46:宵闇の騎士
第46話です。
ランプルウルフ達に囲まれ、謎の魔物も控えてる……。
ディア様を守らなくちゃいけなくて、その上、あたしは怪我までしちゃってる……。
これって、結構ピンチなんじゃないの!?
「メアリ!すぐに回復するから!」
「あたしの事はいいので、奴らの動きに気を付けて下さい!」
いつ飛び掛かってきてもおかしく無い状態だ。
こんな状況で魔法の詠唱なんてしてたら、いい的にされちゃうよ。
初等の魔法なら詠唱いらないから、それで凌いでみる?
「【ブレイジング】!」
「ギャウン!」
火の初等魔法だ。獣は火に弱いって相場が決まってる!
一体に当たったけど、どうだ?
「グルルルルル……!」
火に油を注いだだけでした。
うん、無理だよね。わかってた。
「メアリ!私に任せて!」
「ああ!ディア様待って!」
ディア様は、一体のランプルウルフに掴みかかった。
それを見たランプルウルフ達が、一斉にディア様に飛び掛かった。
「危ない!」
もうこうなったら杖で殴るしか……!
「てええい!!」
ディア様は、ランプルウルフの尻尾を持ち振り回した。
「「「ギャウウン!?」」」
飛び掛かって来たランプルウルフ達は、虚を突かれた形で吹っ飛んだ。
マジですか、ディア様……!? そうだ、今のうちに詠唱を!
「────────【ワイド・デオフレイムアロー】!」
リズちゃんが弓に乗せていた魔法。別に弓が無くても短距離なら撃てる!
あたしとディア様を中心に、炎の矢を複数射出した。
ランプルウルフのうち何頭かにヒットし、燃え盛る。
中級の魔法だけど、【デオ】の力を上乗せしたから、そこそこ効いてるはず!
「今のうちに────【デオヒーリング】!」
ディア様の回復魔法で、あたしの受けた肩の傷が癒えていった。
本当に、大した人だよ。
「グルルルル……」
「ガウウウウ……」
ランプルウルフ達ダメージに怯みながらもは、あたし達を警戒するように唸っている。
「キシュルルルル」
この声!もう一体いる別の奴だ……どこにいるんだ!?
「メアリ!あそこ!」
ディア様の指さす方を見ると、崩れた天井の上にぶら下がる魔物の姿が見えた。
黒い羽を折り畳んで、こちらを伺うように目だけを覗かせている。
ただの魔物じゃない……あれは、魔族に近い何かだ!
「イケニエヲササゲルノダ!!」
「喋った!?」
羽を広げて、飛び立つ謎の魔物。
こんな奴、相手にした事が無い……!
「キャアア!!」
「ディア様!?」
ディア様の背中に深い傷が!何かで切り裂かれた……!?
「キシュルルル……」
魔物は、その爪に付いたディア様の血を恍惚の表情で舐めている。
「ディア様!すぐに回復します!」
「大丈夫……これくらい!」
ディア様はそう言うと、初等のヒールと思われる魔法を、自分で掛けながら立ち上がった。
そんな魔法じゃ、回復が間に合わない!
「「ガアアア!!」」
「うわあ!!」「キャアアア!!」
詠唱しようとした途端、ランプルウルフ達が飛びかかって来た。
右往左往に飛び交いながら、爪による攻撃を繰り出してくる。
「こんなことで……負けていられないの!」
「キャウン!!」
ディア様は、飛び掛かって来たランプルウルフを蹴り返した。
地べたに倒れ、ランプルウルフは痙攣している。
「このくらいで負けていたら……あの人に笑われちゃうわ!!」
「ディア様……」
ディア様の脳裏には、あの人の姿が浮かんでいるんだ……。
あたしも、こんなのでへこたれていたら、ロデオさんに顔向けできないな!
「キシュルルル!!」
「ガウガアアア!!」
謎の魔物とランプルウルフが、同時に飛び掛かって来た。
何とかして、詠唱の隙を作らないと……!
