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22:怪しげなクエスト

第22話です。

※文章一部修正しました。

 今日はお野菜がたっぷりと収穫できました。

 ジャガイモがたくさん取れましたので、マッシュポテトを作ろうと思います。

 一緒に収穫したトマトも美味しそうです。せっかくですので一つ食べてみます。

 お口の中で水分が弾けて、ほのかな甘みが疲れを癒してくれます。


「リズちゃん、これも持って行きなさいな」

「わー、シアさん、ありがとうございます」


 お世話になっている農家のシアさんが、トウモロコシをたくさんくれました。

 お家に帰ったら、早速湯がいて食べようと思います。


 十三歳の頃孤児院を出た私は、シアさんのご厚意で住む家と畑を借りる事ができました。

 そのお陰でこうして生活をする事ができています。

 シアさんには感謝してもしきれないほどです。


「うちの息子も、リズちゃんみたいにしっかり働いてくれるといいんだけどね」

「ヒノさんですか?」

「俺は冒険者になるんだーって、もういい歳なのにそればっかで。ちっとも家業を手伝いやしない」


 シアさんは溜め息をつきました。

 ヒノさんとは、これまでに何度か会った事があります。

 たまに手伝いに来られるのですが、すぐに抜け出してしまい、畑の隅で木の棒の素振りしています。


「そういえば、ヒノさんはギルドには登録されているのですか?」

「一応登録はしてるんだけどね。いつだったかコボルト討伐に出かけて怪我をして帰ってきて……

 それ以来はクエストも受けていないみたいだよ」


 コボルトというのは、たしか初級のクエストにあった討伐対象の魔物です。

 リトルさんに弓を習っている時に、私も何度か遭遇した事があります。

 動物のような姿をした小さな魔物で、強さもそれほど強くありません。

 冒険者になりたての、初心者向けの魔物だと聞いた覚えがあります。


「このままじゃ、うちの農家を継ぐ者が居なくなってしまうよ。

 リズちゃんさえ良ければ、うちに嫁いで継いでくれると助かるんだけどねえ」

「ヒノさんとは親子ほど歳が離れていますし、私では釣り合わないと思いますよ?

 それよりも、ヒノさんに畑仕事を手伝ってもらえるように説得するのが一番だと思います」

「うーん……上手く行くかねえ……」


 シアさんと話していると、そこにヒノさんがやって来ました。


「リズちゃん、こんにちは」

「ヒノさん、こんにちは」

「あんた、こんにちはじゃないよ。何時だと思ってるんだい」


 相変わらずのヒノさんに、シアさんはご立腹のようです。

 私はお邪魔になりそうなので、そろそろお家に帰ろうと思います。


「シアさん、お野菜ありがとうございました」

「ああ、またねリズちゃん」


◆◇◆◇


 マッシュポテトは会心の出来でした。

 塩加減を変えてみたのが良かったみたいです。

 パン付けてみても美味しく、お野菜のサラダと一緒に食べると絶品でした。

 上手にできたので、シアさんにもおすそ分けしようと思います。


「シアさん、こんばんは」

「あら、リズちゃんどうしたの?」

「今日収穫したジャガイモでマッシュポテト作りました。

 もしよろしければ、おすそ分けしようと思いまして」

「どうも、ありがとうリズちゃん」


 シアさんはお一人のようです。

 ヒノさんはどこかに出掛けているのでしょうか。


「あの子なら、お金になる簡単なクエストを受けてきたって、喜んでさっき出て行ったよ」

「こんな遅くにですか?」

「夜じゃないと駄目なクエストらしいんだよ。

 なんでも、渡された石をあるところに置いてくるだけのクエストらしいんだけどね。

 これをこなせば俺もいっぱしの冒険者の仲間入りだーってさ」


 石を置いてくるクエスト?

 私も狩りのお仕事を受けに、ギルドに先日顔を出していますけど、そのようなクエストを見た記憶がありません。

 もしかすると、その後に掲示されたクエストかもしれませんけど、ヒノさんは初心者のクエストも失敗されたと聞いています。

 失礼ですけど、そんなヒノさんに、魔物が活発化する夜のクエストを受注させるとは思えないのですが……


「私、ちょっとギルドへ行ってきます」

「あ、リズちゃん?」


 何だか嫌な予感がします。

 ギルドでそのようなクエストがあったか確認して、もし無ければヒノさんが心配です。

 正規のギルドだったとしても、話を聞く限りヒノさんは一人で出掛けたようですし、場所を聞いて後を追った方が良さそうです。

 私は一度家へ戻り、弓矢の準備をしてからギルドへ向かいました。


◇◆◇◆


「あらリズさん、こんばんは」

「あの、クエストの事でお聞きしたい事がありまして」


 掲示板には、ヒノさんの受けたクエストはありませんでした。受注者が決まると、クエストは掲示から外されてしまう事もありますので、受付の方に聞いてみます。


「石を置いてくるクエストですか……ここ最近でもそんなクエストはありませんね」

「そうなんですか……じゃあヒノさんは一体どこで?」

「よお、リズ。こんな遅くに珍しいな、どうした?」

「レド様」


 ギルドには、お食事を済ませたレド様が居ました。

 もしかしたら、レド様なら何か知っているかもしれませんので聞いてみる事にします。


「石を置いてくるクエスト?聞いた事ねえな」

「そうですか……ヒノさんという知り合いの方なんですけど、その人がそのクエストを受けたらしいんです」

「何だかきな臭い話だな……で、その石はどこに置いてくるって言うのは聞いたのか?」

「それがわからないんです」


 やはり、ヒノさんの受けたクエストは正規のものではないようです。

 もしかして、誰かに騙されているのではないでしょうか。


「どちらにしても、場所がわからないと何ともできないな」

「はい……」

「俺、そのクエスト知ってるぜ」


 突然、お酒を飲んでいた冒険者の方が話しかけてきました。


「町にフードを被った怪しい男が居てさ、そいつが突然俺に依頼してきたクエストがあったんだけど、そのクエストの事じゃないか?」

「詳しく聞かせてくれ」

「たしか、その男の持っていた変な模様の入った石を、祠に置いてくるっていう内容だったと思う。

 時間が夜限定だし、そんな変な奴から受けるクエストなんて怪しいから断ったんだよ」

「祠って、もしかして西の山にある祠か?」

「ああ。でもあそこって、何か良く無いものを祀った祠じゃ無かったか?

 絶対何か怪しいクエストだよな」


 西の山にある祠……西の山と言えば、リオン盗賊団のアジトがあった方角だと思います。

 冒険者の方の話を聞く限り、ヒノさんはそのフードの男に騙されているのではないでしょうか。


「私、そこの祠に行ってきます」

「俺も付いて行ってやるよ」

「姉ちゃん、俺も行こうか?」

「酔っ払いはいいから来るな。リズ、行くぞ」


 フードの男の目的はわかりませんが、もしそれでヒノさんに何かあって、シアさんに悲しい思いをさせたくありません。

 変な模様の石というのも、何か引っ掛かるものがあります。


 私はレド様と一緒に、その祠があるという場所へと向かいました。  

お読みいただいてありがとうございます。

書いていたらトマトが食べたくなりました。

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