黒い猫
「また、つまらないステータス引いたね」
「うわあ!」
(僕の部屋のベットに見知らぬ黒い猫がいる。ええっと …なんで…)
「おすすめは賢さのステータスかな。狙ってみてよ」
「黒い猫が喋るとか絶対にやばいやつだよ。これ…」
(おかしい。おかしい。おかしい。昔見た再放送のアニメにこんなキャラいたけど…)
「ああ、美少女戦士系のやつね。私も見たかも」
黒い猫は顔を毛づくろいしながら、あまり関心なさそうに答えた。
(ってか、アニメ見るんだ…)
「……」
「……」
黒い猫は毛づくろいに余念がない。
「アニメ好きなんですか?」
「前は見たけどね、野球の方が好きかな」
(どんな猫だよ…)
「あのう…」
「おお、そうだった。この後、涼子ちゃんとこも行かないといけないから手短に話すよ」
(あれ、涼子って僕の知ってる涼子じゃないよね…)
「そうだよ」
「勝手に心読まないでください!」
黒い猫は心を読む事が出来るようだ。
(なんでもアリかよ…)
「人間は面倒くさいなあ」
「心読む猫の方が面倒くさいよ!」
黒い猫は心底嫌そうな顔をしている。
(腹立つ…)
「で、あなたは誰なんですか?」
「んー、君達の用語から適切な意味する単語を選ぶとすると…。神かなっ!」
黒い猫は片方の目を閉じて、小首を傾げて決めポーズを取っている。
「あーでもこれ2回説明するの面倒だなあ、涼子ちゃんもここに呼ぼうか」
「え…」
僕が仕方なくベットにあるモバイル端末を取ろうと身を乗り出すと、上から暖かくて柔らかいものが降ってきた。
後頭部に降ってきた双丘を掻き分けて顔を出すと、やはりと言うかラッキースケベフラグ回収と言うか、そこには半泣きの涼子さんがいました。しかも、お着替え中だった模様です。
「ぎゃああああ」
「うわああああ」
涼子さんが放ったアッパー気味の掌底は、僕の耳から顎にかけてのウイークポイントへ見事にクリーンヒットし、僕は後方の壁まで綺麗な放物線を描きました。
「あらやだ」
黒い猫は片手を目に当てて、あちゃーのポーズで僕に追い討ちを加えている。
ここはリアルの世界なので、痛みを軽減する仕組みは無く、僕は何秒かのスタンに陥った。スタンから復帰した頃には涼子は僕の布団にくるまっていた。
(涼子さん、目が怖いです…)
「じ、事故だよ。この猫が呼んだんだ。僕はその…」
「じー」
「にゃー」
「た…頼むよ、なんで急に猫のマネをしてるのさ」
「じー、こうちゃん、猫がおしゃべりする訳ないでしょ」
涼子さんの冷ややかな目線が僕を串挿しにする。
(ここは、黒い猫に状況をうまく説明してもらわなければ…)
「わかった…後で、煮干し買ってくるから」
「プリンがいい!」
黒い猫は片方の目を閉じて、小首を傾げて決めポーズを取っている。
「しゃべたあああああ」
飛び上がった涼子さんから布団が落ちて、本日2回目の下着姿の涼子さんが現れた。
「ばかああああああ」
本日2度目のホームランは、これまた見事な放物線を描いて壁に激突した。僕が再びのスタンから目覚めたのは、数分くらいだろうか。涼子は黒い猫からある程度の説明を受けて、落ち着いたようだ。ひざの上で、黒い猫を撫でている。
涼子のポテンシャルはすごい。海を越えた先のメジャーな野球リーグで、殿堂入りスラッガーとして名前を残しそうなくらいのポテンシャルである。
その後、涼子が僕の服で着替えたいというので、僕は近くにあるコンビニへ足を運び、プリンを買いに行かされた。僕は皿の上に逆さにしてプッチンするプリンを2個と野菜ジュースを購入。煮干しよりもプリンを選択した黒い猫用と、見てたら食べたくなった自分用、野菜ジュースはスラッガー用である。家に戻ると、涼子の着替えは終わっていた。僕のシャツと短パンを履いている。下着姿にはびっくりしたが、これはこれでざわっとする。なぜにざわっとしたのだろうか。テレビドラマのよくあるシーンで、彼氏のシャツを着た女の子がエッチな展開に…と、ざわっとした正体について考察していると、黒い猫はプリンを2つも食べ、満足したのか窓からヒョイっと出て行った。
「おいこら猫!」
「クロちゃんばいばーい」
手を振る涼子さんの手の甲には、バスト+5と書かれていた。神スキルの発動に僕は両手を合わせた。
2017/2/2 誤字修正