価値のあるもの
こうは12時頃にベットに入り、眠りにつくとスピリットクラスタにログインした。前回ログアウトした場所は、盗賊ギルドのある村の宿屋だ。
りょうが盗賊ギルドに入りたいと駄々をこねるので、今日はこの村まで案内する事になっている。
りょうとは始まりの街で落ち合う約束をしたので、これから始まりの街に向かわなければならない。
「こう!何処行っていたのだ!」
こうが振り向くと、背後に黒の革の軽装備に包まれた小さなお頭が腕組みをして立っていた。
「わ!ビックリするじゃないですか……」
「馬鹿者!盗賊にとって隠密は基本中の基本だ!簡単に背後を取られるでない!」
「いやいや、昨日入ったばかりだよ…」
こうは手厳しい言葉にちょっとムっとしたが、自分よりも小さな女の子に大人気ないなと考え直した。
「仕方ない鍛えてやる。ワシの教育方針は実践あるのみだぞ」
お頭がニヤリと笑い、こうはその笑顔でゾワッと身の毛がよだった。
「イワオ出てこい!」
「ハイ!」
お頭の斜め後方に2メートルくらいの大男が突然に現れた。手足は短くて横幅が大きく、こうは壁みたいだと思った。
「その新人を担いで持ってこい!」
「ハイ!」
お頭の命令で、イワオと呼ばれた大男は軽々とこうを持ち上げた。
「いやいやいや、今日僕は予定があああああ」
「うるさい!いくぞ!」
イワオは喚く新人を担いで、お頭の後を追って盗賊の村を後にした。
ーーーー
お頭とイワオは、盗賊の村から南に進んだ。道なき道をかき分けて進み、湖の湖畔にある大きな屋敷までくると足を止めた。
「ここだ。あの木から屋根に登るぞ」
「ハイ!」
(もう、こうなったらササッと済ませて始まりの街に行かなきゃ。りょうに怒られる…)
こうは腹をくくって、お頭の言う通りに屋根に登り、屋敷の一番てっぺんの屋根まで登った。屋根には大きな煙突がある。
「よし、行ってこい。一番高そうな物をとってこいよ」
「わかりましたよ…行きますよ…」
煙突は、こうの両手を伸ばして煙突の端に手を掛けた。中を覗くと暗くて先は見えない。
「イワオ手伝ってやれ」
「ハイ!」
イワオはこうを無理やり持ち上げると、そのまま煙突の中に落とした。
「ぎゃああああああ」
ズドンと音をたてて、灰の中に落ちた。こうが落下した先は、乾燥した木々を燃やして使う暖炉になっているようだ。
「イタタタ」
ゲーム内なので落下した痛みは、バーチャルなフレーバー程度だ。現実世界でのくせであり、こうの気のせいである。
暖炉から部屋の中に入ると、大きめのテーブルが1つと椅子が8脚、ダイニングルームのようだ。
(よかった。誰もいない。この部屋には…価値のあるものはなさそう)
こうはダイニングルームから静かに扉を開け、廊下に誰もいない事を確認し、その隣の部屋へ入る事にした。
ダイニングルームの隣の部屋は物凄く大きく、天井も吹き抜けていて、巨大な空きスペースとなっていた。
「あなたはだれ?」
(しまった!見つかった…)
声が聞こえた方を見上げると、大きな鳥かごが吊り下げられていた。
よく見ると、鳥かごの中に女の子が入っている。
天井のアンカーから鎖で吊り下げられた鳥かごは、機械で鎖を巻き上げて吊るす仕組みになっている。
こうは機械のレバーを操作して、鳥かごを床に降ろした。何も考えずーもっとよく見てみたいーという好奇心で機械を操作していた。
(大きな鳥かごに女の子が囚われている。こんなに綺麗な人が…綺麗だから?)
「ぼくはこうです。ええと、怪しいものではなく…。いや、実際怪しいものですが、敵ではないと言いますか…なんて言えば……盗賊です…すいません…」
「ふふっぷぷぷ…っ」
「あはは…」
「こう様ですか、私はリリスと申します」
始めは警戒していた少女は、必死に話す少年の態度で警戒を解き、こうのそばまで歩み寄ってリリスと名乗った。
こうは彼女が話す言葉の音色が特別なものに感じた。暖かくて安心する。涼子や里美と話す時とは別の…何かを感じた。
「どんな御用でいらしたのですか?」
「ええと、この屋敷の価値があるものを盗む為にきました」
「ふふっ」
リリスが見せる笑顔が、こうには宝石がキラキラ飛び散っているように見えた。こうはその笑顔で自分も嬉しくなり、少し恥ずかしく笑った。
「こう様は正直者なのですね。久々にこんなに楽しく、人とお話しした気がします。ここには、もうすぐ見回りがやってきます。あの…価値あるものでしたら、こちらでいかがでしょう?」
少女は身につけていた指輪を外し、格子の間から少年に指輪を手渡した。
「そんな…もらえません!」
指輪は質素な花かざりの細工が施され、煌びやかではないが、年代物のような質感があった。少女が大事にしていた事がうかがえる。
「私にはもう必要のない物なのです。頂いてもらえると私も嬉しいのです」
リリスはこうが戻した手を優しく握り、こうは手渡された指輪を見つめた。
「さあ、早く見張りがやってきます。お逃げください。1階の厨房の奥に地下へと続く道があります」
「…」
リリスに言われた通り、こうは部屋を出て階段を見つけて、廊下を歩いた。
(僕には彼女を助けられない…師匠のようなレアなクラスでもないし、武器もお店で買った普通のものだ。涼子のような勇気や才能も…僕には無い…)
手渡された指輪をもう一度見つめて、ーー価値があるものーーという言葉を呟いた。
(価値があるものって、なんだろう。綺麗な宝石?強力な魔法を閉じ込めたグリモア?価値ってなんだよ…)
「僕が一番大切なものってなんだ!」
少年の自問自答の最後は叫んでいた。
「あの…やっぱり、あなたを盗んでもいいですか?」
部屋まで戻った少年の言葉に、少女は目を潤ませた。




