勝負一「弱き者」
翌日
「若!学校ですか?お車用意しますか?」
晶の付き人、伊賀狭五朗。
組の幹部で信頼の厚いいかにも極道ですといった男だ。
なぜかいつも黒いサングラスをしている。
「いや、いい、ところで白河高校はどこだ?」
「へい、・・・え?」
「え、じゃねえよ、場所だ場所」
「知らないんですか?」
「知ってたら聞くか!早く言え!」
玄関でそんなやり取りをしていたら。
「おう晶!学校か」
次男 平助がのんびりやってきた。
「兄さん、丁度よかった、兄さんの行ってた白河高校ってどこだ?」
「あ?しらね」
「おい!一応母校だろ!?」
「思い出すなぁ、学校占拠したとき」
「いってきまーす」
やばい話を無視して晶は家を出た。
丁度門の前ではお手伝いの銀谷さんが掃除をしていた。
「晶?早いじゃないか学校に行くの」
「銀さん、もう9時過ぎだから遅刻だよ」
「違う違う、平助は学校に行ったの2年生の後期からだからさぁ」
アホの兄を基準にして欲しくないと思った晶だった。
「銀さん、白河高校ってどこ?」
「ふぁっふぁっふぁ、兄弟だね〜、平助もそんな事言ってたよ」
「で?行き方は?」
「そうそう、白河高校、何でも合併したそうだと、え〜〜確か〜〜?」
「いいから銀さん行き方は?」
「え?何?あたしゃ聞こえないよ?」
こんのババァ
「冗談だよ、ほれ、地図だよ」
地図かよ。
笑いながら銀さんは晶を送った。
「おいおい、変なやり取りのせいでもう10時かよ」
地図を片手に急ぐ晶、ふと、前方を見ると同じ制服の少女がいた。
「あ?遅刻組?さては不良か?」
不良はお前もなんだが、取りあえず付いて行けば直に付くだろうと後を付ける晶。
前方の少女は何かを呟きながら歩いていた。
そうかと思えば走り出す、だが急に止まる。その場に倒れこむ、
で、また立ち上がる。
いっそのこと救急車を呼ぼうとした晶は意を決して近づいてみた。
「あの〜?」
「あぁぁあああ〜学校に遅れたら名森さんにまた怒られる。お金もピンチだからパシリできないし、どうしよう、・・・休んじゃおうかな?・・・ダメダメダメ!!お母さんが折角の名門校合格だって喜んでいたのに・・・くっ、そうよ、我慢しなきゃ」
「もしもし?救急車お願いします」
「まって!まって!そんな!病院はダメお金ないの!!」
「あ、やっぱいいそうです」
携帯をきる晶。
本当にあせっていたのか息を切らす少女。
少女が晶を見ると驚いた。
「あ、あなたも白雪生なんですか?」
はい?なんですって?
「え?今日が初めての登校?」
「そうなんです」
「白河高校なら合併してもうありませんよ?」
「そのようですね」
「雪城高校と合併したんですけど・・・知らないようですね」
「はい、全く知りません」
確か雪城高校は名門進学校、なんでまたアホの白河高校などと?
「・・・あの〜〜?」
苦悩する晶に少女が声をかける。
「はい?」
「不良・・・ですか?」
「いえ?全然?今日は寝坊です」
「ですよね〜、優しそうですし〜」
内心、こいつバカだと思っていた晶である。
「海京亜鹿といいます」
「三城晶です」
「よろしく〜」
「・・・のんきに自己紹介している場合じゃないと思うんですけど」
「え?・・・ああああ!!学校!!」
「場所はどこです?」
「この先をずっと行くと川があってその川を目印に東へ進んで行けばあります」
「じゃ」
走り去る晶、
「え?え?ま、まってください〜!」
走っていると歩いている同じ制服の白雪生が見えた。
中にはいかにも柄の悪い不良もいれば、別にそうでもない人もいた。
「んだよ、朝から遅刻者続出だな」
自分もその一人だという自覚はないのだろうか。
晶は溜め息をつきつつすぐ見えた川から東へ曲がった。
見事に校門は開けっ放しである。
ゆうゆうと校門をくぐりぬけると教師らしき人がいた。
いかにも体育会系の先生である、竹刀を持って説教をしていた。
「いいかお前ら、学校というものはだな、規則を守って生活する場所であって」
「うっせーよバカ」
「話しタリィ、なに?いい先生気取り?」
「うざい」
ボコボコに言われる教師。
少し唖然としてしまった晶は止まってしまった。
少なくとも教師と言うものは生徒から支持されるもののはずである。
それが、今目の前にいるのは平気で暴言を吐く輩にただ説教しかしていない。
少なからずショックを受けていた晶に教師が気づいた。
「なんだ、お前も遅刻者か?そこに並べ・・・!!!」
晶の制服の名札を見て驚愕する教師、
「み、三城!?し、失礼しました!」
・・・あ?
