隠し通路にて
「そうだよ。いるじゃないか!このゲームには全てを知る賢者が!」
「ああ、そんあ設定ありましたね。序盤のストーリーで語られない裏設定なんかを教えてくれる人のはずが、バグでチンプンカンプンな事しか喋らない…みたいなキャラが居ましたね」
「街の住人と同様に賢者にも固有の意思が宿ったとすれば…もしくは…」
師匠は片手をあごに当てて、牢獄内をブツブツ言いながら回りだした。
「よし、善は急げだ!いくぞ!」
「いやいやいや、僕の拘束時間まだ終わってないのですが…」
「私は終わった。大丈夫だ、脱獄しても大罪人になるだけだし」
「いやですよ、街に入る度に衛兵と追いかけっこじゃないですか」
衛兵はHPという概念がなく、ひたすらに犯罪者を監獄に入れるロボットに近い。もちろん衛兵を倒すことは不可能で、捕まらないように逃げるしかない。
そのため、犯罪を繰り返すプレイヤーは、昼間堂々と街の中を歩けないようになる。
「ん?」
不意に足元で、ゴゴゴという音がした。よく見ると、床石が綺麗に正方形の形で切れて浮き上がっている。
「おーい!こう、助けに来たぞー」
「何この可愛い物体は!!」
床石がズドンとひっくり返り、中から盗賊ギルドの少女なお頭が出てきた。精度の高い少女センサーを持つ師匠は「ピコン!」と反応した。
「抱きしめてもいい?」
「ななな、なんだお前は!やめろ近づくな!」
師匠はじわりじわりとお頭との間合いを詰めた。ガバッと両腕で飛びかかると、お頭は見事にかわして、こうの背後に隠れた。流石に盗賊ギルドのトップ、素早い。
「ダメですよ師匠、衛兵が飛んできますよ」
「ぐぬぬ…」
師匠は少し冷静になって、諦めたようだ。お頭はこうの後ろで怯えている。
「ええと、盗賊ギルドのお頭です。こっとは友達の師匠です」
こうは、お互いに紹介してみた。
「なに!ギルドマスターなの?入ろうかな?」
「ダメだ!お前は危険だ!絶対に入れないぞ!!」
師匠が怪しく笑ながら話すと、お頭は完全に拒絶を示している。
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「こんな隠し通路があったんですねー」
「えっへん!どうだ!すごいだろう?」
お頭の話によると、港町の監獄の下と盗賊のアジトまで隠し通路が繋がっているらしい。
師匠は拘束時間が過ぎているため脱獄する必要はないが、隠し通路でテンションが上がったのか、同行している。
いくつかの街の監獄には隠し通路があり、拘束時間を待たずに脱出できる。脱獄の瞬間を衛兵に気づかれないので、犯罪としてカウントされていない。
隠し通路は、盗賊ギルドのような大きな洞窟になっていて所々に水が流れている。横道も多く迷路になっていて、お頭の道案内がなければ迷子になるだろう。
洞窟内は暗く、お頭のランプと師匠の魔法で足元を照らしながら進んでいくと、同じような明かりが近寄ってきた。
「ジットか?遅かったな……誰だ、お前?」
「あなたがお頭さんですか?探しましたよ」
現れたのはジットを引きずっている、司祭ラギだった。