09:ギルドと魔道士様
第9話です。
翌朝になると、魔力がだいぶ回復したようです。
これならヒールも使えます。レド様の腕は大丈夫でしょうか……
「リズ、ちょっといらっしゃい」
ディア様が呼んでいます。どうされたのでしょう?
「ディア様、お呼びですか?」
「ちょっとここに座りなさい」
そこには大きめの鏡が置いてありました。私の姿とディア様の姿が映っています。
「せっかく綺麗な髪してるんだから、少しくらいお洒落しましょうね」
ディア様は櫛を取り出すと、私の髪の毛を梳いてくれました。
小さい頃お母さんに梳いてもらったときを思い出します。
「リズの髪の色は栗色なのね。この辺りではあまり見ないけど、綺麗な色だわ」
「ありがとうございます。でも、ディア様の金色の髪の方が素敵です。髪の色はたぶん……お母さんに似たんだと思います……」
少しお母さんのことを思い出してしまいました。もう涙は出し尽くしたはずだったのに、目から勝手にポロポロと零れてきます。
「リズ……ごめんなさい。無神経な事を言ってしまったわ……」
「……いえ、ディア様も同じなのですから、私が弱いだけのことです」
こんなことで悲しんでいてはディア様を守れません。私は目を袖でさっと拭います。
ディア様は、私の髪の毛を綺麗に結ってくださりました。少し伸びてきていたので、ずいぶん動きやすくなりました。
王家の方にこんなことをしていただくなんて、なんだか申し訳ないです。
「ありがとうございます、ディア様」
「いえいえ、どういたしまして。私が好きでした事だから気にしないで」
そう言って、ディア様は微笑みました。
ディア様は本当にお優しいお方です。この方と話していると温かい気持ちになれます。
ご自身もお辛いはずなのに、そのようなところは微塵も見せようとしません。
本当に強い方というのは、きっとディア様のような方の事を言うのだと思います。
「ディア様、私もっと強くなります……ディア様をどんな危険からも守れるように強くなります!」
「リズ、ありがとう。でも、無理してあなたが危険な目にあったら悲しいわ」
それは難しい注文です。私はディア様の為だったらどんな危険でも冒すつもりです。
その結果ディア様が悲しんでしまわれるのは困りますが、あくまでディア様を守る事が私にとっての最優先事項なのです。
「そろそろ下に行きましょうか。ロデオ達が待ってるわ」
「はい、ディア様」
私達は下の階へと降りていきました。
◆◇◆◇
「ディア様、昨晩は良く眠られましたか?」
「ええ、ロデオとクルスは見回りしていてくれたのよね。ありがとう」
ロデオ様もクルス様もあまり眠れていないようです。それでも、これだけしっかりとしていられるのは、本当に凄いと思います。
私は魔力の枯渇があったからとはいえ、そのまま眠りについてしまい恥ずかしい限りです。
「リズさん、今日は御粧しされたのですね。見違えましたよ」
「ありがとうございます、クルス様」
クルス様に褒めていただきました。ディア様に結っていただいたお陰です。
ロデオ様がクルス様に何か内緒話をされています。何をおっしゃっているのでしょう?
「ところでロデオ様、レド様はどちらにいらっしゃりますか?私の魔力が回復したみたいですので、ヒールをかけさせていただきたいのですけど」
「レドなら昨晩ギルドにいたヒーラーに治してもらったよ。今は武器を揃えに行ってる」
「ギルド……ですか?」
この世界には、ギルドと呼ばれる冒険者や傭兵が集まる場所があるそうです。
そこには様々な特技を持った方々もいらっしゃるとか。
「実は、そのギルドで冒険者を一人雇った。魔物が思った以上に活性化しているようだし、リズ一人にこれ以上負担を掛けるわけにはいかん」
「そんな、私なら大丈夫ですよ」
「ディア様を守りきる為でもある。それに雇ったのは魔道士だ。
リズにはこれまで通りヒールを任せることになる。そろそろその魔道士も来るはずだが……」
魔道士様はまだ来ていないようです。周りを見てみますが、そのような方は見当たりません。
「もしかして、前金だけ受け取って詐欺だったのでは?」
「そんな馬鹿な!いや、たぶん大丈夫だと思う……」
クルス様の言葉に、少し戸惑いを隠せないロデオ様。
その時、宿の扉が開きました。
「あー、ごめんなさい……ギルドの方に集合だと思ってたから遅れちゃって……」
ローブを着た綺麗な女性です。この方が魔道士様でしょうか。
「遅い!金を持ち逃げしたかと思ったではないか……」
「ちゃんと仕事はするからさ、勘弁してよ」
魔道士様はペコペコと頭を下げています。見た目は綺麗なのに、何だか残念な人です。
「あたしはメアリ。こう見えて中級魔法まで使える魔道士でーす。よろしくね」
メアリ様は私に向けて手をさし出してきました。
ああ、握手ですね。私もメアリ様の手を握ります。
「私はリズって言います。皆様のヒーラーをさせていただいております。よろしくお願いいたします」
メアリ様は私をじっと見ると、ニコッと笑ってくれました。
私もできる限り笑顔で返します。ニコッ……ちゃんとできていますか……?
「ロデオさん。こんな小さくて可愛い子、危険な目にあわせちゃ駄目だよ?」
「お前のがんばり次第だ」
コルンへの道中に新しく魔道士のメアリ様が加わりました。 これで、魔物との戦いもスムーズに進めることができそうです。
そうこうしているうちに、レド様も新しい武具を調達して戻って来ました。
準備も整いましたし、いよいよコルンへ出発です。
お読みいただきましてありがとうございます。