27:ロデオ
第27話です。
ディアの心情を綴ったお話になります。飛ばして次をお読みいただいても特に問題ありません。
ロデオは、幼い頃から私の護衛として仕えてくれていた。
彼は、当時アステア国騎士団の副長として勤めていた。
そこそこの貴族の出だった彼は、そんな事は全く思わせないような気さくな人柄で、周りからの人望も厚かった。
私が外に出る時は、嫌な顔一つせずいつも一緒に付いてきてくれた。
一度、私がロデオと結婚すると言うと、彼は困った顔をして窘めてくれたっけ。
あの日、政務で出掛けた帰り、ロデオは慣れない仕事で疲れた私に、花畑でも見に行きませんか?と町外れの丘の上へ立ち寄ってくれた。
そこで出会ったのが、まだ幼かったリズとマリーだった。
彼女達と過ごした時間は、友達というものと遊んだことのなかった私にとって、とても楽しく貴重な時間だった。
リズはとても優しい子で、マリーはとても人懐っこい子だった。
彼女達と一緒に遊ぶ私を、時間を気にしながらも微笑ましそうに見ていた貴方。
ロデオはその後、騎士団の中でも頭角を現していき、ついに最年少で騎士団の団長に就任した。
私はそんな彼にプレゼントを贈った。
大事な彼を守ってくれるようにと、フォス神の加護の宿ったお守り。
彼は、それをずっと肌身離さず持っていてくれたのを私は知っていた。
アステア国が陥落した日、彼は騎士団長として周辺に発生したモンスター討伐に出かけていた。
しかし、それはアリエスの企てた陽動で、彼ら騎士団が居ないのを見計らい謀反を起こしたのだ。
護衛に付いていた兵達はあっという間に殺され、私の目の前で両親も殺された。
迫るアリエスと謎の魔物達。
私はずっとロデオに助けを求め続けた。彼は傍には居なかった。
アリエスの厭らしい顔が近付き、私は意識を失った。
次に目が覚めた時には、私の傍にロデオがいてくれた。
アステア国の陥落、周辺の町の壊滅、両親を始めとした沢山の国民の死。
様々な悲しい事が、一気に私に降りかかってきた。
彼は、私に『大丈夫です。私がずっと傍にいます』と言ってくれた。
震える私を、彼はずっとその胸に抱いていてくれた。
コルンへ向かう道中、彼はずっと私を守り続けてくれた。
リズも私より幼かったのに、私を守るためと俄然と魔物に向かっていく。
私はいつも守られてばかりだった。
いつか、私も彼らと一緒に戦えるようになりたいと思った。
途中に立ち寄った町で、宿に泊まった。
リズは魔物との戦いで疲れたのか、すぐに眠ってしまった。
彼女はしっかりしているように見えるけど、まだ幼い子供だ。
親しい人達も亡くしてしまい、辛く無いわけがないのに、彼女は私にそんなそぶりを見せることは無かった。
そっとリズの髪を撫で、私は宿の外に出た。
ロデオは外を見張っていた。
彼は、いつまでも私の護衛でいてくれる。
ロデオは私を見つけると、心配そうに駆け寄ってきた。
そんな彼を見て私は嬉しくなり、つい抱き付いてしまった。
彼は困ったような顔で頬を赤らめ、私を突き放した。
私はとっくに自分の気持ちに気付いていた。
彼は私を護衛対象の、良くて妹のようにしか見ていないかもしれない。
でも、私は彼に言った。
『私は幼い頃からずっと、男性として貴方を尊敬し愛しております』
『そんな事言って、からかうのは止して下さい』
『私は本気です』
私が真剣な目で彼を見つめていると、彼は言った。
『私はいつでもあなたの傍に居ますよ』
彼はそう言って、私の頭を撫でた。
結局いつも、ロデオはこうやって私を子供扱いするのだ。
そう思っていると、彼の顔がだんだんと近付いてきて、私は戸惑いながらも目を閉じた。
そして、私達はそっと口付けを交わした。
コルン王国で、私は修道女として身を隠すことになった。
ロデオは毎日のように修道院へ通ってくれた。
修道院では私を特別扱いしないでほしいと言った。
ここで私も真剣に修行をして、回復魔法を覚えたらロデオは私を褒めてくれるだろうか。
コルンまでの道中、彼の横に立っていたリズやメアリを本音を言えば羨ましいと思った。
いつまでも守られるだけの私は、彼に対等の立場とは言えないだろう。
私もいつか、彼の横に立ち共に戦おう、そう思って頑張っていた。
リズはすっかり女性らしく成長した。
まだまだ幼い頃の面影はあるものの、私から見ても魅力的なその姿は眩しくもあった。
ロデオが彼女を連れて魔物討伐に出かけた時は、正直心配もしたし嫉妬もした。
私も早く、彼にふさわしい女性になるんだ。
いつもより何倍も、修練に励んだ。
デミアントという魔物との会談で、久しぶりに表に出た。
リズは牢に入れられていたというのに、思いのほか元気だった。
この子は人を恨むということを知らないのだろうか。
私に対してずっと笑顔を向けてくる彼女。
私がどれだけあなたにヤキモキしていたかも知らないで……ううん、リズはもう私にとって妹のようなものだ。
今はともかく、この子が無事であったことを喜ぶ事にしよう。
あと、この無垢な子に悪い虫がつかないように見張っていてあげなくては。
会談に現れたデミアントの女王は、魔物のはずなのにその仕草は私なんかよりも全然気品に溢れていた。
ロデオも彼女に一目置いているようだ。
私は、この女王の仕草を食い入るように見ていた。
いつか、アステア国を再興できたら、私は女王として国民の前に立つことになる。
その時に備え、私は立ち居振る舞いも身に付けなくてはいけない。
彼女を見て勉強しよう。
そして、女王となった私の隣には、彼に立っていてほしい。
デミアントの女王と話していたら、すっかり意気投合してしまった。
デミアント達はアステアの再建を手伝ってくれるらしい。
まさか魔物と、こんなに仲良く話す時が来るだなんて思ってもいなかった。
その後、私は修行の甲斐があって回復の初等魔法を覚えることができた。
このまま中等の回復魔法も覚えれば、ロデオは私を頼ってくれるだろうか。
そんな日が来るのが楽しみだ。
先輩のシスターに教えを受けながら、私はさらに修行を頑張った。
◆◇◆◇
「ディア様、ロデオさんが……」
ロデオの訃報を聞いた時は、何かの間違いなんじゃないかと思った。
クルスの顔は酷く困憊していた。
ロデオの遺体はとても酷い状態らしく、私は面会すら許されなかった。
彼が持っていたとされる遺品が私に手渡された。
あの日、私が贈ったお守り。
このお守りが、彼を守ってくれる事は無かったのだ。
私はお守りを握りしめ、声を上げ泣いた。
自分の無力さに泣いた。
傍に居られなかった事に泣いた。
大事な人を失った事に泣いた。
リズも大怪我を負ったという。
私はリズの元へと急いだ。
いつもの明るい彼女の表情はそこには無かった。
肩には痛々しく包帯が巻かれて、血が滲んでいた。
「ディア様……申し訳ありません……申し訳……ありません……」
私はリズを抱きしめた。
大事な人を、二人も失うところだった。
私はもう充分に涙を流した。リズが泣き止むまで、私はずっと彼女を抱き締めていた。
『いつでもあなたの傍に────』
そう言った彼は、もう私の傍には居ない。
お読みいただいてありがとうございます。
二話続けて暗い展開で終わらせるのも、読んでいただいている方に申し訳ありませんので、今回はもう一話投稿させていただきます。




