港町の先客
「はあ…、ほんとに帰りたい」
ここは盗賊ギルドがある村から南に少し下ったところにある、ミューという港町だ。
こうは両脇の屈強な衛兵によって、この港町の牢獄に輸送中である。
同じ盗賊ギルドのジットと、この港町にある貴族の別荘に進入し、開始早々に衛兵に捕まった。
ジットは上手く逃げたが、こうには衛兵を振り切る能力はなかった。
「あれ?こうも捕まったのか」
「師匠!」
こうが放り込まれた牢獄には1名の先客があり、その人物は師匠だった。
「死んでるじゃん、何やったの?」
「師匠聞いて下さいよー」
こうは死亡状態なので、会話は出来るが身動きが出来ない。そのため、今は牢獄内の床石でうつ伏せの状態のまま話している。
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「それで盗賊ギルド入ったの?こうは相変わらず人がいいなぁ…」
こうは師匠にこれまでの経緯を説明した後、死亡状態の復帰時間である5分が経過して起き上がった。
「師匠は何をやらかしたんですか?」
師匠は牢獄内に1つだけある簡素な木の椅子に座っている。こうはサービスオープンして数日なのに、見た事もないレアな装備を身に纏う師匠に少し引いた。
「ものすごく可愛い少女がいてな。つい抱きしめてしまった…」
「NPCへのハラスメントですか…」
ゲーム内のキャラクターに対して、如何わしい事をするとハラスメント行為とみなされ、こうの「権限のないエリアへの侵入」と同様に処罰される。
「師匠、変な事に気づいたんですけど…」
「なんだ?」
「このバージョンアップされたスピリットクラスタのNPCおかしいと思いませんか?」
こうはゲーム内で起こった連日の出来事をゆっくり思い出しながら、師匠に問いかけた。
「それ!AIが高度する過ぎるというか、ちゃんと一人一人に意思があるように見える」
師匠は少しだけ興奮気味に、椅子から立ち上がった。
「今回捕まったのも、実はその実験をしていたのだ!」
「ホントですか?怪しいなあ…」
(師匠の小さい女の子好きは、相変わらずだなあ…)
「真面目な話もしかしたら、AIじゃないのかもしれない…」
「え?AIじゃないなら、なんなのですか?」
「わからない…」
(師匠でもわからない事あるんだな…)
「んー。例えば、このゲームの運営っとか、ゲームマスターに連絡できれば…教えて貰えたかもしれないですよね。会社潰れたから連絡取れないでしょうけど…」
「それだ!」
師匠は「よくやった」と言いながら、こうの頭を撫で回す。
「そうだよ。いるじゃないか!このゲームには全てを知る賢者が!」