表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/62

43:精霊達の過去(2)

第43話です。

 神々により、我々魔王の魂は、精霊石へと封じ込められました。

 石の中で魂を浄化され、精霊となった私達は、【盟約】を果たしたメディマム族の高い魔力を糧にのみ、力の行使を許されました。

 それは、別の意味で言えば、我々の力の枷でもあったのです。


 それでも、メディマム族の操る精霊魔法は、人間の生み出すあらゆる魔法を凌駕していたと言えます。

 本来は世界を豊かにするはずのこの能力も、裏を返せば強力な兵器ともなるのです。

 ある人間の王は、戦争の道具として、メディマム族の力を利用しようと考えました。

 純粋な心の持ち主であるメディマム族は、その王に誑かされ、彼らの心にも野心が芽生え始めました。


 メディマム族達は、我々精霊の力を戦争に用いました。人間の王は、戦果に応じて彼らに富を授けました。

 いつしかメディマム族は、神々により託された任を忘れ、戦いに溺れるようになっていきました。

 しかし、その強大な力は彼らにとって、諸刃の剣でもあったのです。

 力による支配が進むにつれ、人間の王はメディマム族と精霊魔法を恐れるようになりました。


 人間と、メディマム族の戦いが始まりました。彼らを利用しようとした王は、その戦いで殺されました。

 それが更なる悲劇を生み、彼らは人類全てを敵に回す事になるのです。

 幾ら強大な力を持っていても多勢に無勢。戦局は人類に傾き始めました。


 そんな折、メディマム族の中に一際高い魔力を持つ男が現れました。

 男は生まれながらに闇の魔力を宿していました。

 戦乱が続く中、男に眠る闇の力は、彼を魔王へと変貌させていきました。

 闇の魔王が誕生したのです。


 闇の魔王は、その膨大な魔力で魔族や魔物を従えました。

 メディマム族も魔王へと加担し、戦争は激化していきました。


 人類は、魔王に対抗する為、神々に祈りを捧げます。

 祈りは届き、新たな勇者が現れました。

 勇者は次々と魔族を打ち破り、闇の魔王の下へと辿り着きました。その勇者の体には、精霊石が身に付けられていました。

 彼もまた、メディマム族だったのです。


 勇者は我々精霊の力を用い、遂に魔王を封印する事に成功しました。

 そして、精霊の力で、荒廃した世界を再生していきました。


 全てが終わった時、神々は勇者を含むメディマム族から、罰として力を奪いました。

 メディマム族は、その髪の色に名残を残すのみの普通の人間となったのです。

 精霊石に戻った我らを使役できる者は、この世界から居なくなりました。


 力を失ったメディマム族は、その後、人間により滅ぼされたと聞きます。


━・━・━・


 風の精霊の話は、ここで終わりました。


「そういえば、幼い頃にそんな話を本で読んだことがあった。

 御伽噺か何かの寓話みたいなものだと思っていたけど、そんな歴史が隠されていたのか」


 クルス様は、感慨深げな表情で呟きました。

 メディマム族は、その力に溺れ、自滅への道を辿ったのです。

 なんと愚かで悲しい種族なのでしょう。そして、私にもその血は流れているのです。


「メディマム族は力を失ったはずなのに、なぜ私は精霊を使役する事ができるのですか?

 しかも、私はその血を半分しか受け継いでいないんですよね?」

『それについては、感付いた事があります。一つは、あなたの魂の問題です。

 人間にしては純粋過ぎるその魂、この世界のものではありませんね?』


 風の精霊の問いに、私は頷きます。


『あなたは、偶然この世界へ生まれたと思いますか?』

「どういう事でしょう……?」

『実際にあなたを見るまではわかりませんでしたが、恐らく神の意志が働いています』


 神の……?私のようなものに、そんな事が起こり得るのでしょうか?

