リリス
鳥かごには格子状の扉が付けられ、鍵穴が付いている。開錠レベルは3、それほど高くない。
盗賊は宝箱や扉の鍵を開ける事ができる。このスキルをキッピングと言い、盗賊ギルドに登録すれば誰でも使うことができる。
開錠レベルが高くなると、成功する確率が低くなる。何度でも挑戦できるが、開錠に失敗した場合は、両腕に麻痺のステータスが付与されてしまう。
麻痺の継続時間は30秒程だが、モンスターに発見され易くなるペナルティーが発生する。
「よかった、僕でも頑張れば檻から出してあげられると思います」
「こう様、そのお気持ちだけで充分です。この屋敷の主はハロルドという、魔物学者です」
「魔物学者?」
「彼の目的は、スキルドレインを使い、私の持つスキルを吸い取るため…」
こうはキッピングのスキルで開錠を試みたが、失敗。バチンと大きな音と共に、鍵穴から電撃が走った。
「こう様!」
「ごめん、失敗しちゃった。次は成功させるからね」
こうはリリスに心配かけまいと、笑顔で切り返し、ビリビリと麻痺で動かなくなった両腕を背中に隠した。
キッピングのコツは、心を乱さない事だ。こうはリリスの魔物学者に囚われているという言葉に、動揺してしまった。
(魔物?リリスさんが?)
「キュロロロロロッロ…」
二人がいる部屋に、半透明で白く、顔は目の玉が無く、あらゆる皮が垂れ下がり、とにかく一番出会いたくないモンスターが入ってきた。
「え!!見回りってゴースト!」
こうは両手の麻痺が解除され、剣を両手で構えた。
(カッコ付けて、助けるとか言って、やられる訳には行かない。でも、ひー、顔怖い!)
「うおりゃー!って、アレ…」
こうは両手の剣で、ゴーストに攻撃を試みたが、剣はゴーストをすり抜けてしまった。
「こう様!ゴーストには無属性攻撃が通用しません!」
「うそー!」
ゴーストは浮遊して、右手を大きく振りかぶり、こうの背中に爪攻撃が命中した。
「キュローーー」
こうのHPは一撃で半分になった。こうの始まりの街で買った簡素な防具を、ゴーストは簡単に切りつけた。
「こう様!差し上げた指輪を使って下さい!」
「わかりました。えいっ!」
指輪が眩く光ると、装備していた剣に光属性が付魔された。
「この指輪、エンチャントのマジックアイテムだったのか、これなら…」
「ギュオー」
こうはゴーストへ光属性攻撃をヒットさせ、ゴーストは一撃で蒸発した。
その後、指輪は役目を終えて、砕け散った。
「よし!」
「こう様!すごいです!」
「ごめん、指輪を壊してしまいました…」
「いえ、こう様に使っていただいて、指輪も喜んでいると思います」
ーパチパチパチー乾いた拍手をしながら、真っ赤なタキシードを着た、白髪の伯爵姿の男が部屋に入ってきた。
「コングラッチレーション!!君!すごいじゃないか!」
白髪の伯爵は40台くらいの年齢で、興奮気味に近づき、派手なジェスチャーで喜びを表している。
「はっははー、まさかこんなガキの為に、くっくっく、光の指輪の封印を解いてくれるとはね」
「光の指輪の封印?どういう事ですか!」
こうは嫌な予感がして、伯爵姿の男を睨む。
「いやー、その指輪には、強力な防御壁で守護する魔法が込められていてね。手を焼いていたんだよ」
「そんな…」
「さあ、君はお役御免だ。ご退場願おう」
伯爵姿の男は、腰に差したサーベルを引き抜いて、こうに一礼した。
「やめて下さい!力はあげます。その人は助けて下さい」
突如、ガシャンと窓ガラスが割れ、少女と大男が降ってきた。
「話は大体…、聞かせてもらった。ヒーロー見参と行こうじゃないか!」
小さい少女が派手に登場し、決めポーズを取っている。一方、大男のイワオは着地に失敗したらしい。