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50:その日、世界が闇に包まれた

第50話です。

「一度、コルンに戻らないか?」

「……」


 ジュノーの町を出た時、もうコルンへは戻らないつもりでした。

 メディマム族だった私が一緒に居ては、お世話になった方々に迷惑を掛けてしまう……そう思ったからです。


「大丈夫、怖くないよ。僕が付いてる」

「うん……」


 クルス様が手を差し伸べて下さりました。

 私はもう、一人じゃありません。


「【アルネウス】」


 額の精霊石から光が放たれ、巨大な鳥が姿を現しました。

 ここへ来た時よりもより煌びやかに、そして猛禽類を想わせる力強さを兼ね備えた姿へと変貌していました。


『リズよ。修行の成果が出ましたね。これこそ、私の本来の姿』


 風の精霊の優しい声が響きます。

 クルス様はドラゴンスレイヤーを背中へ備え付け、アルネウスの上に乗りました。


「行こう!」

「はい!」


 クルス様と共に、コルン王国を目指して飛び立ちました。

 彼と一緒なら、きっとどんな困難でも乗り越えられる。そんな気がします。


 “ずっとあなたを守る”


 頼りにしています、クルス様……。

 クルス様の背中に抱き付きました。彼の背中は温かく、私に安らぎを与えてくれます。

 もう少しだけ、このままで……。

 少し震えるその背中を抱き、私は目を閉じました。


◆◇◆◇


 うーん……大事なのは詠唱だけじゃないんだ、なるほどね。


 あたしは今、アステアの書庫で見つけた古代魔法の書を解読中。

 【ミリューガ】の術式もだいぶ頭に入ったし、試してみたいところだけど、こんな所で撃つわけにもいかないしなあ……。


 そして、この禁術と呼ばれる数々の古代魔法。

 死者を蘇らせる魔法なんてのもあるんだ……これはたしかに禁術だね。

 術者の命と引き換えなんて、使ったら死んじゃうって事じゃない。

 これ書いた人、どうやって書いたんだろう。


「メアリさん、シリウスさんが呼んでますよ」

「あ、エゴイ君」

「エロイですってば!」

「ちゃんと呼んであげたのに、何で君が間違えてんの」


 古代魔法の書をしまい、シリウスさんのところへ向かう。

 彼は、この国で一番の博識で研究家。次期宮宰の候補者とも言われている。

 アステアで見つけた魔王の書の解析は、彼の率いる研究者達に任せていた。

 情報量が多過ぎるので、要点を集めてもらっていると言った方が正しいのかもしれない。


 シリウスさんの部屋の前に来た。


「メアリです」

「うむ、入ってくれ」


 部屋にはレドさんも来ていた。

 他にも、新しい騎士団長さんや、コルン王国軍部の偉い方々も居る。


「これで揃ったな。闇の魔王や勇者について、この書物には詳しく書かれていた。その事をお前達に話そうと思う」


 シリウスさんは、その分厚い眼鏡を指で押し上げた。


「まず、闇の魔王に付いてわかった事だ。はるか昔の出来事とはいえ、我々の生きる時代に一番近く存在した魔王と言えるだろう」


 彼は、室内を歩きながら淡々と説明していく。


「魔王は元々メディマム族という種族であったが、何かをきっかけにその力が発現した。その力は強大で、種族だけでなく魔族や魔物達をも操り、人々を脅威に曝した。、

 だが、魔王と対を為すように現れた勇者の操る精霊の力によってついに力尽き、その魂は宝玉へ封印される事となった。

 精霊と言えば、この国でも一度騒ぎがあったな」


 リズちゃんの事だ。

 あたしが居ない間に、なんて酷い事をと思ったけど、コルン王も反省していたし、リズちゃんもそんな気にしていなかったから、あたしからは特に言う事も無かったけど。


「精霊を操る者、その勇者もまたメディマム族だった。

 世界を救った勇者は、その力を失い、どこかへと去って行ったそうだ」


 正義の精霊使いねえ……リズちゃんもそんな感じするわ。

 という事は、リズちゃんもやっぱりメディマム族って言う種族なのかな?


「さて、大まかにはそんな感じだが、あとは資料を作っておいた。

 人数分あるから持って行ってくれ」


 シリウスさんもよくやるねえ。全部手書きじゃん。

 メディマム族……精霊魔法を操り、赤い髪が特徴?

 リズちゃんの髪って赤かったっけ?栗色っぽく無かった?


「肝心な事を話さなくてはいけないな。“予兆”についてだ」


 シリウスさんの顔が険しくなった。

 これから話す事は、あまりよく無い事なんだろうか。


「先日のデミアントの女王、彼女の発言にもあった魔王とは、この闇の魔王の事だ」


 少し空が暗くなった気がする。

 室内に差し込む光が弱くなった。太陽が雲で隠れたんだろうか?


「おそらく、その復活までもう時間が無い」


◇◆◇◆


 勝手に抜け出した騒動からしばらく謹慎受けちゃったけど、やっと外に出られたわ。


 ……あなたには助けられちゃったわね。

 最愛の人が眠る墓地。私は、彼の墓石に花を捧げた。

 スターチスの花だ。

 あなたを失っても、私の心はずっと変わらない。

 永遠に、あなたを愛している。


 ねえ、私は強くなれたかしら?あなたの横に立てるくらいに強くなれた?

 あなたが生きていたら、どんなに私が頑張っても、きっと傍には立たせてもらえないんでしょうね……。

 危ないので下がっていて下さいって言われそう。

 戦いの場は仕方ないとしても、アステアを再建したら、あなたの隣に立っていたかったわ。


 アステア国はきっと再建してみせるから。

 じゃないと、あなたや死んでいった人達が報われないもの。

 あなたが安心して眠れるように、私、頑張るから。

 いつか寿命を全うして、私がそっちへ行ったら……私を抱きしめて。

 よく頑張ったって、褒めてね。


 それじゃ、また来るわ。

 私の最愛の人……。


 墓地を出ようとしたら、急に空が暗くなった。

 雨でも降るのかしら?それにしては、まるで夜みたいな暗さだわ。


 メアリの使っていた魔法、覚えてたら良かった。

 ブライトニングだっけ。雨でも何でも、早く帰った方が良さそうね。

 私は足早に墓地の出口へと向かった。


「やあ、ディア王女」


 誰かに声を掛けられた?

 振り向くと、墓石の上にうっすらと人影が見える。


「誰!?」

「アリエス様がお呼びだ。私と一緒に来ていただこう」


 アリエス……!?

 気が付くと、周りは魔物だらけだった。


「……簡単に連れて行けるとでも?」

「これはこれは。勇ましいお姫様だ」


 暗くてよく見えない……助けを呼ぼうにも、墓地の周りには民家も無い。

 私が一人でやるしかない……!


「【スウォーン】」


 墓石の上に立つ者が何かを呟いた。

 しまった……魔法だ!

 気が……遠く…………。

 ロ……デ………………。


「よし。私はアリエス様のもとへ帰る。あとはお前達に任せたぞ」

「「「キェエエエ!!」」」



 暗闇に飛び立つ影があった。

 そして、平穏だった町に魔物達の魔の手が忍び寄る────────。


◆◇◆◇


「これは一体どういうこと……?」


 さっきまで明るかった空が、急に暗くなりました。


「嫌な予感がする……コルン王国へ急ごう」


 私達は、中央大陸の上空を進んでいます。

 コルンまではあと少しです。


 何だか胸騒ぎがします……アルネウス、どうか急いで下さい!

お読みいただきまして、ありがとうございます。

※誤字修正しました。

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