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36:土を司るもの

第36話です。

 建物の内部は、土壁で閉ざされているため真っ暗です。ブライトニングで照らしながら進みます。

 長く続く階段を上ると、その先に祭壇のようなものが見えました。

 あそこに土の精霊が……。


 駆け上がろうとして、突然魔力の大幅な減少に足が取られました。

 これは、カペルキュモスによる魔力の減少です。

 急いで土の精霊を連れて、皆さんの所へ戻らなくては────。


 周りには、禍々しい魔物のような彫像が置かれています。

 祭壇の中央に杯状のものがあり、そこに装飾の施された腕輪がありました。

 これが、土の精霊石……?


『私に何の用だ、メディマム族の娘よ……』


 手を触れようとした時、低く響く声が頭の中に響きました。


「あなたが土の精霊……お願いです!あなたの力を私に貸して下さい!」

『私はもう戦い疲れた。争いの道具に利用するつもりならば、ここから立ち去るがよい』


 精霊石が鈍く光り、巨大な土でできた手のひらが私の前を遮りました。


「強大な魔族から大切な人達を守る為に、あなたの力が必要なんです!お願いします!」


 土の精霊からの言葉はありません。

 このままでは、あの魔族にみんな殺されてしまいます……クルス様も……。


『土の精霊よ……我が主は、今まで我々を利用してきた者達とは違うぞ』

『その声……火の精霊か』


 指輪の精霊石が淡く光っています。

 エプリクス……いつも私の為に守り、戦ってくれる火の精霊……。


『我が主は、人々を魔の脅威から守る為に我ら精霊を使役している。

 精霊の力を破壊や戦争……私利私欲の為に使った事など、一度たりとも無い』

「エプリクス……」


 土の壁が崩れていきます。

 そして、土の精霊石が浮かび上がり、淡い光は次第に強さを増していきました。


『メディマム族の娘よ……お前の願いを、今一度言うがいい』

「私は……大切な人達をもう死なせたくない!私に、みんなを守れる力を下さい!」


 精霊石は光り輝き、その光は私の右腕に注がれました。

 そこには、祭壇にあった腕輪が────。


『お前ならば私達精霊を……過去の呪縛から解き放ってくれるのかも知れんな』


 右腕の精霊石が、再び光り輝きます。


『メディマム族の娘よ。私はお前と【盟約】をしよう。さあ、私の名を呼ぶがいい。私の名は────────』


「【ウィストモス】」


 光が膨れ上がり、それは巨大な姿を照らし出していきました。


◆◇◆◇


『優しき主よ、間に合いましたね……』


 巨大な腕が壁を突き破り、土の巨人は私を乗せて戦場へ跳び出しました。

 その巨体は屈んでなお、この大きな空洞内の天井の高さまで届いています。


 皆さんは……!?

 怪我は負っていますけど、カペルキュモスのお陰で大事には至っていないようです。


「カペルキュモス!ありがとうございました!」

「それが土の精霊か!素晴らしい、素晴らしいぞぉおおお!!」


 巨大に見えた黒毛の魔族が小さく見えます。

 魔物は跳躍し、こちらへと飛び掛かってきました。


「メディマム族の娘よ!精霊共を私に寄越せぇえええ!!」

「ウィストモス!この魔族を攻撃して下さい!!」

『ウォオオオオ!!』


 ウィストモスは右腕をはたくように、魔族へと振り下ろしました。


「ぬがぁああああ!?」


 黒毛の魔族は、ウィストモスの巨大な手のひらに叩き落とされ、地に伏せました。


「こんな……こんな物理的な力だけで!私を倒せるとでも思っているのか!!」


 黒毛の魔族は再び立ち上がり、両手に闇の魔力を溜め始めました。

 そして、両手を重ねこちらへ向けてきます。


「収束した闇の波動だ!精霊といえども、これを受けて無事ではあるまい!」

「そうはさせないぞ!!」


 クルス様が、魔族に向かって飛び出しました。


「お前から死にたいかぁあああ!!」


 黒毛の魔族の腕が、クルス様へと向けられました。

 このままでは、あの時のロデオ様のように、クルス様も……!


