24:悲しい連鎖
第24話です。
私達へ向けて岩の魔物が迫って来ます。
エプリクスが炎を放ち熱した後、そこへカペルキュモスが水を放つ事で、次々と魔物は砕かれて行きます。
『無駄だ』
不気味な魔物から魔力が放出され、砕かれたはずの岩の魔物は元通りになりました。
「何回倒せばいいんだよ……!クソォ!」
レド様の体力もそろそろ限界です。
岩の魔物は倒しても倒しても、前の時とは違い、すぐに元に戻ってしまいます。
やはり、目玉の魔物をどうにかしなくてはいけないようです。
「エプリクス、あの目玉の魔物を倒したいのですが、知り合いの方が憑依されているんです!
どうにかして彼を救い、魔物だけを倒す方法はありませんか!?」
『ふむ……あれは魔物よりも精霊に近いものがあるようだ。
我々と同じく、何かを媒体として呼びだされた者なのではないか?』
媒体……そう言われて、目玉の魔物の胸にある石を見ました。
今も怪しい模様を浮かべながら、その胸で怪しく光っています。
「つまり、あの胸の石を破壊すればヒノさんは助かるのですね!?」
『優しき主よ、あの位置から察するに、既にあの石は憑依した人間の心臓まで浸食しています。
中の人間だけを救うのは難しいでしょう』
カペルキュモスから放たれた言葉は、私が期待していた答えとは違うものでした。
ヒノさんはもう助からない……
『『『お前達を殺したら、次は王都の連中だ!!
我々の受けた恨みを晴らす時が来たのだ!!!!』』』
目玉の魔物は、人の声が何重にも重なった声で叫びました。
レド様が先程言っていた通り、この魔物は、滅ぼされた先住の一族の魂が生んだ魔物です。
男性、女性、子供の声が重なったその声からは、怒りと悲しみが混じった感情が伝わって来ました。
「あの魔物……なんだか可哀想です」
思わず声が出ました。
この人達にもそれぞれ日常があったはずです。それが、突然現れた侵略者により崩されてしまったのです。
人間の身勝手さが生んだ悲しい魔物、それがあの魔物の正体だとわかりました。
「勝手に侵略され滅ぼされた揚句、このような寂しい場所に封じられて……」
「リズ……」
「でも、今の彼らの行為は間違っています。これではただの八つ当たりにしかなりません。
悲しい連鎖はここで断ち切らなくてはいけないんです」
私は魔物の胸の石目がけて弓を引きます。
「カペルキュモス、私はあの石を破壊します!
もし破壊に成功したら、すぐにヒノさんに回復魔法を掛けてください!」
『わかりました。やってみましょう』
「レド様とエプリクスは、すみませんがフォローをお願いします!」
「わかった!」
『他の魔物の事は任せておけ』
目玉の魔物は、両手を上げて魔法を唱えます。
魔物の前方に魔法陣が出現し、私たち目がけて岩の弾丸が飛んできました。
『水の壁よ!』
カペルキュモスが腕を掲げると、水の壁出現しました。
幾つかの弾丸がそれに弾かれて行きます。
エプリクスは、壁を突破してきた大きな弾丸を尻尾で叩き落とします。
「ストーンゴーレムも来たぞ!」
レド様は、私に向かって来ていた岩の魔物を斧で横殴りに粉砕しました。
レド様と精霊達のお陰で、私は集中して目玉の魔物を狙えます。
風の魔法を詠唱します。
普通に撃った矢では、石を破壊することはできません。
ですが、中級以上の風の魔法を乗せた矢なら或いは……私はこれに賭けてみます。
「────────【デオトルネードアロー】」
私の放った矢は風を纏い、轟音を立てながら魔物の胸目がけて進みました。
魔物は手を前にかざし防ごうとします。
しかし、矢は魔物の手を貫き、遂に胸にある石へと到達しました。
『おのれぇええええ!!』
石の魔力が矢を押し返そうとします。
そこへレド様が突進し、斧で矢を押しこみました。
『小癪な真似を!!』
魔物がレド様を襲います。
エプリクスは魔物の腕を掴み、その腕を炎で焼きました。
『ヌゥゥ……貴様らぁあああ!!』
『これで終わらせる。カペルキュモスよ、回復の準備をしておけ』
エプリクスは矢じりを力いっぱい殴りつけました。
『『『グァァァアアアア……!!!!』』』
魔物が叫び声を上げると胸の石は砕け散り、ヒノさんに憑依していた目玉が消えて行きます。
「ヒノさん!」
『すぐに回復を!』
カペルキュモスの魔法の膜がヒノさんを包みました。
腕は焼け、胸は浸食された痕で抉れてしまっています。
「見ろ、ストーンゴーレム達が!」
岩の魔物は塵と化して、次々に消えて行きました。
◆◇◆◇
「ヒノさん、大丈夫ですか!?」
「あれ?リズちゃん……俺は確か」
ヒノさんが目を覚ましました。
カペルキュモスの回復魔法が間に合い、一命を取り留めたのです。
「助かって良かったな。もうこれに懲りたら怪しいクエストに手を出さない事だ」
レド様は腕を組んでご立腹です。
ヒノさんはバツの悪そうな顔をしています。
「お前さんには、帰ったら色々聞かせてもらわねえとな」
「……わかったよ」
私達は町へと戻って行きました。
レド様に聞いた話によると、あの石は元々祠に祭られていたものだそうです。
その石を何者かが持ち出したのが、今回の事件の始まりです。
「あの石は、連中の魂を封じてあったものだ。
もうその石も無くなっちまったし、祠も用済みになっちまったな……」
「あの魂達は、これで悲しい連鎖から解放されたのでしょうか」
「さぁな……」
あの石に封じられた魂は、ずっと自分達を殺した侵略者を恨んで来ていたのでしょう。
コルン王国が建国されるよりもはるか昔の話だそうです。
彼らは復讐をするため、コルン王国に生きる侵略者の子孫達を襲うつもりだったのでしょうか。
「一番最低なのは、その魂を利用しようとした奴だと思うぜ」
「そうですね……」
何とも言えない気分です。
人間に生まれ変わって、私は色々な事を体験してきました。
前世のアリだった頃も弱肉強食の世界でしたが、無益な殺生のある世界ではありませんでした。
侵略された人達の事を思うと、私達のした事は本当に正しかったのか、わからなくなります。
「レド様……少し疲れました……」
「そうだな。今日は帰ってゆっくり休め」
「俺も帰っていいですか?」
「お前は駄目だ」
町の明かりが見えてきました。
色々と思う事はありますが、とりあえず今はヒノさんを救えた事を喜ぶ事にしましょう。
レド様達と別れて、私は家へと帰りました。
指輪と首飾りを眺めます。
私はいつも精霊達に助けられてばかりです。
精霊とは何なのか、私はわからないまま彼らを使役してきました。
エプリクスは、石に封じられた魂達を精霊に近い存在だと言っていました。
もしかしたら彼ら精霊にも、悲しい過去があるのかもしれません。
明日になれば、今回の事件を起こした犯人の調査も進むことでしょう。
まだまだやる事は残っていますし、今はとにかく眠る事にします。
この何とも言えない悲しい気持ちを紛らわせるためにも。
お読みいただきましてありがとうございます。
もうすっかり寒くなってきましたので、お話を書いてる最中はいつも紅茶を飲んでいます。




