26:復讐者(2)
第26話です。残酷な表現があります。苦手な方はご注意をお願いします。
辺りには、既に息絶えた兵士様達があちこちに倒れています。
その中には、アステア国の騎士様の姿もありました。
凄惨な光景を目にしながら、私達は男が向かったであろうコルン王の下へ走ります。
これ以上被害を出さない為にも、私達は急がなくてはいけません。
「リズ、昨晩戦ったばかりだが大丈夫か?」
レド様が心配そうに私を見て言いました。
まだ魔力は完全には回復していなさそうですけど、そうも言っていられません。
「大丈夫です、レド様!」
謁見の間の前に辿り着きました。既に息を引き取った護衛の兵士様達が倒れています。
中からは、あの男の嫌な魔力が漂ってきました。
「コルン王!!」
目の前には、戦い倒れた騎士様と、男に腹部を貫かれたコルン王の姿がありました。
「ゲルド!貴様ァーーーー!!」
『ほう……貴様ら、私の魔法を打ち破ったというのか』
男は私達に気付くと、その腕に刺さったコルン王を放り投げました。
男の姿はより一層変質し、まるで悪魔のような姿へと変貌していました。
『少し遅かったようだな。この通り、私は一族の復讐を成し遂げた所だ』
「【カペルキュモス】!コルン王の命を救ってください!!」
私は首飾りに手を当て、カペルキュモスを呼びだしました。
『優しき主よ、貴女の望みを叶えましょう』
カペルキュモスの光の膜が、腹部から血を流し続けるコルン王を包みます。
私の魔力が一気に減って行くのがわかりました。
『邪魔をするな小娘!』
悪魔と化した男は、私に向けて腕を伸ばしてきました。
「させるか!」
クルス様の剣が、男の腕を薙ぎ払いました。
『いいだろう。貴様ら纏めてここで排除してくれる』
男は両腕を私達に向け、何やら念じ始めました。
ロデオ様が剣を構え、男に向かって行きます。
「これ以上、お前の好きにはさせん!!」
剣は男に向けて、頭上から真っ直ぐに上から振り下ろされました。
次の瞬間、ロデオ様の持つ剣は、音を立てて折れてしまいました。
『貴様から死にたいようだな。いいだろう……我が魔力を受けてみよ!!』
男の腕からは、闇色の波動が一直線に放出されました。
ロデオ様はその波動に貫かれ、そのまま血を吐きながら倒れました。
「ロデオ様!!」
「ロデオさん!!」
私とクルス様が駆け寄ろうとすると、ロデオ様は手でそれを制止しました。
「く……るな!!」
そんなことを言われても、ロデオ様は大量に血を流しています。
すぐに回復魔法を掛けなくては、このままではロデオ様は……!
『まだ息があるのか貴様。しぶとい奴だ』
悪魔はロデオ様の腹部を何度も踏みつけます。
「やめて!やめてください!!ロデオ様が死んじゃう!!」
「ゲルド!貴様ぁ!」
すぐにでも駆けつけたいのに、ロデオ様の瞳は私達に来るなと言い続けています。
そして、ロデオ様は力を振り絞り、蹴りつける悪魔の足を掴みました。
『貴様!どこにそんな力が!? 離せ!離さぬか!!』
「メアリ……お、お前、ずっと魔力を………溜めてたな…………」
メアリ様は杖を構え、じっと悪魔を見据えていました。
その全身からは、膨大な魔力が流れているのがわかります。
メアリ様は苦しそうな顔で杖を、悪魔へと向けました。
その目からは涙が流れていました。
「構わん……お、俺ごと、この悪魔を倒せ!!」
『離せ!この死に損ないが!』
悪魔は腕でロデオ様の首を刺しました。
ロデオ様の首が飛び、それでもその腕は悪魔を離す事はありません。
「【イグニション・デオインフェルノ】」
巨大な火球がメアリ様の杖から発せられました。
その火球は、悪魔の体を包み込み、岩をも溶かすようなその高熱で燃やし続けます。
『グァァアアアアア!!』
悪魔の叫び声が響き渡ります。
メアリ様は、杖を構えたまま魔力を放ち続けます。
『こんなところで……終わってたまるか!私は新たな王として、君臨するのだ!!』
