05:王都陥落
第5話です。
王都への道は荒れていました。
幾人かの亡骸が見えます。その中には街道を飾る装飾なども破壊されています。
それにしても様子がおかしいです。街道の状態を見る限り、魔物に荒らされてそれほど時間は経っていません。それなのに、道は荒れていても魔物の姿がまるで無いのです。
私は今まで魔物というものを見たことはありません。
どういう生態をしているのかはわかりませんが、野生動物と似たような類でしたら、まだこの辺りに魔物の姿があってもおかしくないはずです。
足跡は、おおよそ一直線に王都へ向けて延びています。何者かに統率された行動をとっているように思えます。
男性の亡骸を見つけました。申し訳なく思いながら懐を探り、使えるものが無いか探します。携帯用のナイフを見つけました。私はそのナイフを拝借しました。
◆◇◆◇
しばらく歩くと、王都の城壁が見えてきました。城下町からは黒煙が上がります。
私が行って何かの役に立てるわけではありません。魔物に復讐したい気持ちもありますが、町の大人達が敵わなかったのに、私にどうにかできるはずもありません。
ではなぜ私はここに来たのか……ディア様にしても、私は一度会ったきりです。でも、その一度きりの出会いで私はディア様に惹かれてしまいました。いつか、あの方のお役に立てる人間になりたいと考えていました。
どうせ死ぬならば、せめてあの方の盾となり死のう。私は死に場所を探しているのだと思います。
王都にたどり着くと、私の居た町と同じように破壊された痕が見られます。あちこちから町の人達の悲鳴が聞こえます。それに混じり、聞いたことの無い鳴き声が聞こえました。
駆けつけると、大きな二足歩行の生き物が、親子に襲いかかろうとしていました。
「待ちなさい!」
私が叫ぶとその生き物は、ゆっくりとこちらを振り向きました。
二本の角に、大きな牙、大きな爪に獰猛な眼光をしています。 ……これが、魔物!
「グルルルル……」
魔物はこちらを威嚇します。私はナイフを構えました。
親子に逃げるように促します。こちらに頭を下げ、走り去っていきました。
「ガァアアア……」
私はなんと馬鹿なことをしたのでしょう。
せめてディア様のお役に立って死のうと思っていたのにあの親子を見捨てられず、ここで、こうして魔物に立ち向かってしまいました。
私が魔物に敵うはずもありません。ここに来るまでに多少魔力は回復したと思いますが、使える魔法はヒールのみ。攻撃手段は手にしたナイフのみです。
「ここで終わり……」
あの親子が助かるなら良しとしよう。死ぬのがみんなより少し遅れただけ。人の役に立てたのなら、それ以上のことはもう望まない。
私は覚悟を決めます。魔物も最初は警戒してくれていましたが、私が未熟なことを悟ったのでしょう。攻撃の態勢に入ります。
「お母さん……マリー……みんな……」
体がガクガクと震え、私はもう動けませんでした。
魔物が大きく躍動し、襲い掛かります。爪が眼前に迫ります。
「グガァアアアーーー!!」
魔物は大きな咆哮を上げ……倒れました。
「大丈夫か!? ……君は、あの時の!」
魔物を倒したのは、あの日ディア様の傍に居た騎士様でした。
「騎士様……!」
「話は後にしよう……ここは危険だ、そこの教会に避難しよう」
騎士様に連れられ、大きな十字架の飾られた建物へと避難しました。
「君がどうしてここに?」
「町が……魔物に襲われ、みんな魔物に殺されました」
「そういうことか……それではやはり……」
騎士様は訝しげな表情をしています。何か思うところがあるようです。
「あの、先程はありがとうございました」
私が助けようとした親子です。無事に逃げ、こちらへ避難したようです。
「いえ……私自身、騎士様に助けられましたので」
親子は何度も私と騎士様に頭を下げました。
「生き残りは、君一人だけか?あの一緒に居た子は……」
「私一人です……マリーも……みんなと一緒に…………」
「……すまない」
騎士様は、私が悲しい顔をしたせいで困ってしまったようです。みんなが死んだのは魔物のせいで、騎士様は悪くありません。
「あの、騎士様……ディア様はご無事ですか!?」
「ディア様は陛下と共に王宮に取り残されている。近衛兵達も居るはずだが、このままでは陥落は免れない。
既に他の兵や騎士も向かっているが、私もこれから救助へ向かう」
「そうでしたか……」
「では、私は失礼する。君はここに居るんだ、いいね?」
そう言うと、騎士様は王宮へ向けて駆けていきました。
「アステア国は終わりじゃあ……」
お爺さんが呟きました。避難してきた人達も、皆狼狽しきっています。
ここで終わるくらいなら、やはり私はディア様のお役に立って死にたい。
私は教会を飛び出しました。幸い、騎士様達のおかげで王宮まで魔物は見当たりません。
王宮に入ると、魔物達があちこちに切り払われています。先程見た魔物だけではなく、様々な形態の魔物がいるようです。
階段を昇り進みます。すると、騎士様達が魔物と戦っている声が聞こえました。その声を頼りに進みます。
◇◆◇◆
「やはりお前だったのだな……」
「この腐った国を改革するには、他に手は無かったのだ」
「そのせいで、罪の無い人々もしんだんだぞ!」
「改革に死は付き物だ」
騎士様と魔物を引き連れた人物が対峙しています。そして、その人物の傍らにはディア様が……
ディア様は眠ったように動きません。
「ディアはいただいて行くぞ。こやつは我が后となるのだ、光栄に思うがいい」
「そうはさせるか!アリエス!」
騎士様は切りかかりますが、大きな魔物に邪魔されてしまいます。
他の騎士様達も、周りの魔物に押されています。
「魔法を持たぬ貴様が私に勝つことはできぬよ!」
アリエスと呼ばれた男の掌から魔法が形成され、大きな火炎となって騎士様を襲います。
「こんなもの!」
騎士様は剣で火炎をなぎ払います。
「ふむ……では、これでどうかな?」
騎士様の真上に魔法陣が現れました。そして、雷光が騎士様を襲いました。
「ぐぁあああ!」
騎士様はひざを付いてしまいました。
「さしもの騎士ロデオとは言え、これは避け切れなかったようだな」
「ぐぅぅ……」
騎士様は立ち上がろうとしますが、動けないようです。
「では、お別れだ」
男の掌に、再び魔力が充填されていきます。
「騎士様!」
私は飛び出しました。そして、ヒールを騎士様にかけます。
「なんだこの小娘は? ……まぁ良い、まとめて死ぬがいい」
先程見た火炎よりも大きな炎が迫ります。
騎士様を守れば、きっとディア様を助けてくれる。私は騎士様の前に立ちます。
「騎士様、ディア様を必ずお救いください……」
荒れ狂う炎が目前まで迫り、私は覚悟を決めます。
その時、母のくれた指輪から眩しい光が発せられました。
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