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60:異形のもの

第60話です。

 停止していた闇の魔王が動き出した。空洞を突き破り、上へと移動していく。


 追わなくては……あんなものが外に出たら大変な事になる!

 それに、リズはきっとあいつの中だ……空洞内にも祭壇にも、どこにも彼女の姿は見当たらなかった。


 扉から外に出ると、ディア様とレドさんが居た。まだ逃げていなかったのか。


「クルス、さっきの振動はなんだ……魔王は倒したのか!?」

「駄目だった……魔王はこの空洞の外に向かっている!」

「リズは見つかったの!?」

「いえ…………おそらく、魔王に取り込まれてしまったかと……」


 リズはもう死んでいるのかもしれない……。でも……このままお別れなんて絶対嫌だ。

 

「クルス、行きましょう!」


 僕達は、真っ暗な空洞内を走る。

 この先にあるのは巨大ならせん階段だ。あれを登るだけでもどれだけ時間が掛かるのかわからない。



『こっちじゃ』


 この声は……?

 振り向くと、ハクデミアントの女王が居た。あの巨体でどうやってこんな所まで来たんだ。


『遂に開通したのじゃ』


 開通?一体何の事だ?


「もお……エゴイ君ったら…………」

「……呑気なもんだぜ、こいつは」


 メアリさんの寝言はともかく、ハクデミアントの女王の言う事が気になる。

 もしかすると、早く地上へ出られるかもしれない。


「行ってみましょう、ディア様!」

「ええ!」


◆◇◆◇


『お姉ちゃん……苦しい……』

『あ、ごめんなさい!』


 うっかり、タースを強く抱き締め過ぎていたようです。


『……お姉ちゃんは誰なの?』

『えっと、私はリズ。半分だけだけど、あなたと同じメディマム族なの』


 そういえば、自己紹介がまだでした。突然現れた人に抱きしめられて、タースもさぞ困惑した事でしょう……。

 そう考えると、自分の行動がなんだか恥ずかしいです。



『さあタース、一緒にここを出ましょう』

『うん!』


 タースの手を引き、暗闇の中を走ります。

 ここへ来た時の道はもうありません。右も左もわからない中、ただ走るしかない。


『ここは……』


 先程の記憶で見た場所です。無残に食い散らかされた人々の死体が漂っています。

 こんな光景……見ているだけで気が狂いそうです。それをこの子はずっと一人で……。


あいつ(・・・)が……来る……』


 タースの言葉に振り向くと、内壁が捲れるように何か象られていきました。

 これは────あの時魔法陣から現れた異形のものです!


『逃げましょう!』


 死体を押し避けながら異形のものは追ってきます。

 必死で走っても、自分がどこへ向かっているのかもわかりません。


 出口はどこ!? このままでは追い付かれてしまう……!

 目の前はもう、行き止まりです!