悪魔が叫んだ瞬間、闇の魔力が体中から発せられました。
その魔力は、メアリ様の高等魔法であろう魔法をかき消そうとします。
「うぐぁぁああああーーーー!!」
メアリ様は魔力を放ち続けます。
魔力が注がれるたびに炎は消えまいと燃え盛ります。
『ふっ……くっくっく!惜しかったな!どうやら私の勝ちのようだ!』
悪魔の闇の魔力が、メアリ様の炎を押し返して行きます。
「ロデオさんだって頑張ったんだ!あたしが……あたしがここで負けるわけにはいかないんだ!!」
「うぉおおおお!!」
クルス様が剣を構え、悪魔の脇から深々と剣を刺しました。
『ガァァアアアアッ……カハッ!き、貴様ァ!!』
「ロデオの弔い合戦だ!! この野郎!!」
レド様は跳び上がり、悪魔の脳天へ斧を振り下ろしました。
『グァァアアアアッ!! こ、この虫けらどもめぇええ!!』
再びメアリ様の炎が押し返します。
『調子に乗るなよ!!』
悪魔から放たれた闇の魔力が、クルス様とレド様を弾き飛ばしました。
再び炎が縮小して行きます。
「【エプリクス】!! あの悪魔を倒して!!」
指輪が光り、火の精霊が悪魔へ向けて突進しました。
『精霊使いめ!邪魔をするなぁ!!』
悪魔から放たれた闇の波動が、私の肩を貫きました。
肩に焼けるような激痛が走ります。
「リズちゃん!?」
こんな痛みで挫けていられません……!
あの方は……ロデオ様は、もっと痛かったはずです!!
エプリクス!私の事は構わず、その悪魔を焼き尽くしなさい!!
『主を傷付けた貴様の行い、万死に値するぞ』
エプリクスは悪魔にしがみ付き、体中から炎を放出します。
メアリ様も、魔力を集中します。
『こ、こんなところで……! こんなところで!!」
悪魔の姿が、だんだんとゲルドと呼ばれた男に戻って行きます。
もう男を炎から守るものはありません。
「もう少し……もう少しだったのだ!! 我が一族の悲願が……理想の世界が!」
何という執念でしょう……!
信じられない事に、人間に戻ったはずの男は炎に焼かれながらもまだ倒れません。
「くっくっく……良い事を教えてやろう……間もなく、世界は闇の恐怖に震えるであろう」
半分朽ちたその体で、男はまだ話し続けます。
その姿に、私は一瞬恐怖を覚えました。
「精霊使いの娘よ!貴様は本来、こちら側の人間だ!
貴様の一族はその精霊の力で人類に仇為し、魔族と共に闇の世界を歩んだ一族だ!」
もう片方しか残っていないはずの男の目が、私をじっと睨んできます。
私はエプリクスに更に魔力を注ぎます。
「その力は諸刃の剣だ!人間共はその力を恐れ、敵として貴様を排除しようとするだろう!!
それでも、貴様は……!奴らを助けようなどと考えられるか!?」
男は笑い声を上げながら焼かれて行きます。
「地獄で……見ていて……やる……ぞ…………」
エプリクスとメアリ様の魔法が男を焼き付くし、男は跡形もなく消え去りました。
私の魔力も尽きて行きます。
「コルン王は……無事ですか!?」
カペルキュモスは微笑んで、光となり消えて行きました。
レド様がコルン王に駆け寄り、胸の音を聞き親指を立てました。無事に助かったようです。
すると、急に私の意識が薄らいで行きました。
遠くでメアリ様の叫び声が聞こえます。
心配掛けてごめんなさい。でも、少しだけ眠らせてください。
ロデオ様……私はあなたを救う事ができませんでした。
ごめんなさい……ごめんなさい……。
お読みいただきましてありがとうございます。
ずっと書いていると、登場するキャラに愛着が沸いたりします。
最初に考えていたプロット通りとはいえ、こういう展開は書いていて私も辛いです。
今回は特に暗い話だったので、何か明るい話題を。
友達の飼っているワンコは、お手というとお手の後に何も言っていないのにおかわりもやってきます。
かわいいです。
※王様の名前を修正しました(*´ェ`*)




