52:風を司るもの
第52話です。
「まずは、コルン王国を救ってくれた事、感謝する」
コルン王は頭を下げました。
王国内の被害状況報告と対策をなるべく短くまとめ、会議の内容はすぐにディア様の話になりました。
「ディア王女の事に関しては緊急性を要するのでな。あの子にもしもの事があれば、わしは死んだラディオスに、なんと詫びればいいのだ……」
ラディオス様というのは、亡くなったアステア国の王、ディア様のお父様です。
コルン王は、アステア陥落の報告を受けた時にも苦しい表情をされたと聞きます。
「町中を回りましたが、何も情報が掴めないままです」
兵士の方からの報告が上がります。
このままでは、無駄に時だけが過ぎていきます。
『私達も会議に参加していいですか?』
額の精霊石から声が聞こえました。アルネウスです。
精霊達が会議に?どうやって?
ここは今、大勢の人が居ます。こんな所で精霊達を出したら……そうだ!
「【エプリクス】、【カペルキュモス】、【ウィストモス】、【アルネウス】」
「リズさん!?」
全身の精霊石から光が放たれ、それは円卓の上に小さく象られました。
小さな精霊達が並んでいます。
『修業の成果が出ましたね、リズ』
緑色の小さな小鳥さんです。
『まるで人形になったみたいです』
可愛らしいお人形さんをイメージしましたからね。
『私は……何だこれは?』
私にもよくわかりません。町で見かけた土でできた兵隊さんです。
『小さくなった事で我から溢れる威厳は隠せまい!』
小さなトカゲさんです。首元にだけ、火を纏っています。ちょっと可愛い……。
「なるほど、これなら大きさは問題ないか」
クルス様は、興味深そうにミニチュア精霊達を眺めています。
「カペルキュモスよ、いつかは世話になったな」
『いえ、ご無事で何よりです』
人形姿のカペルキュモスは、コルン王にペコリとお辞儀をしました。
『ディア王女の行方はわかりませんが、連れ去られたのだとすると、魔王の下に連れて行かれた可能性が高いですね』
アルネウスの言う事も、もっともだと思います。
でも、私は確証がほしいんです。ディア様はご存命なのか、どこに連れて行かれたのか。
「魔王の居場所はわかるのか?」
『封印された場所でしょうから、北の大地でしょうね』
精霊達は、過去に闇の魔王と戦っています。その場所を知らないはずはありません。
コルン王の問いは、アルネウスによってすぐに答えが出されました。
でも、そこにディア様は居るの?私はそれが知りたいんです。
『残された物などがあれば、魔力を感知できるかもしれません。エプリクスが』
『たしかに、我の嗅覚なら魔力をも感知したりできるが……丸投げ?』
「このお守り……ディア様の持っていたものなの」
エプリクスにお守りを渡します。エプリクスは、それを持って鼻を鳴らし始めました。
『ふむ……連れ去られたのは間違いないな。しかも、どうやら居場所もビンゴのようだ』
ディア様は、魔王の下に居る……!
「さすが精霊達だ!では、これより魔王討伐隊を編成するぞ!」
『お待ちください、コルン王。あなたは闇の魔王という存在をなめているのですか?