 精霊達の話を聞いても、いろいろと疑問だらけです。


「ルドラというメディマム族に会いました。彼の力は、メディマム族と呼ぶに相応しい強大な力だったと思います」

『それは、もう一つの要因に直結していると考えています』


 もう一つの要因……?


「では、私の母についてです。母は、そのルドラという男の妹だと聞きました。

 ですが、母はの髪は赤では無く、私と同じ色をしていました」

『その髪の色は、メディマム族にとって異端者の証です。

 かつて、闇の魔王を封印したメディマム族も、あなたと同じ髪色をしていたのですから』


 勇者が、私や母と同じ髪色を?


『では、もう一つの要因についてお話しましょう』


 精霊達は、精霊石へと戻っていきました。

 精霊石が一際輝きを増します。


『闇の魔王の復活が、迫っています』


────────

────

──


「土の精霊石の奪取に失敗したか……」


 アリエスは、口惜しそうに呟いた。

 その手には、闇色の歪な形をした宝玉が握られている。


「カペルの消息も不明です。おそらく、倒されたものだと思われます」


 報告を受けたアリエスは、無言のまま祭壇へと上がっていった。


 勇者が現れたとでも言うのか……?いや、それよりも気になる事がある。

 アステアで見た、あの具現化魔法を使う娘……もしや……。


 アリエスは、宝玉を高く掲げた。

 その宝玉の中は、まるで絵の具を落としたかのように、闇の色が漂っている。


 生贄が足りない……もっと、魂を捧げなくては。


「我らの王を復活させる為に、生贄を捧げるのだ!」


 祭壇の上から叫ぶアリエス。

 魔族や魔物達は、それに応えるように喝采の声を上げた。


「いよいよ、愚かな人類に打って出るときが来たのだ!」


 魔物達から雄たけびが上がる。北の大地は、魔物達の声で打ち震えた。


 この宝玉が完全に闇色に染まる時、闇の王は復活する。

 我々の悲願も、その時達せられるのだ。


「アリエス様、出陣の許可を」


 大きな羽の生えた魔族が、アリエスに跪き言った。


「西の国だ。必ず滅ぼして来い」

「承知致しました」


 魔族は多数の魔物を率い、北の大地から出陣した。

 その数は、北の大地の空を黒く染めるほどだった。


────────

────

──


「闇の魔王というのは、先程の話に出てきた魔王の事ですか?」

『その通りです。闇の魔王の魂は、我々と同じく石に封じられています。

 何者かが、その封印を解こうとしているのです』


 そんな……もし、そんな事になれば、世界は大変な事になってしまう!

 ゲルドという男が、死の間際に言っていたのは、この事だったの……!?


 私の脳裏に、あの男の今際の言葉が響きました。


『リズよ。あなたは選ばれたのです。太古から続く因縁を断ち切る為に……』


 私なんかが、なぜそんな使命に選ばれたのかはわかりません。

 ですが、このままでは世界が滅ぶとわかっていて、傍観者を決め込むのは嫌です。


「私は、私の大切な人達を守りたい……その為なら何だってしてみせる!」


 人間に生まれ変わって、ディア様やクルス様……私にも大切な人達ができました。


 家族や友達、生まれ育った町の人々を失って、辛く悲しい思いもしました。

 もう、そんな思いはしたくない……!


「僕も……リズさんに付いていく。彼女を守ると決めた!

 僕はもっと強くなりたい……どうしたら強くなれるんだ!」


 クルス様は叫びました。

 私は愚かにも、クルス様も守るつもりでいました。でも、彼は私を……。

 

『世界を渡り歩き、様々な地域を見て来ました。

 ここよりはるか東……そこに、あなたの求めるものはあります』

「はるか東!? そんな遠くまでどうやって行けば……」

『私の力を持ってすれば、それほど時間は掛からないでしょう』


 精霊石が私に近付きました。


『迷いはありませんね?リズ』

「はい」

『では、私と【盟約】をしましょう』

お読みいただきまして、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