働きアリだった私は、異世界の人間の町娘へ転生しました。

54：空洞内の戦い（1）

第54話です。

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　内部に突入した私達を待っていたのは、魔物達の手痛い歓迎でした。

「うわ……どいつもこいつもBランク以上の魔物ばかりじゃん」

「倒すしかねえだろうが！」

　メアリ様とレド様は武器を構えました。

　ここに来るまでに見た事が無いような魔物も含めて、グランドヘルメスを始め、以前私達が苦戦した魔物達の姿もあります。

　大きな虎の魔物が襲い掛かってきました。

「ていっ!!」

　クルス様の持つミスリルの剣は、まるで薪を割るかのように、虎の体を真っ二つに切り裂きました。

　それを見たメアリ様は、拍手しています。

「クルス君、めちゃくちゃ強くなってない？」

「勇者直々に鍛えられたからね」

　そう言って、クルス様は剣を構え直しました。

　そうこうしているうちにも、次々と魔物が襲ってきます。

「数が多すぎます！精霊魔法で一気に倒してしまいましょう！」

　エプリクスを呼び出そうとした私を、メアリ様が止めました。

「お姉さんに任せなさい！」

　そう言って、メアリ様は詠唱に入りました。

　私とクルス様とレド様は、メアリ様の詠唱を手助けする為に魔物を近付けないようにします。

「いってえ！」

　虎のような魔物が、レド様の腕に噛みつきました。

「レド様！」

　弓で魔物の目を貫き、怯んだ所をクルス様が切り払いました。

「大丈夫ですか!?　いま回復魔法を！」

「このくらいで魔法を使うな！俺なら大丈夫だ！」

　噛まれた腕で斧を振りかざし、魔物を撃退していきます。

「ギィィィィ!!」

　グランドヘルメスが飛んできました。

　この魔物は、一気に倒してしまわないと。魔法を詠唱し、弓を構えます。

「お・ま・た・せ、みんな、あたしの後ろに下がって！」

　メアリ様の声に、全員後ろに飛び退きます。

「【ワイド・イグニション・デオインフェルノ】！」

　前方へ向けて無数の魔法陣が出現し、そこから高等魔法の燃え盛る球体が発射されました。

　魔物達は一斉に燃え盛り、空洞内に断末魔の声が響きます。

「とんでもない魔法だな、おい……」

「にひひ、これがメアリ様の本気で～す！」

「凄いです！メアリ様！」

　燃え盛る火の壁をくぐり抜けて、鋭い爪が襲い掛かりました。

「油断するな！」

　クルス様が、ドラゴンスレイヤーで爪を受け止めました。

「ふうん、人間にしてはやるじゃねえか」

　喋る魔物……魔族です。

　大きな両腕に爪が生えた、獣の姿に似た亜人が現れました。

「早速ボス？まだ少ししか進んでいないんだけど」

「お前達を先に進ませるなとの命令だ。悪いが、ここで死んでもらおう！」

　魔族が雄叫びを上げると、狼の魔物が多数現れました。

　じりじりと追い詰めるようににじり寄ってきます。

「精霊魔法で……」

「だから駄目だって！リズちゃんの魔力はできるだけ温存して！」

　メアリ様に叱られてしまいました。

「ランプルウルフか……雑魚は俺に任せておけ」

「駄目です！レド様の怪我、まだ治していないんですよ！」

　レド様は、制止を振り切って前に出ました。

「じゃあ、魔族はあたしがやるわ。ウルフ達は任せたから」

「メアリさんは、さっき大きな魔法使ったばかりじゃないか。この魔族は僕がやるよ」

　クルス様は、ドラゴンスレイヤーを構えました。

　空洞内を照らす不思議な光が、黒い刀身に微かに反射しています。

「行くぞ、人間共！」

　魔族と狼の群れは、一斉に駆け出しました。

「【ワイド・フレイムフォール】」

　魔物達の頭上に炎が降り注ぎます。

「この野郎！」

　レド様は、斧で狼達を殴りつけていきました。

　怪我した腕から血が流れています。

「【デオヒーリング】」

　思わず回復魔法を掛けてしまいました。

　これ以上無理をさせてしまっては……。

「リズ……すまん！うおおお!!」

　威力の増した一撃で、数匹の狼が一気に吹き飛びました。

「貴様、一人で俺に勝つつもりか？」

「こんな所で消耗していられないんでな」

　狼達を相手にしている間に、クルス様の戦いが始まってしまいました。

「ギェエエイ!!」

　剣と爪が重なる音が響きます。