なぜか怯える教師、晶は兄の平助を思い出す。
「ど、どうぞ行ってください!」
気分が悪くなった。
頭が痛い、その原因はほぼ怒りによるものだった。
並んでいた不良たちの顔が晶を見て豹変した。
その顔は怯えている顔だった。
それほどまでの表情を、今晶はしている。
職員室へ向かった。
入ればなんとなくで場所など分かる。
堂々とプレートまでひっさがっていた。
「失礼します」
そう言ってドアをスライドする。
中では教師たちが忙しそうに動いていた。
かと思えば、窓際に座る暇そうな教師もいた。
すぐに反応したのは眼鏡の女の人の教師だった。
「どうしたの?」
どうやら知らない生徒なのに気づいたようだ。
「え?・・・っと、学年クラスは?」
「1年、クラスは知りません、三城晶です」
「ガタガタッ」
三城という名字に何人かの教師が反応した。
「三城晶君?・・・ちょっと待ってね?」
どうやら俺を知らない、
どうやら雪城高校の教師だと思われる。
成る程、合併したのは本当のようだ。
少ししてビクビクする教師が来た。
「え、えっと、み、三城・・・君だね?」
神経質そうな眼鏡の男。
「き、君は、シ、C組だから」
ドモリ過ぎにも程がある。
聞きたいことは山ほどあるが、どうも聞ける様子ではない。
「誰か案内してくれません?」
その台詞に元白河高校の教師達なら嫌がるはずだ。
案の定伊藤先生という声が聞こえ、
先程の初めて会った女の人の教師、俺を知らない教師が来た。
「どうなってるんですか?」
晶は廊下を歩きながら伊藤先生に聞いた。
「なにが?」
元々マイペースな性格なのだろう、のんびり答える。
「合併なんて、知りませんでした」
「え?そうなの?・・・まぁ、学校に来ないとね」
後で職員室で俺の兄の武勇伝でも聞けば、こんなに軽く話す事もなくなるのだろう。
晶はそう思って少し悲しくなった。
「なんで、白河と雪城が?」
「どっちも国立だからね、やろうと思えばできちゃったみたい」
「そんなに軽くないでしょ」
「そりゃ学力の差があるけど、この学力の差を無くすために合併したそうよ」
「学力の差?・・・それよりもっと大事なものがあるんじゃないんですか?」
「え?」
立ち止まる伊藤先生。
「・・・朝、登校中に雪城生を見ました」
「今は白雪生よ」
「・・・その子、いじめに遭ってますよ」
「・・・そうね、確かに、貴方の様に雪城生だった人は嫌かも知れ」
「僕は、雪城生じゃない、白河生です」
「あら、そうなの?・・・いじめられてたの?」
「・・・いいえ、でも、親友がいじめられていました」
「・・・そうなの、・・大丈夫!先生が守ってあげるか」
「無理ですよ」
伊藤先生の言葉を最後まできかず答える晶。
「・・・本当に守れたんなら、こんな事言いませんよ」
どうやら1−Cにたどりついた様だ。
まだなにか言いたげな伊藤先生を残して、
そっけないお礼を言って教室へ晶は入った。
まず入って驚いたのは、
教室にある見えない境界線だった。
黒板に近い所にいる生徒と後ろに溜まった生徒、
客観的判別をするならば、黒板側が良い生徒、後ろが悪い生徒、
その中心では、早くもいじめらしき行動が見える。
女子の集団5人と中心にいる女子生徒。
その中心にいる人物を、晶は知っていた。
亜鹿だ。
「ねぇ、マジ困ってるからさぁ」
「いいじゃん、五千円で許してあげるよ」
「すいません、本当に持ってないんです」
「だからー、親からもらえって言ってるでしょ」
「なに?名森さんの頼み、聞けないの?」
ふと、晶はこの光景を見たことがある気がした。
同じような状態で、
誰かがいじめられていて、
そうだ、裕がいじめられる原因になった、あの事件の時と、似ている。
「だから、本当にないんです」
「あー!うざったい!いい加減にしろよ海京」
リーダーらしき女が亜鹿を睨んだ。
髪の長い、顔だけは可愛い女子だった。
「また屋上でリンチにあいたいの?」
リンチ、集団で一人の人間によってたかって殴る、蹴るの暴行を加える事。
その台詞に、晶はキレた。




