44:空を飛ぶ
第44話です。
『リズよ。それをここへ』
風の精霊は腰に付いていた袋を指差しました。
袋の中には、私の大切な宝物が入っています。
『私は見ての通り、生身の精霊石。そこへ宿らせていただこうと思います』
風の精霊石は、枯れた冠に宿りました。
冠は、精霊の力で新たな息吹を吹き込まれ、ヘッドティカのような形へと変化しました。
『では改めまして。私の名前は────────』
ヘッドティカは、私の額に収まりました。他の精霊石も、私の体へと戻ってきます。
空間が戻り、元居た丘の蓮華畑が広がりました。
◆◇◆◇
「リズさん、東の地へ行こう」
「はい」
私は魔力を集中し、風の精霊の名を叫びました。
「【アルネウス】」
額から放たれた光が、風の精霊の姿を具現化していきます。
その姿は先程見たものとは違い、大きな尾の生えた美しい鳥の姿でした。
『驚いていますか?』
「まさか、鳥の姿になるなんて思いませんでした」
『ふふ、この方があなた達を運びやすいものですから』
私とクルス様は、風の精霊の上に乗りました。
こう言ってはなんですが、すごくモフモフとしています。
その羽毛からは、ちょっとお日様のにおいがします。
『振り落とされないように気を付けて下さい』
アルネウスは羽ばたき、上空へと舞い上がりました。
「わ、わ、わわわ!?」
「すごい!とても高いですね!」
眼下の景色が小さく見えます。
遠くの町や村も小さく見えて、まるで小人の世界にでも迷い込んだかのように、錯覚してしまいそうです。
『では行きましょう。トサカは痛いので、掴まないようにして下さいね』
アルネウスは、上空から滑空するように飛び立ちました。
凄い速度です!景色がどんどん後ろへ流れていきます!
「凄いです!エプリクスも速かったけど、アルネウスはもっと速いのですね!」
『ぬう……地上なら負けぬ……!』
『風の精霊の力は、こんなものではありませんよ!』
「これ以上速度上げないでくれぇえええ!!」
私達は風の精霊に乗って、東の地へと向かいました。
◇◆◇◆
「メアリさん!」
誰だっけ、あれ。
宮廷魔道士になったのはいいけど、同僚の名前とか全然覚えられない。
「えっと……エロイ君?」
「エゴイです!いつになったら、僕の名前覚えて下さるんですか!」
「ごめんごめん。それより、そんな慌ててどうしたの?」
「王がお呼びです!」
王が? 一体何の用事だろ。とりあえず、謁見の間へと向かおう。
途中でレドさんに会った。彼も呼ばれたらしい。
何があったんだろう?
「失礼します」
謁見の間には、ディア様と、デミアントの女王が来ていた。
「よく来てくれたな」
「何かあったのですか?」
『災いが起ころうとしています』
デミアントの女王は、悲痛な面持ちで言った。
その触覚が、完全に垂れ下がっている。この方は、特に感情が触覚に出やすい。
「災いって、どういうことですか?」
『私達の奥にある、小さな意思が鼓動し始めました。
それは、はるか昔……魔王が魔物に植え付けた闇の意思です』
魔王?それって、お伽話とかに出てくるあの魔王?
『魔王の復活が近付いているのです』
「ちょっと待って……いきなりそんな事言われても何が何だか……」
時折女王から暗黒の魔力のようなものを感じる。
これが、その闇の意思というものなのだろうか。
『魔王が復活すれば、魔物はより凶暴になります。それは私達デミアントも例外ではありません。
闇の意思は、日に日に強さを増しています。このままでは、貴方達を……』
女王は、まるで人間が泣き崩れるかのように座り込んだ。
その姿はとても悲痛で、見ているこちらも辛くなるほどだった。
『私達は、エスカロ高原へ籠ります。申し訳無いのですが、兵達も引き上げさせていただきます……』
「うむ、いたしかたあるまい……これまで、よく頑張ってくださった」
『コルン王……魔物の私に、もったいないお言葉です。
もちろん、私達は魔王の言い成りになる気はありません。最後まで抵抗してみせます』
女王は立ち上がった。
『リズにもよろしくお伝え下さい……私達デミアントは、絶対に悪の意思に負けないと!』
「女王様……私達はあなた達を信じています。リズだって、絶対にあなた達が負けないって信じてくれますよ!」
『ありがとうございます、ディア様』
女王とディア様は、固く握手を交わした。
◆◇◆◇
この日、コルンからデミアント達の姿が消えた。
「ねーねー、お母さん!アリさん達どこ行っちゃったの?」
「アリさん達はね……お家に帰っちゃったんだよ」
「いつ帰ってくるのー?」
町の子供達は、デミアントの兵隊が居なくなってしまった事を悲しんだ。
子供達だけじゃ無い。大人達も悲しんでいた。
「レドさん……魔王について何か知ってる?」
「いや、俺も昔話程度にしか聞いた事無いな。
どこか、大きな図書館でもあれば、何かわかるかも知れないが……」
コルンはそれほど大きな国では無い。
国立の図書館なんてものも無く、この国で集められる情報は知れている。
「アステアが残っていたら、あそこの図書館で調べられたかも知れねえけどな」
「図書館……もしかして、まだ残ってるんじゃない!?」
「どうだろうな」
あたしは修道院へ向かった。ディア様なら、何か知っているんじゃないだろうか。
「メアリさん、どうされたの?」
「ディア様、アステアの図書館についてお聞きしたいのですが」
「国立の図書館は魔物の襲来で……」
「そうでしたか……いや、すみません!辛い事を思い出させてしまって!」
やっぱり、図書館も魔物の襲来で壊されちゃってたんだ。
悪い事聞いちゃったな……。
「何か調べたい事があるの?」
「魔王について調べようかなと思っていたんです」
「それなら、王室の書庫にあるかも!」
「え?」
王室の書庫?そんな所があるの?
「おそらく、あそこならまだ残っているわ……地下にある書庫なの」
「本当ですか!?」
「でも、王族にしか入れないようになっているから」
「そうなんですか……じゃあ、私では無理ですね……」
諦めようと思ったら、ディア様から意外な提案が出た。
「私を一緒に連れて行って!」
「……へ?」
「デミアントの女王様が可哀想だったし、私も魔王の事が気になるし、何か力になりたいの!」
「そんな事できるわけが無いでしょう!? 遊びに行くわけじゃないんですよ!」
急に何を言い出すかと思ったら、この王女様は……まったくもー。
「遊びで行くつもりは無いわ。自分の身だって自分で守る。
メアリだって、魔王の事知りたいんでしょう?」
「そうですけども……」
ディア様の目は真剣だ。
そういえば、リズちゃんが大怪我したあの日、彼女の怪我を治したのはディア様だった。
この人も、ただここで暮らしていたわけじゃない。
修道院でも特別扱いを拒否し、一般の修道女と同じようにがんばってきたんだ。
「メアリ、一緒に行きましょう!」
「でも……コルン王に知れたら怒られちゃいますよ」
「私に名案があります!」
なぜだろう。こう言うセリフって、凄く嫌な予感がするんだけど……。
お読みいただきまして、ありがとうございます。
インコの首の裏辺りに顔をうずめたいです。




