61:フォス神
第61話です。
真っ白な世界です。
ここに神様が居るのですね。なんだか緊張します。
『着いたぞ』
エプリクスは降り立ちました。
精霊と神様の棲む世界……何も無い場所なのに、足を着くとふわふわとしています。
『皆さん、よくやってくれましたね』
優しい声が響きました。
これが、神様の声…………私は、この声を知っている。
前世で私に童話の世界のお話をよくしてくれていた、あの声です!
『旅のコオロギさん!?』
思わず大きな声で叫んでしまいました。
エプリクス達が、変な顔して私を見ています……でも、間違い無いです!この声はコオロギさんです!
『優しいアリさん、小人のお家は見つかりましたか?』
『やっぱり!コオロギさんです!』
『リズ姉ちゃん……大丈夫?』
こんな所でコオロギさんと再会できるなんて思いませんでした!
コオロギさんはこの世界の神様だったのですね!
『今はリズでしたね。自己紹介が遅れました。私はこの世界の神……フォス神と人は言いますね』
『私はリズです!』
『知っています』
コオロギさんだ……コオロギさん!
なんだか嬉しくなっちゃいます!また素敵なお話を聞かせてほしいです!
『……さて、ここへ呼んだのは他でもありません。新たな精霊の誕生の祝辞と、世界を救ってくれたあなた達へのお礼を言う為です』
神様の姿が現れました。とても綺麗で優しい表情をした男性です。
アルネウスも綺麗な男性ですけど、神様はそれ以上に光り輝いて見えます。
『では、タースよ。前へ』
タースは神様の前へ歩いて行きました。緊張しているせいか、少しぎこちない動きです。
『あなたは本意では無かったとはいえ、これまで魔王として君臨してきました。その罪を洗い流す為、新たに闇の精霊として世界の復興に力を貸して下さい』
『はい!がんばります!』
『闇の精霊チェムルタースに祝福を!』
神様の声にこたえるように、何も無かったこの場所に花が咲き乱れ、あっという間に美しい花畑へと変わりました。
タースが私の所へ駆け寄ってきます。
『リズ姉ちゃん、僕がんばるよ!』
『うん、タースならきっと大丈夫!』
タースを抱えて、花畑の上をクルクルと回ります。
なんて楽しいんでしょう。タースも楽しそうに笑っています。
そうしているうちに目が回って、花畑の上に倒れてしまいました。
『綺麗……』
ふかふかの花畑の上で、私は空を見上げました。
透き通るような白色は、果て無く続いているように見えました。
『リズよ』
『はい!』
神様が呼んでいます。
いつまでも寝転がっていてはいけませんね。
『よくやってくれましたね。あなたのお蔭で世界は救われました』
『私なんて、そんな大したことは……精霊達が頑張ってくれたんです!』
『今までの歴代のメディマム族達……勇者でさえも、ここまで精霊達と心を通わせた者など居ませんでしたよ』
神様は優しく微笑んでいます。精霊達も私を見て微笑んでいました。
『あなたを選んで良かった……少しおっちょこちょいな所はありましたが、とても素直で優しい心を持っていましたね』
おっちょこちょい? 私は誰よりも働き者の働きアリだったと思いますよ?
『仲間の死骸を一生懸命運んでいるあなたを見た時は、思わず吹き出しそうになってしまいました』
『え?』
神様はそう言いながら。思い出したように笑っています。
私、何か変な事していました?
『色々と心配ではありましたが、しっかりしたご両親のお蔭で、人間としてきちんと良識を持って育つ事ができたようですね』
『あ、はい……』
神様は意地悪です。まだ思い出したように笑っています。
そんなに笑われると、私だってちょっとは落ち込んでしまいますよ?
『ごめんなさい、リズ……』
『もういいです……』
『そうだ、新しいお話を聞かせてあげますよ』
『本当ですか!?』
コオロギさ……じゃ無かった、神様のお話はとても興味があります!
久しぶりに素敵なお話が聞けるのですね!楽しみです!
『それは、純粋で優しい心を持った少女のお話です。働きアリから人間に生まれ変わった少女は、蓮華の咲き乱れるお花畑で、王女様と出会いました────────』
え? それって……?
『ここから先のお話は、リズ……あなた自身が作っていくのです』
『神様……?』
神様が腕を掲げると、世界が再び真っ白に包まれました。
風を感じます……ここは雲の上?
神様や精霊達の姿は、もう見当たりません。
『リズ、あなたを待っている人達が居ます。さあ、元の世界にお帰りなさい』
「でも神様、私は死んで……あれ?」
胸の鼓動が聞こえます。手足の脈動が伝わります。
『それでは、いつかまたお会いしましょう……その時は、あなたが私に素敵なお話を聞かせて下さいね』
私の意識が遠のいていきます。
精霊達とはここでお別れのようです。でも、寂しくありません。
彼らは居なくなるわけじゃないんです。この世界のあらゆる場所に彼らは存在します。
火、水、土、風……そして、光と闇。
私はあなた達の事が大好きでした。いつも助けてくれてありがとう。
気が付くと、私は上空からゆっくりと降下していました。
闇は晴れ、世界に光が戻っています。
美しい大自然、北の大地は本来の姿を取り戻し緑に溢れていました。
「リズーーッ!」
クルスの声が聞こえました。
クルスだけじゃ無い……下を見ると、ディア様、メアリ様、レド様もみんな居ます。
「ディア様、ご無事だったんですね!メアリ様にレド様も……!」
彼は、私に向けて手を伸ばしています。
「クルスーーッ!」
両手を広げて、彼の胸に飛び込みました。
大好きな彼は、私をしっかりと受け止めてくれました。
「もう絶対離さない……」
「私も……」
上空から花弁が舞ってきました。
とても幻想的で美しい光景……世界を恐怖に陥れた魔王は去り、平和が訪れました。
ふと神様の声が聞こえたような気がします。
そして、気が付くと私達は中央大陸へ戻っていました。
お読みいただきまして、ありがとうございます。
次回が最終回となります。