「ウィストモス!お願い……クルス様を守って!!」

『心得た』


 ウィストモスは巨大な腕を地面に突き刺しました。


「死ねぇえええ!!」


 暗黒の波動が、クルス様へ向けて一直線に突き進みました

 瞬間、ウィストモスの巨大な腕がクルス様の前に出現し、その暗黒の波動を受け止めました。


「土の精霊の腕……なんて大きいんだ……」

「この私の最大の攻撃が……こんな土壁などに!?」

『私の力は守る力。主の守りたい願いが強ければ強いほど、私の力も増していく』


 黒毛の魔物は歯噛みして、こちらを睨みつけてきました。

 私は、ウィストモスへ送る魔力を高めていきます。


『そして……攻撃こそ最大の防御だ!』


 その巨大な腕は、黒毛の魔族の頭上へと向かいました。

 魔族は両腕で、ウィストモスの腕を受け止めます。


「ウィストモス!そのまま、魔族を押し潰して!!」

「ふざけるなっ!! こんな事で、このカペル様がやられてたまるかぁああ!!」


 黒毛の魔族は、ウィストモスの腕を押し返そうとしてきます。

 まだ魔力が足りないなら……もっと、もっと私の魔力を使ってください!ウィストモス!!


「私は……アリエス様の直属の配下、カペル様だぞ!!

 こんなところで……こんな事で、死んでたまるかぁああああ!!」

「うわぁああああ!!」


 この魔族をここで倒しておかないと、多くの人々が苦しんでしまいます!

 私の魔力が尽きようとも、負けるわけにはいきません!


『優しき主よ、私の分も魔力を……』


 カペルキュモスが光となり、精霊石へ戻ってきました。

 私は魔力の全てをウィストモスへ注ぎこみます。


「ぬがぁああああ!!」

「負けない……負けない!!」


 黒毛の魔族の力は、私が思っていた以上に強大でした。

 あと少しなのに……あと少しなのに!

 その時、何かが私の肩に触れたような気がしました。

 私の体に魔力が満たされていきます。


「ルドラ……?」


 そこには、死んだはずのルドラの姿がありました。


「ウィストモス!!」

『ウォォオオオオ!!』


 ルドラから受け取った魔力を、ウィストモスへ全て注ぎこみました。


「こ、こんな……こんな馬鹿な……!! この……この私がぁあああああ!!」


 ウィストモスの腕は、地中深くへと沈んで行きました。

 魔族の断末魔が空洞内に響き渡り、地中からはマグマが噴き出しました。


◇◆◇◆


「ルドラ、ありがとうございました!」


 ウィストモスの肩から降り、私はルドラの所へ駆け寄りました。

 しかし、彼は物言わぬまま横たわっています。

 彼はやはり、死んでいました。


「そんな……では、さっきのは一体……」


 私達に掛かっていた、ルドラの防御魔法が効力を失い消えて行きました。


「リズさん……お疲れ様。またクルス様に戻っちゃってましたね」

「クルス様……ルドラがさっき、私を助けてくれたんです!」

「これで罪滅ぼしのつもりなのかねえ……」


 チキータさんが、横たわるルドラを見て言いました。


「あたしが殺したかったんだ……!それなのに……!!」


 チキータさんの瞳には、様々な感情の混じった涙が流れていました。

 彼女に掛ける言葉が見つかりません。

 私も、彼女の恨んだメディマム族だったのですから……。


「上級冒険者の私達が、何もできなかったな……これでは、依頼料を受け取るわけにもいかない」

「まぁ、いい経験になりましたよ」

「俺はもう、こんな化け物共と戦うのはごめんだぜ」


 フリューゲルさん達は、苦笑しながらチキータさんを見て言いました。



「【エプリクス】……ルドラの遺体を焼いてください」


 私に僅かに残った魔力で、エプリクスを呼び出しました。

 エプリクスの火により、ルドラの体は焼かれていきます。


 この人は魔人で、私の母の兄で、この鉱山に居た多くの人々を殺しました。

 憎まれるべき対象です。

 なのに……焼かれて行くその姿を見て、私の目からは涙が止まりませんでした。

お読みいただきまして、ありがとうございます。

敵の名前が文章にあまり出てこないのは、リズがその名前を呼びたがらないからです。

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