48:修行をする事になりました
第48話です。
アルネウスは山に降り立ちました。雲が足元に流れて、まるで霧のようです。
「やっと降りられた……」
「クルス様、大丈夫ですか?」
ふらふらのクルス様を支え辺りを見回すと、小屋が見えました。
誰か住んでるんでしょうか?
「ここに、僕の求めるものがあるのか?」
『ええ、きっと強くなれますよ』
アルネウスはそう言いながら歩いていきます。
その姿のままでいいんですか?
大きな鳥が、尾っぽをフリフリ歩いています。
『こっちです』
小屋に行くのかと思っていると、そこを通り過ぎて裏にある泉のような所に出ました。
中央に、誰かが居ます。水浴び中なんでしょうか?
『こんにちは』
「誰だ」
鋭い眼光のお爺さん……かと思ったら、物凄い体をしています。
筋骨隆々で背も高く、体のあちこちに傷跡があって、歴戦の戦士って感じです。
「お前か」
『水浴びさせて下さい』
アルネウスは泉の中に入って行きました。
恐る恐る水を被っては、体をフリフリしています。
……何しに来たんでしたっけ、私達。
お爺さんは、泉から上がって体を拭いています。
「お前達は、何だ」
「僕はクルスと言います!」
「リズです!」
「そうか」
え? 会話終わっちゃった……?
『この二人を鍛えてあげて下さい』
「ほう……」
羽根をバシャバシャとしながら、アルネウスは言いました。
お爺さんは、その強靭そうな腕で私とクルス様の腕を掴みました。
「……まだまだ、ひよっこだな」
「失礼な人だな」
私はともかくクルス様をひよっこ扱い。このお爺さん、只者ではなさそうです。
そして、泉から上がったアルネウスは、自慢の風の力で毛を乾かしています。
当然、私の魔力はどんどん減って行きます。
「アルネウス」
『どうしました?』
「戻ろうか」
アルネウスが額の精霊石に戻ってきました。
「どうしました?クルス様」
「え? いや……何でも無いよ!」
◆◇◆◇
「付いて来い」
お爺さんは、小屋に向かって歩き出しました。
とりあえず私達も付いていきます。
小屋の中に案内されました。丸太を組んで作ってあるみたいです。
「そこの娘、茶を用意しろ」
「え?茶……ですか?」
「そこに、ハーブを干した物がある。それを使って作れ。お前達の分も作っていい」
「えっと……はい」
調理場に野菜などの食材が置いてあります。ハーブは……この乾燥した葉っぱでしょうか。
茶って、たぶんハーブティーの事ですよね?
「お前達、強くなりたいのか?」
「強くなれるのか?」
「お前達次第だ」
「できましたよ」
「うむ……悪くない」
しばらく三人でハーブティーを堪能します。
そして、お爺さんは立ち上がりました。
「付いて来い」
再び外へ出掛けます。ここに来た理由は、ただのティータイム?
お爺さんは、小屋に立てかけてあった斧を握りました。
「見ておれ」
泉の方を見据えて、斧を上に構えました。
「【ストーム・スラッシャー】」
斧から発生した斬撃が、泉の水を二つに切り裂き岩肌に衝突しました。
岩には深い傷跡が残っています。
「斧で魔法剣…………!?」
「やってみろ」
クルス様に斧を手渡しました。
お爺さんと同じように、斧を上に構えます。
「ストーム・スラッシャー!」
「……」
「……」
クルス様の叫び声だけが響きました。
「……あはは」
「魔力が全くこもっておらん。お前はまず、精神の修行からだな」
クルス様は、お爺さんに連れていかれてしまいました。
私も付いていきます。
そこには、切り倒した大小の木が幾つか置いてありました。
お爺さんは木を石畳の上に置き、斧を振り下ろします。
すると、木は綺麗に真っ二つに割れました。
「やってみろ」
「ただの薪割りじゃないか。このくらいなら僕だって……」
クルス様が同じように斧を振り下ろすと、木は割れることなく斧を跳ね返しました。
「なんだこれ?」
「精神を集中しなくては割れないぞ」
クルス様は、目を瞑り呼吸を整えて斧を振り下ろしました。
すると、今度はスパッと木が割れました。
「こうか?」
「ほう」
お爺さんは、髭を掻きながらニヤリと笑いました。
「日が暮れるまで続けろ」
「……わかった」
山に薪を割る音が響きます。
「さて、次はお前だな」
「私もですか?」
「精霊の力を、もっと引き出せるようにしてやろう」
「え?」
お爺さんは精霊魔法を知っているのでしょうか?