　でも、きっと大丈夫です。クルス様は凄く強くなられたのですから。

「なるほど、素晴らしい剣を持っているな……この俺の爪を二度も受け止めるとは！」

　魔族は、剣ごとクルス様を押し込んでいきました。

「だが、力は俺の方が上だったようだな！」

「お前は馬鹿だな」

　そう言うと、クルス様は剣を捨てて後ろへ回り込みました。

　虚を突かれた魔族は、そのまま前のめりに倒れそうになります。

「さよならだ」

　クルス様は、腰からミスリルの剣を抜きました。

「ま、待て！俺にはまだ変身という奥の手が!!」

「そんなの待っていられるか」

　クルス様はミスリルの剣の柄に手を添え、魔族の首の後ろから斜めに突き刺しました。

　剣を刺された魔族の体は、ビクンと一瞬震えると動かなくなりました。

　絶命を確認し、クルス様はドラゴンスレイヤーを拾い上げます。

「レドさん、メアリさん、そっちは終わった？」

「もう少しかな～」

　メアリ様は、レド様の助けもあって中級の魔法で狼を蹴散らしています。

　私はつい、クルス様の戦いに夢中になって、手を休めてしまっていました。

「ごめんなさい、私も手伝います！」

「リズちゃんは休んでて。こっちは大丈夫だし、ここに来るまでずっと精霊使役してたんだから」

　アルネウスに乗って飛んでいるだけなら、そんなに魔力は消費していないはずなんですけど……せっかくなので、お言葉に甘えておきます。

　念の為、魔族の体は火の魔法で焼いておきました。

　これで、鉱山の時みたいに後から起き上がったりする事も無いでしょう。

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　奥に進むと、光はほとんど無くなっていました。

　入口の方は苔が発光していたみたいです。レド様はそれをランプに詰めて灯り代わりにしてくれました。

　これも、魔力の節約だそうです。

「どこまで続いてるんでしょう」

「相当深くまで来たな。魔物も弾切れか？……俺はその方が助かるけどよ」

　洞窟内には水滴が落ちる音と、私達の声だけが響きます。

　レド様の言う通り、出現する魔物の数が減ったような気がします。

　ここに来るまでにも幾つかの魔物は倒してきましたが、それが急に止んだような感じです。

「僕達をおびき寄せて、一斉にかかってくる気なのかもしれない。気を付けて進もう」

「はい、クルス様」

　しばらく進むと、少し開けた場所に出ました。

　ここだけ妙に明るいと思ったら、不規則に配置されたランプが灯っています。

「これは、何でしょう？」

　壁面のあちこちに穴が開いているのが見えます。

　何か採掘しているのでしょうか？

　中を覗き込むと、何かがこちらを見ました。

　そして、叫び声を上げて穴から飛び出してきました。

「リズさん！」

　クルス様が私の手を引いて下さったお蔭で、魔物の攻撃を受けずに済みました。

　飛び出してきた魔物は、長い胴体と青白い体をして、大きな牙を威嚇するように動かしています。

「ハクデミアントか？」

　穴の中から次々と白い魔物が飛び出してきます。

　これがハクデミアント……初めて見ました。

　デミアントと同じ名を冠しているだけあって、姿形は似ていますが、よく見れば別の生物です。特に胴体が気持ち悪い……。

　でも、なぜこんな所に？ジュノーの町で見た情報では、地上にコロニーを作るという話だったような気がするんですけど。

「地上は雪があって生活できないから、ここへ迷い込んだのかもね。どちらにしても、こいつらを倒さないと先に進めそうもないわ」

「ランクはそんなに高い魔物じゃないし、女王でも出て来なければ苦戦する相手じゃないぜ」

　レド様は、意気揚々と斧を構えました。今の言葉……なんだか嫌な予感がします。

　奥の方から、体を引き摺るような音が聞こえてきました。

　一際大きな白い顔が、こちらを覗いています。

　デミアントの女王様と違い、縦に割れた口と周囲に生えた無数の触覚が、不気味さを醸し出しています。

　優雅さなど微塵もありません。

「レドさんが余計なこと言うから、女王出ちゃったじゃん!!」

「俺のせいにすんな！」

　空洞内で、ハクデミアント達との戦いが開始されました。

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