「ディア様、目をつぶって下さい!」
「え……? ええ、わかったわ!」
「【ブライトニング】」
あたしの指から発せられた強烈な光に、魔物達は視力を奪われもがいている。
たぶん、これは一回しか通じない……でも、これで隙はできる!
「────────【ボルテクス・インフェルノ】、【アサルト・トルネード】」
両手から中等上級魔法を生み出す。あたしはそれを、魔物達に向け同時に放った。
風の魔法が、火を巻き込み魔物達へ向けて進んで行く。
グランドヘルメスに受けた反撃からヒントを得た複合魔法だ。
高等魔法まで詠唱する隙は作れなかったけど、これならそれに近い威力が期待できる。
「くらええええ!!」
「「「ギャアアアア!!」」」
目つぶしを喰らって倒れていたランプルウルフ達に直撃した。
炎をはらんだ竜巻が、魔物達を巻き上げながら焦がしていく。
「キシェエエエ!!」
羽の生えた魔物には、間一髪かわされてしまった。
なんてすばしっこい奴……!
魔物は、そのまま滑空し突撃してきた。
大きく口を開け、ディア様へ向けて突っ込んでくる。
「ディア様危ない!!」
あたしは、ディア様に覆いかぶさった。
上腕に鋭い痛みが走る……魔物は、あたしの腕に牙を突き刺していた。
「うぐっ……!」
「キシシシシシ……」
魔物の嫌な笑い声が聞こえる……こいつ、あたしの血を吸ってやがる!
「……離せえええ!!」
杖で叩いても外れない!やばい!意識が……!
「メアリを……離しなさい!」
ディア様の鉄拳を受け、魔物は吹き飛んだ。ディア様も、そのままの勢いで前のめりに倒れてしまった。
あたしの腕には、折れた牙が深く突き刺さっている。
「ディア様……すぐに治療しないと!」
彼女も背中に深い傷を負っている。このままでは、全滅してしまう……。
誰でもいいから、戦士の人を連れてくるべきだった。
魔道士やヒーラーは、彼らの補助があってこそ戦う事ができるんだ。
「メアリ……すぐに治療してあげるから……!」
「それは、こっちのセリフですよ……!」
詠唱しようにも、敵は待ってくれそうもない。
「キシェエエエ!!」
羽の生えた魔物が叫ぶと、ランプルウルフがどこからともなく出現した。
嘘でしょ……!? もう、無理……!
「負けられない……私は、あの人の横に立つって、これまで頑張って来たんだから!!」
ディア様は立ち上がった。その表情は凛とし、ある種、王者の風格を感じさせた。
「「「ガアアア!!」」」
ランプルウルフ達が一斉に跳びかかって来た。
ディア様は、一呼吸して拳を引いた。
────その時、何か閃光が走ったような気がした。
「「「ギャウン!!」」」
瞬間、ランプルウルフ達の上顎が宙を舞い、魔物達は絶命して地へ落ちた。
一体何が!?
暗闇に、一つの影が立っていた。鎧を身に纏い、手には剣を携えている。
誰かが助けに来てくれたんだろうか。
視線を上げていくと、そこには……
首の無い騎士が立っていた。
「キシェエエエ!!」
羽の生えた魔物が、ランプルウルフ達を従え突撃してくる。
首の無い騎士は、深く腰を落とし、上空を薙ぐように剣を払った。
そこには、首をはねられたランプルウルフ達が横たわっていた。
残された羽の生えた魔物は、怯えたような表情を見せとどまっている。
ここまでで、充分詠唱の時間は取れていた。
「【イグニション・デオインフェルノ】」
杖の先から放たれた巨大な火球が、羽の生えた魔物を捕らえ燃え盛る。
空に逃げようが、その炎が消える事は無い。
やがて、羽の生えた魔物は、煤のように燃え尽きて地上へと落下した。
魔物達の気配が消えると、首の無い騎士は、闇に紛れるように姿を消した。
「……また助けられちゃったね」
ディア様は、彼の消えた場所に泣き崩れた。
あたしの目からも、涙が止まらなかった。
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