そういえば、アルネウスを見ても驚いた様子はありませんでした。
「メディマム族よ、ついて来い」
「私の事、わかってたんですか?」
「まあな」
このお爺さん、一体何者なのでしょう……?
お爺さんに連れられ、木々の茂る森に入ります。
不思議な場所です。森の中だというのに魔物や動物の気配がしません。
「この森には、妖精が棲んでいる」
「え?」
妖精って、童話とかに出てくる妖精ですか?
森の中の魔力や気配を探りますが、全くわかりません。
「奴らを感じられるようになれ。それが、お前の修行だ」
「わかりました!頑張ります!」
お爺さんは、帰って行きました。
妖精……この森の中に居る妖精……。
◇◆◇◆
「飯にするぞ。帰ってこい」
「はーい」
森の外からお爺さんの声が聞こえました。
空はもう真っ暗です。妖精の気配は全く掴めませんでした。
本当にここに居るのでしょうか……。
小屋の中に入ると、クルス様が汗だくの体を拭いていました。
お爺さんは、細長い木の棒を削っています。
「妖精は見つかったか?」
「全然駄目でした……」
お爺さんは、カゴのような物を持ってきました。
中を見ると魚が泳いでいます。
「そこの池で釣った。これで何か旨い物を作れ。野菜も好きに使っていい」
「わかりました」
お魚とお野菜……スープでも作りましょうか。
調味料も置いてありますし、お魚も新鮮です。
とりあえず、内臓を取って下ろしてしまいましょう。
「薪割りは順調か?」
「いや、気を抜くと失敗する時があるし、思いのほか難しいな」
「そうか。明日も続けろ」
クルス様もがんばってます。美味しい料理を作りましょう。
お魚は、表面を焼いてからお野菜と一緒に煮込みます。
「娘、少しヒントをやろう。魔力を感じようとするよりも、相手に合わせる事が重要だ」
「相手に合わせる……?」
「そうすれば、自然と見えてくるはずだ」
「わかりました」
相手に合わせる……妖精の魔力に?
わかったような、わからないような……ともかく、明日試してみましょう。
料理もできたので運びます。
付け合わせの簡素なサラダも作りました。
「うむ。悪くないぞ」
「リズさんは料理が上手だなあ」
夕ご飯は結構上手にできました。これも孤児院のマザーのお陰ですね。
二人ともあっという間に食べ終わってしまいました。
「修行の間、ここ住ませてやる。まあ、頑張ってみろ」
ご飯を食べ終わったら、外にある深いタライの中に水を貯めて、お湯を沸かします。
魔法は使わず、クルス様の割った薪を使いました。
綺麗に割れている物もあれば、歪な物も混じっています。
「リズさん、僕も手伝うよ」
「大丈夫ですよ。クルス様の方が疲れているでしょう?」
「肉体的にって言うより、精神的に疲れたって感じかな。あの爺さんの言う事、案外的を射ているような気がする」
そう言って、クルス様は大きく背伸びをしました。
「どんな事であっても、それが僕が強くなる事に繋がるのなら頑張るよ」
「応援しています」
「リズさんも森で何かやってるんだろ?妖精って言ってたっけ。頑張ってね」
「はい」
湯浴びも済ませて、小屋へ戻りました。夜は静かに更けていきます。
私達の修行は、まだ始まったばかりです。
お読みいただきまして、ありがとうございます。




