるし、そもそも既に習っているので取り戻す必要すらない。


 だがシーラまでそれに付き合わせることはないうえ、何よりもそれではシーラの分まで心配をかけてしまう。

 それはとても、よろしくないことである。


 ついでに言えば、ソーマが無事だということを知らせるのも一月ほど遅れてしまうということであり――


「……ま、さすがにそこまでは駄目であろうな」


 ここまでの時点で、十分過ぎるほどの時間が経っているのだ。

 それにはある程度正当な理由が存在してはいるものの、新しい剣が欲しいから一月ほど街に留まっていました、というのはどう考えても怒られる案件である。

 そこまでは、さすがのソーマもするつもりはなかった。


 となれば、明日修繕された剣を取りに行くついでに、そのことを鍛冶師に話しておくべきだろう。

 金を先払いしておけば、その程度の融通はきくはずだ。


 とはいえそれを話すためにも、まずは宿を探す必要があるのだが……さて、彼女達の方で見つけてくれただろうか。


「別に我輩もさぼっていたわけでは……」


 ない、とも言い切れないものの、こっちでは見つからなかったのも事実である。

 そこを責められてもどうしようもない。


 が、個人的な用件を優先し、鍛冶師に自らの依頼をしていたのも間違いようのないことだ。

 その分の時間を探索に利用していれば、もう少し捜索範囲は広がっていただろう。


「そこをつっこまれないためにも、残りの時間は別の場所を……うん?」


 と、そこでソーマが不意に足を止めたのは、とある音が聞こえたからである。


 そこは路地裏とはいえ、人の気配のある場所だ。

 当然ながら色々な音が聞こえるが……そういうことではない。


 聞き間違いでなければ、それは子供の泣き声に聞こえたのだ。

 しかも――


「ふむ……この声は……」


 ついでに聞こえたのは、これも聞き間違いでなければ、聞き覚えのあるもののような気がした。


 内容はさすがに聞き取れなかったものの……色々な意味で、ここで聞かなかったふりをするほど、ソーマは非情ではない。

 声の聞こえた方の検討もついており、それはちょうど今から向かおうとしていた場所の一つであった。


 目の前の道は二又になっており、それらが聞こえたのは、左側の方。

 迷いなく進むと、声がさらにはっきりと聞こえてきた。


 やはりそれは子供の泣き声であり――


「あー、もー、いい加減泣き止めです! それでもスティナと同じ女ですか!? 情けねえですよ!?」


 同様に、聞き覚えのある声が、そんなことを言っていたのであった。

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