プロローグ
「ちょっと、こーきー!またこんな所にいる」
20XX年5月、幼なじみの涼子に無理やり誘われて始めたゲームに僕はインしている。
ゲームの名前は「スピリットクラスタ」発売前の前評判では莫大な予算が注ぎ込まれ、大ヒット間違い無しとされたが、サービス直前での多数のバグ、ゲーム運営側のやる気のない姿勢などが大きく取り上げられ、言うならばスタートダッシュでずっこけてしまった。
ここまでは良くある話?だが、加えて出現するモンスターがリアルという問題が追い討ちをかけた。虫系や爬虫類系、アンデット系はプレイヤー間で最も遭遇したくないモンスターとされ、そのため、リアル女子プレイヤーが激減、つられて女子目当て男子も激減、男子目当て男子も激減…となってプレイヤー人口は目に見えて少なくなった。
サービス開始から2年が経った今でも当時の解消されていないバグがあるが、サービス自体は何とか続いている状況である。
「ちょっと、聞いてるの!」
「いたたたたた」
涼子は明るくて人当たりが良いが、僕に対して少し暴力的だと思う。
「そんなにツネらなくて良いだろう?」
「ごめんごめん、聞こえてないと思ってね」
もちろん涼子には悪びれる素振りはない。
このゲームにはプレイヤー間の接触も低レベルで再現される。リアルで換算すると1/100くらいに設定されているそうだ。思いっきりぶんなぐっても、子猫に噛まれる程度が上限とされているので、実はそんなに痛くはない。
このゲームは去年「マインドボックス」なるベンチャー企業に買い取られ、新しいゲームとして作り変えている。マインドボックス社は、最後の生き残りのプレイヤーを対象に招待状を送り、現在改装中のゲームのベータテスターを募った。無料で作りかけのゲームに招待して、ゲームの不具合などをテストする目論見である。
僕たちにも同様に先月招待状が送られた。涼子と二人で生まれ変わった「スピリットクラスタ」にログインし、今は街中の図書館で本を読んでいる僕に涼子が絡んできた所である。
「ねえ、いくら本が好きだからって、ゲームの中まで読まなくてもいいんじゃない?」
「りょうには分からないよ」
「むむ」
涼子のキャラクターネームは「りょう」であり、僕のキャラクターネームは「こうき」としている。そのまま名前の光輝から取っている。お互いひねりは無い。
<システムアナウンス>
スピリットクラスタにログイン中のベータテスターの皆様、大変申し訳ありません。
これから緊急のアップデートを行います。速やかにログアウトをお願いします。
繰り返します。スピリットクラスタに…
「ぎゃーログインしたばっかりなのにーもー」
「仕方ないね。ログアウトしよう」
悔しがる涼子を尻目に光輝もログアウトすることにした。
ーーーーーーーー
「あれ?」
ログアウトした自分の部屋で、僕は自分の体に変な違和感を感じた。
「ん?身長+10?なんだこりゃ?」
右手の甲に身長+10と書かれている。擦ってみるが、消えないようだ。
「まさか、まさかねぇ…」
僕の家には身長を測る台みたいなのは無いので、母親の部屋から裁縫用のメジャーを探して、メジャーの橋を足で踏んで何とか身長を測ってみる事にした。
「10cm伸びてる気がする…」
2017/2/2 誤字修正