力の無い者が集まった所で、被害が増えるだけです』
アルネウスの発言に、コルン王は険しい表情で睨みつけます。
「では……どうすればいいと言うのだ!!」
円卓が大きく揺れました。コルン王は、両腕を着いてわなわなと震えます。
騎士様達も、目を伏せています。
『これ以上被害を出すわけにはいかないのです。我々の力をもってすれば、あるいは……』
「お前達が、この世界を救ってくれるというのか……?」
『闇の魔王は強大です。主であるリズも強くなったとはいえ、それでも勝てるかどうかは約束できません。
それに……リズが、行きたくないと言えば我々はそれに従います』
全員の視線がこちらに向きました。
私の気持ちなど、もう最初から決まっています。
「闇の魔王を倒し、必ずディア様をお救いします」
「リズさん、僕も行くよ。その為に修行をしたんだ」
クルス様の決意も固いようです。
勝てるかどうかわからなくても、やらなくてはいけません。
きっと私は、あの方を守り世界を救う為にこの世界に生まれてきたんだ。
「リズちゃん、あたしも行くよ」
メアリ様が手を上げました。
「修練中の高等魔法を試すいい機会だし、あの方には何かと恩があるからね」
「俺も行くぞ!」
レド様も手を上げました。
「レドさんは……厳しいんじゃない?」
「戦力としてお前達の中では一番弱い事くらいわかってるさ。
それでもずっと、傭兵として戦ってきたんだ。お前達の詠唱時間くらい稼いでみせるさ」
あの日、ディア様を護衛していたメンバーです。
ロデオ様は居ないけど……でも、彼の持っていたお守りはここにあります。
一緒に行きましょう、ロデオ様。
『他には居ないですね?』
「わしも行きたいところだが、戦力にはなれぬ……これ以上行っても無駄死にするだけだろう……」
コルン王は、悔しそうに拳を握りしめました。
「お前達の勝利を、ここで皆と祈り続けよう」
『私達が負ければ、世界は終わりでしょうね』
「その時は止める者もおらぬし、全員で特攻でもかけるさ」
コルン王の表情が、少しだけ和らぎました。
でも、その覚悟は冗談では無いのでしょうね。
「必ず、魔王を倒してまいります」
「リズよ。わしは、お前への贖罪が済んだとは思っておらん。無事に戻ってまいれ。その時こそ、わしは……」
「あなたは、この国の王なのです。胸を張って私達を送り出して下さい」
そう言って、私はテラスへと向かっていきました。
クルス様、メアリ様、レド様も続きます。
「行きましょう」
精霊達は光となり、精霊石へと一度戻りました。
そして、私は再び精霊の名を叫びます。
「【アルネウス】!」
額の精霊石から放たれた光が、大きな鳥の姿を象って行きます。
四人が乗るには充分の大きさです。
「さっきのとはスケールが違うな」
「レドさん、早く乗って。後がつかえてるから」
「高いところは苦手なんだけどな……仕方ないか」
アルネウスに全員乗りました。
コルン王達は、そんな私達を見送る為にテラスへと出てきました。
『私は風の精霊アルネウス。【盟約】に誓って、皆さんを必ず無事に魔王の下へと運びます』
「モフモフしてるわ」
「ちょっと緊張しちゃうな。リズさん、魔力は大丈夫?」
「大丈夫です。修行の成果かもしれませんね」
アルネウスは高く高く舞い上がって行きます。
「それでは行きましょう!」
『トサカは掴まないでくださいよ』
アルネウスは大きな翼を広げ、羽ばたきました。
町がどんどん小さく遠くなっていきます。
北の大地……どんな所かはわかりませんが、一筋縄ではいかないでしょう。
私達の誰かが死ぬかもしれない。私だって死ぬかもしれない。
でも不思議です。怖くないんです。だって、みんなが一緒だから。
「レドさん、死んでも恨まないでよ」
「むしろ、俺が死んでも構うなよ。お荷物になるのだけはごめんだ」
メアリ様もレド様も、覚悟はできています。
「リズさんは、絶対に僕が守るよ」
クルス様はそう言って、私の手を握りました。
私もその手を握り返します……やっぱりちょっと震えていますね。
「あんた達、なんか雰囲気変わった?はぁ……若いっていいね」
「メアリさんだって若いじゃないか」
何でも無い会話が、緊張した空気を解いていきます。
「ふふっ……皆さん、いつも通りなんですね」
「リズちゃんがそんな風に笑うところ初めて見たわ。お姉さんと結婚しようか?」
「何言ってんだメアリさん、リズさんは僕のものだぞ!」
「俺、居場所が無いんだけど……」
暗闇の空の下、アルネウスはどこまでも羽ばたいて行きました。
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ここまで、矛盾やおかしな所があるかもしれませんが、そのうち修正するつもりですのでご容赦いただけましたら幸いです。




