お役御免
「くそっ。」
X氏は勤め人。しかし近頃ノルマが達成出来ていない。しかし、それはX氏だけでは無い。同僚全員がそうだった。
「やあ、お疲れ様。まあそうカッカッするなって。いつもの事じゃないか。」
同僚のY氏がX氏を労った。
「Y、よくそんなに暢気だな。俺達の業界はもう政府のせいで壊滅だ。みんなを見てみろ。みんなノルマの達成率はゼロだ。」
「だからこそじゃないか。もうどうにもならん事にどうして腐心しないといけないんだ。」
「馬鹿。つまりこの会社もう直に潰れるってことじゃないか。でも俺達は転職できるか?この時代に俺達の技術が何になる?」
「ハハハハ。俺達が失職してもその政府様が俺達の面倒をちゃーんと見てくれるさ。気楽になれよ、X。じゃあな。」
Y氏はそう言って帰っていった。
「そうだよX。Yの言う通りさ。そんなに悩むなよ。」
周りの同僚が口々にいう。
「もう俺達は時代の流れからお役御免なのさ。」
「俺達がいなくてすむなんて、最高の世の中じゃないか。」
X氏はみなを見回しこう言った。
「お前らには、プライドはないのか。」
一瞬、静寂が訪れた。
「はい、みんなご苦労さん~。みんなに大事な話がある。」
社長が大声で部屋に入ってきた。
「みんないるな?」
「社長、Yの奴は帰っちゃいましたよ。」
「なんだって。まだ定時前じゃないか。…まあ、いい。奴のことだから問題ないさ。」
「社長。大事な話ってもしかして。」
「そうだ。みんな知っての通り、我々にはもはや存在意義は無くなった。みんなのノルマ達成率はゼロに等しい。しかしそれを責めるつもりもない。先月の例の法の施行のせいだ。かなりの影響はあると思ったがここまでとは。そこでだ。まだ余力のあるうちにカタをつけたいと思う。」
社長は早口に一気に話した。
「社長、やっぱりですか。」
「そう、この会社は今月いっぱいでおしまいだ。今月の給料は払うし、少ないが退職金も払える。」
また一瞬、場は静かになったが、空気は重くならなかった。みんなこうなることは知っていたからだ。
「明日から回りに行かなくていい。転職先を見つけることに懸けてくれ。すまんが、私の力ではそこまで面倒を見てやれなかった。」
社長は終始にこやかに、いつもの社長だった。
「社長は、悲しくないんですか。三代続いた会社でしょう。」
X氏はそういった。
「悲しくないわけじゃないが、これでいい。うちの社訓を思い出してみろ。我々の役目は終わったんだよ。いい時代になったじゃないか。」
X氏はうなだれた。
「さ、みんな定時だぞ。帰った帰った。もう報告書なんて入力しなくていい。紙の無駄だ。」
「くそっ、俺は誇らしかったのに…。」
X氏は道端の椅子に酒と共に座っていた。
「時代の流れか…。でも転職なんて無理だ。この世の中に。」
X氏は塵一つない綺麗な街を眺め、霞のない綺麗な夜空を見上げながら酒を飲む。社訓を思い出しながら。
「お、Xじゃないか。」
Y氏がのそっと通りかかった。
「あ、Y。おい聞いたか…」
「聞いたさ聞いた。なーに、贅沢を望まなきゃ働かなくても生きてけるさ。でもまあ、俺は働くけどな。」
「そうか。」
「お前もそんなしょげるなよ。生きていけるさ、安心しろ。じゃあな。」
Y氏はそう言って去っていった。
「…確かに生きていけるが…そうじゃないよ…俺は…この道に生きていこうって、会社に入った時に決めたんだよ…。」
「クッソー!」
X氏は持っていた酒缶を地面に投げつけた。その刹那、地面から市の衛生局管轄のお掃除ロボが出てきて酒缶を回収し、こぼれた酒を綺麗に拭き取って、地面を洗浄して、乾かしてそして元の場所に戻っていった。5秒もかからなかった。
「ゴミの無い世を目指して…ゴミの無い世を目指して…。俺ら街路清掃員はもう、お役御免なのか…。」
X氏は懐からカッターを取り出して一思いに首を切りつけた。そのまま道に倒れこみ、暫くして失血死した。その刹那、地面から…。