28:東の地を目指して
第28話です。
あれから数日が経ち、コルン王国は少しずつですが落ち着きを取り戻しつつあります。
ゲルドの起こした反乱で、ロデオ様を始め多くの兵達が亡くなりました。
デミアントの女王様は、そんなコルン王国を憂い、多くの兵を貸し与えてくださりました。
すっかり人気者になったデミアントの兵達は、今日も町の子供達にじゃれつかれながら町の平穏を守っています。
私は土の精霊を探す旅に出る事にしました。
王様にも既に許可は取ってあります。
ゲルドは言いました。私は、過去に人間に仇為した一族なのだと。
正直なところそんな話、自分でも信じられません。
確かにこの指輪は母から譲り受けたもので、私は精霊を使役する力を持っていました。
でも、私の知る限り、母はただの人間です。
十年間母と共に過ごしてきましたが、普通の人間と特に変わった所は無かったはずです。
私も、前世が別世界の働きアリだったという事を除けば、何事も無く普通の子として母に育てられてきました。
女王様から、土の精霊はエカルド地方に居ると聞きました。
そこへ行けば、その一族についても何か手掛かりがあるかもしれません。
◆◇◆◇
「それではシアさん、行ってきます」
「リズちゃん、あんたの畑はしっかりとこの馬鹿息子が守っておくから、いつでも帰っておいでよ」
「はい。ヒノさん、よろしくお願いします」
「ああ、リズちゃんも気を付けて」
シアさんとヒノさんに挨拶をして、町の城門へと向かいます。
そこにはディア様やクルス様達の姿がありました。
お忙しい中、来てくださったようです。
「リズ、本当に行ってしまうのね」
「はい。ですが、ディア様の危機には、すぐに駆け付けさせていただきますのでご安心ください」
「ディア様の事なら心配しないで。お姉さん宮廷魔道士として雇われたから。
どんな魔物が来ても、全部やっつけてあげるわ。それに、レドさんも居るし」
「まぁな。俺もそろそろ落ち着こうと思っていた所だ。
俺もメアリも所属はアステア国だが、コルン王からたっぷりと金は貰えるし逆に良かったのかもな」
「メアリ様、レド様、よろしくお願いいたします」
「リズ、お前の為に用意した新しい弓と矢だ。きっと役に立つと思う。持って行ってくれ」
「ありがとうございます、リトル様。大事に使わせていただきます」
皆様に挨拶を済ませ、いよいよエカルド地方へ向けて旅に出ます。
ロデオ様は、治安が良くない所だとおっしゃっていました。
途中にある町のギルドで、冒険者の方を雇おうと思います。
実は王様から、今回の旅の資金として結構いただいています。
なので、しばらく資金に困る事も無いでしょう。
「クルス様もお見送りありがとうございます。
騎士団のお仕事、大変だと思いますけど頑張ってくださいね」
あの時、クルス様は私に付いてきて下さるとおっしゃっていました。
でも、ロデオ様も亡くなり、アステア騎士団は副長であるクルス様がまとめなくてはなりません。
こんな時まで、私の我がままに付き合っていただくわけにもいきませんし、残念ではありますが私は一人で旅立つ事にしました。
「リズさん、その……」
「どうかされましたか?」
「僕……騎士団辞めてきました!」
「ええ!?」
クルス様は、今、何とおっしゃったのですか!?
騎士団を辞めたと聞こえたような気がするのですけど……
「ギルドに登録し、僕は冒険者となったのです。
約束通り、エカルド地方に向けて一緒に参りましょう!」
「え?あ、はい?」
何がなんだかよくわかりません。
クルス様は冒険者になられたのですか!?
騎士団は大丈夫なんですか!?
「クルスがね、どうしてもリズに付いて行きたいっていうのよ!」
ディア様が笑いながらそうおっしゃると、クルス様は顔を真っ赤にしてディア様に小声で何かおっしゃっています。
「と、ともかく、リズさんを一人でそんな危険な所へ行かせるわけにはいきませんので!
別に何もやましい気持ちとかはありませんから!」
「あ、はい……」
私としましても、クルス様が付いてきて下さるなら、これほど心強い事はありません。
でも……
「クルス様、残された騎士団の方々は大丈夫なのですか?」
「その事でしたら、アステア誇る騎士団には有能な人材が沢山居ます。
新しく団長と副長も決まりましたし、心配は要らないでしょう」
クルス様は何の事でも無いようにおっしゃりました。
それでしたら、せっかくの申し出をお断りする理由はありません。
「クルス様、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
私とクルス様はディア様達に見送られ、城門を出ました。
ここから、エカルド地方までの旅が始まります。遠く東の地に居るという土の精霊。
そこを目指し、私達は進んで行きます。
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──
はるか北にある極寒の地。
そこで、ある強大な闇が産声を上げようとしていた。
「もうすぐだ。もうすぐ我らが王が蘇りになる」
多くの魔族、魔物達がひれ伏す中、祭壇の前に立つその男は呟いた。
ここは、とある国が栄えていた場所だった。
既に魔物達に滅ぼされたこの地には、もう人間は存在していない。
ただ一人の人間を除いては────────
「アリエス様、申し上げます。ゲルドが敗れたそうです。コルン王国攻略は失敗に終わりました」
魔族の男は、祭壇の前に立つ男、アリエスにそう伝えた。
「ふむ……あやつの復讐心を利用し、コルン王国を落とせればと思っていたが、まぁ仕方あるまい」
「アリエス様。もしよろしければ、次は私めが参りましょうか」
「いや、あの地で一番の支配力を誇ったアステアはもう無いのだ。
失敗したのは、あの男が無能だっただけの事。そう急ぐ事もあるまい」
アリエスは不敵な笑みを浮かべると、ひれ伏す魔物達へ向き直った。
その手には、禍々しい歪な形をした宝玉を掲げていた。
「魔物共よ!もう間もなく、我らが王、チェムルタース様がお目覚めになる!王へ生贄を捧げよ!」
アリエスの演説に、魔物達が沸き立つ。
アリエスの傍に立つ魔族達も喝采を上げる。
「もうじき、我らの闇の世界が訪れる。ディアよ、その時が来れば、お前は私の妻として迎え入れてやろう」
アリエスは、厭らしい笑みを浮かべながら呟いた。
その手に持つ宝玉は、怪しい鳴動を繰り返していた。
「アリエス様、私に指示をいただいても宜しいでしょうか」
アリエスの前に跪き、魔族の男が言った。
「では、お前は東の地へ向かうがいい。
そこには土の精霊が居ると言う。そいつを従え我が下へ連れてくるのだ」
「畏まりました」
魔族の男はアリエスへ一礼し、祭壇を後にした。
この時の指示により、リズ達と魔族の男は東の地で出会う事になる。
まだコルンを旅立ったばかりのリズ達は、この先で待ち受ける運命など知る由も無かった。
お読みいただきましてありがとうございます。
これでようやく一区切りという感じがします。
次も頑張って書いて行きます。




