51:終わりへの序曲
第51話です。
コルン上空に来ました。
下を見ると、町が魔物の襲撃に遭っています。
これではまるで、アステア国が陥落した時を見ているようです。
「ディア様が心配です。まずは修道院へ向かいましょう」
「わかった」
私達は、低空に差しかかった所で飛び降りました。
あちこちで戦いの怒声や音が聞こえます。
ふと見ると、子供が魔物に追いかけられていました。
「助けて!」
「もう大丈夫だよ。私の後ろに隠れていて」
私は魔物に向かって矢を打ちました。
眉間に刺さった矢を抜こうとしている所を、クルス様が仕留めます。
「これは、アステアの時と同じ魔物か?」
「そうですね。見覚えがあります」
二本の角に、大きな牙、大きな爪。
あの頃は脅威でしたが、今の私達の敵ではありません。
「お姉ちゃん、お母さんが魔物に襲われて、お父さんが戦ってるの!」
「すぐに案内して」
子供に付いて行くと、男性が鍬を持って魔物と戦っていました。
魔物は背後からクルス様の剣に切り裂かれ、そのまま絶命しました。
「すまない……助かった!」
「お兄ちゃんすごい!」
男性の後ろに女性が倒れています。この子供のお母さんでしょうか。
出血も多く重症ではありますが、まだ息があります。
「【カペルキュモス】」
『優しい主よ、なんなりと』
カペルキュモスの姿も変わっていました。
それは、あの空間でみた魔王時代に近い姿です。
「この女性の傷を治して下さい」
『お任せを』
カペルキュモスの生み出した球体が、女性の体を包み込みます。
これで、きっと助かるでしょう。
「お母さん、助かるの?」
「大丈夫だよ」
子供の頭を撫でて、回復を一緒に見守ります。
短時間で女性が目を覚まし、カペルキュモスは光に戻って行きました。
「女房の命まで助けて貰ってすまない!この礼は必ず」
「いえ、そんな……」
「無事で済んだならそれでいい。あとは騎士や兵達に任せて、先を急ごう」
クルス様と私は修道院へと急ぎました。
町の人達を全部助けたいところですが、騎士や兵達も出ているので、あとは彼らにお任せします。
道中、気になる事がありました。デミアントの兵達の姿が見当たりません。
彼らは一体どこに……?
走っていると、修道院が見えてきました。
◆◇◆◇
修道院には、町で怪我した方々が運び込まれていました。
修道女たちが大急ぎで治療に当たっています。
ディア様はどちらに?
見て回りますが、その姿はどこにも見当たりません。
院長に聞いてみる事にします。
「それが……墓地へ行くと言ったきり戻らないのです……」
「一人で行かせたのか?」
「まさか、こんな事になるなんて……すみません……」
院長はひたすら頭を下げるだけでした。
ディア様はこちらには居ない……私達は墓地へと向かいました。
墓地は、町のはずれにあります。
その周辺は灯りも無く、真っ暗な闇に包まれていました。
「墓石があちこち倒されている……ディア様……」
「とりあえず、行ってみよう」
ここにも魔物に襲撃された痕があります。
ブライトニングで照らしながら、奥へと進んで行きました。
「クルス様、これ!」
そこに、小さな袋が落ちているのを見つけました。
「これは……何の袋だ?」
袋の中を見ると、フォス神の加護のお守りが入っていました。
「これは、ロデオさんの遺品だった物だ。ディア様に渡したと聞いていたが……」
「では、ディア様は……!?」
「まだそうと決まったわけじゃない。逃げた時に落としたのかもしれないし、王宮の方に行ってみよう」
クルス様に促され、私達は王宮へと向かいました。
神様、どうかディア様が無事でありますように……!
◇◆◇◆
王宮へ向かうと、レド様が魔物と戦っていました。
先程までの魔物よりも背が高く、角も多い魔物です。
「レド様!」
「おお、リズとクルスか!久しぶりだが、今はそれどころじゃねえ!」
「わかってるよ」
クルス様の振り下ろした剣が、魔物の片腕を切り落としました。
「【トルネードアロー】」
魔法をはらんだ矢が、横から魔物の胴体へ刺さり、その体を引き裂きます。
体勢を保てなくなった魔物は、レド様の斧を受けて絶命しました。
「助かったぜ。お前らなんか強くなったな」
「修行したからね」
「それよりレド様、ディア様を見ませんでしたか?」
「いや、見てないな……王の所にでもいるんじゃないか?俺も、突然襲撃があってここへ来た所なんだ」
外の警備はレド様達に任せて、コルン王の下へと急ぎます。
内部への魔物の侵入はまだ無いようです。
階段を駆け上がり、謁見の間へと向かいました。
「ここにもディア様が居なかったら……」
「悪いように考えるのはよそう」
クルス様にも、不安が無いわけではありません。
私ばかり弱音を吐いてしまっては、いたずらに不安を煽るだけです。
「ごめんなさい……」
「今はとにかく、無事を祈ろう」
謁見の扉を開きました。
そこには、コルン王とお付きの方々、メアリ様の姿がありました。
「おお!お前達は……」
「リズちゃん!」
「メアリ様!ディア様はご無事ですか!?」
ディア様の姿が見当たりません。
私の鼓動がドクドクと早くなっていきます。
「ディア様は見ていない……修道院に居るんじゃなかったの!?」
その言葉に、嫌な汗が止まりません。
手に握っていた袋を見ました。
それは、土で汚れていて、紐の部分に何かで切り裂かれたような跡が……。
「……ディア様!」
飛び出そうとした私を、クルス様が止めました。
「落ち着くんだ、リズさん!」
「離して!ディア様を捜しに行かないと!」
「無計画に飛び出して何になる!まずは、ここの魔物達を倒して、それから考えるんだ!」
クルス様の手が震えています。彼だって、ずっと仕えてきたディア様の事が心配で無いわけはありません。
それなのに、私ばかりこんなにもうろたえてしまって……。
私はお守りを握り、ディア様のご無事を祈りました。
私達は、再び町中へと向かいました。
次々と目に映る魔物を倒していきます。時間は掛けていられません。
大怪我をした町の人々は、カペルキュモスで治療をしていきました。
やがて、町から魔物の姿は消えていました。
◆◇◆◇
数人の町人に被害者は出てしまいましたが、被害は最小限に抑えられたようです。
コルン王国の陥落は免れました。
町に平穏は戻りましたが、夜が明けても外は暗闇に包まれたままです。
人々にディア様の事を聞いて回りましたが、その行方を知る者は誰も居ませんでした。
「リズちゃん、こんな時になんだけど、女王からの伝言を伝えるわ」
デミアント達の話を聞きました。
魔王復活の影響で、彼らに眠る闇の意思が増幅されてしまったという事です。
女王様達も、戦っているんだ……。
「ディア様の遺体はどこからも出て来なかった。連れ去られた可能性が高いな」
「連れ去る……まさか、アリエスという男に!?」
もしそうだとしたら、ディア様の身が危険です……一刻も早く助けに行かなくては!
でも、一体どこへ向かったら……!
『魔王が遂に復活したようですね』
アルネウスの声が響きました。この暗闇の世界も、その影響だと言います。
魔王復活もアリエスによるもの?
あの男は、魔族をも従えていました。必ずどこかで繋がっているはずです。
これから、緊急で会議が行われる事になりました。
はやる心を抑え、クルス様と私も会議へと向かいます。
こうしている間にも、ディア様は苦しんでいるかもしれない……ご無事を心から祈るばかりです。
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