『タース、戦える!?』

『僕が何をやっても駄目なんだ!あいつは僕の魔法を食べちゃう!』


 私がやるしかありません……! でも、武器も何も無い状態でどうやって……


 その時、私は初めて指の違和感に気付きました。

 よく見ると、私の体には再び精霊石が戻ってきています。魔力を高め、絶対防御の精霊の名を叫びました。


『【ウィストモス】!!』


 暗闇を照らし、腕輪から出現した光は土の巨人を象っていきました。


『うおおおおおお!!』

『『ああああああああ!!』』


 巨人は、追って来ていた異形のものの前に立ちました。

 そして、その進行を食い止めます。


『リズよ、出し惜しみするな!我ら精霊全てを使い、この化け物を倒すのだ!』

『はい!』


 枯渇していたはずの魔力は満ち足りています。私は深く息を吸い込み、残りの全ての精霊の名前を叫びました。


『【エプリクス】!!』


 巨大な炎のドラゴンが、左手の指輪より出現します。


『【カペルキュモス】!!』


 麗しい水を湛えた女性が、胸の首飾りより出現します。


『【アルネウス】!!』


 風を纏った巨大な鳥が、額のヘッドティカより出現します。

 そして、なぜか私の体も強く光り輝いています。


『リズ姉ちゃん……凄いや!』


 異形のものは、数百とある手を精霊達に向けて伸ばしてきます。

 それをかわした精霊達は、一斉に魔法による攻撃を行いました。

 しかし、ダメージを受けても異形のものの体はすぐに再生していきます。


『『精霊共ガ……マタ我ニ刃向カウトイウノカ』』


 異形のものから、声が発せられました。そして、今度は数百の手で魔法を放ってきます。どれも高等魔法クラスです。


『攻撃は通させん!!』


 ウィストモスは壁となり、私達の前に立ちました。

 異形のものの魔法攻撃は全て、ウィストモスに防がれていきます。あの時のような心配はありません。

 どういうわけかわかりませんが、私の魔力は一向に減る気配が無いのです。


『みんな!もう一度一斉攻撃を掛けて!!』


 精霊達に膨大な魔力を送ります。完全に魔王の姿を取り戻した精霊達の一斉攻撃です。

 これにはさすがの異形のものも、苦しそうな声を上げます。 


 攻撃が止み、異形のものは全身の顔を苦痛に歪めていました。

 すぐに回復が始まり、その体は元通りになろうとしています。


『『ギエエエエエエ!!』』


 叫び声を上げ、暗黒の波動を発しました。

 それはもう、無駄なあがきでしかありません。私の魔力を受けたウィストモスは、その攻撃も全て防ぎ切りました。


 異形のものの体は、まだ完全に回復していない……今がチャンスです!


『エプリクス!』

『おう!!』


 私の魔力を受けたエプリクスの体の炎は、これまで以上に激しく燃え盛っています。


『異形のものを掴んで!!』

『御意!!』


 エプリクスは、異形のものの体を正面から掴みました。

 爪を食いこませたエプリクスからは、もう逃れる事はできません。

 燃え盛る火炎が引火し、異形のものは叫び声を上げます。


 この異形のものは、愚かなメディマム族の力が、どこかから呼びだしてしまったものです。

 それが世界中の人々を後世にまで渡って苦しめる事になってしまった。

 だから、この責任は……メディマム族の手で取らなくてはいけない!


 何度も再生しようとする異形のもの……私が生身のまま対峙していたら、いずれ押しやられ魔力が枯渇していたことでしょう。

 上手く行っても、再び封印するしか手が無かったかもしれません。


 何となく、自分の体の事には気付いていました。

 でも……これで良かったんです!

 そのお蔭で、もうこんな悲しい事を終わらせる事ができるんですから!



 私は幸せでした。人間に生まれ変わることができて、本当に幸せでした。

 私に温もりを与えてくれてありがとう。私に愛を教えてくれてありがとう。



 クルス────────

 私は、あなたと出会うことができて良かった!

 


『魔力が尽きる心配は無いわ……エプリクス! 異形のものを焼き尽くしなさい!!』

『ウォォォオオオ!!』


 炎の柱となったエプリクスに焼かれ、異形のものは回復も間に合わず燃やされていきます。

 力無い声を体中から出しながら、最後には肉片も残さず、異形のものはこの世界から消え去りました。





◆◇◆◇


 終わりました。

 暗闇が少しずつ晴れ、上空から一筋の光が差しています。


『やっぱり最後を決めたのは我だったな』

『全員でがんばった結果だと思うぞ』


 エプリクスとウィストモスは、にこやかな顔で話しています。

 最後はエプリクスが決めたけど、ウィストモスの言う通りみんなでがんばった結果ですね!



『リズ姉ちゃん……ありがとう!』


 タースは私に抱き付いてきました。

 自分の姉と私を重ねているのかもしれませんね。タースを抱き締め、頭をいっぱい撫でてあげます。

 この子は、気が遠くなるような間ずっと一人でがんばってきたんだもの……。


『闇の魔王チェムルタース……あなたにはある使命が科せられました』


 アルネウスは、タースに言いました。


『あなたは私達と同じ存在、精霊となるのです』

『僕が……精霊に……?』

『属性的に、闇の精霊となるのでしょうね』

『そうなんだ……僕は闇の精霊になるのか……』


 タースは不思議そうに自分の体を見ていました。小さな体に闇色の衣が巻かれていきます。


 精霊とは魔王だったものに課せられた罰だと言います。

 でも、一人であの暗闇の中に居た時の事を考えると、精霊達と一緒に居た方が彼にとって幸せかもしれませんね。


『僕……頑張るよ!』

『その意気だぞ、闇の精霊よ』


 早速エプリクスは先輩ぶっています。

 怯えなくても大丈夫ですよ、タース。みんな優しくて良い人達ばかりだから。


『さあ、行くぞ。神が我々を呼んでいる』


 私も精霊達と共に行くみたいです。エプリクスの背中に乗ります。

 ドラゴンの姿になったエプリクスに乗るのは初めてです。


『リズよ、しっかり掴まっているのだぞ』

『うん』


 精霊達と一緒に、上空の光を目指し私は飛び立ちました。

お読みいただきまして、ありがとうございます。

最後はハイパーお仕置きタイムでした。

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