02:友達ができました
第2話です。よろしくお願いいたします。
私が人間になって2年程経ちました。
人間の寿命は長いです。前の私だったら、とっくに寿命を迎えています。
「またお外を見てるの?」
お母さんに捕まってしまいました。軽々と私は持ちあげられてしまいます。
外を見ていたのは訳があります。風景とか町並みが、私が前までいた所とは全然違うのです。
コオロギさんが教えてくれた童話の世界によく似ています。煉瓦の家に、煙突に、道を馬車が走ります。人間の着ている服も、私が以前見た人間とは違うような気がします。
「じゃあ、今日はお外に遊びに行きましょうか」
お母さんと一緒に、外に出かけます。
庭に出ることはこれまでも何度かありましたが、敷地の外へ行くのは初めてです。
私の髪を櫛で梳いてくれました。頭が気持ちいいです。触角みたいに頭から生えてるのに、髪の毛は自由に動かせません。でも、櫛で梳いてもらうのは気持ちいいし、色んな形にアレンジして楽しめるそうです。
お母さんも髪を梳きます。
髪の毛をクルッと巻いて、後ろで留めています。私の髪の毛はまだそんなに長くないので、お母さんと同じ髪型は無理です。
服も、いつもとは違う感じの服に着替えました。ヒラヒラしたものが付いています。
◆◇◆◇
「リズ、危ないからお母さんの手を離さないようにね」
「はい」
リズと言うのは私の名前です。
お父さんはグレン、お母さんはサラと言うそうです。
私はしょっちゅう名前を呼ばれますが、お父さんもお母さんもあまり名前を言い合いません。
たまに、夜になると名前を言い合っています。アリの時は名前が無かったので、名前で呼ばれるのは新鮮です。ちょっと照れちゃいます。
そういえば、人間の言葉もだいぶ慣れました。
まだ文字を書いたり読んだりはできないけど、少し喋るくらいならできます。
驚いたこともあります。
なんと、この世界には魔法というものが存在します。私が怪我をした時、お母さんが魔法で治してくれました。いつか私も使えるようになるのでしょうか。
「あら、サラじゃない。こんにちは」
初めて見る人間です。
お母さんに似ている感じがしますが、顔がちょっと違います。目がちょっと上がった感じです。
「こんにちは、ヘレナ」
ヘレナさんというみたいです。お母さんの知り合いでしょうか?
ヘレナさんの足元に、私と同じくらいの大きさの子が居ます。目がヘレナさんに似ています。
「その子、サラの娘?」
「そうよ。リズっていうの。リズ、ほら挨拶は?」
「こんにちは。リズです」
「あら、ちゃんと挨拶できるなんて偉いわ。リズちゃんは賢いのね」
ちょっと怖い人かと思ったけど、お母さんと同じくらい優しい人でした。頭を撫でてくれます。
「マリー。あなたも挨拶しなさい」
ヘレナさんの足元に居た子は、マリーさんという名前みたいです。
「こんにちは。マリーと言います」
ヘレナさんにしがみ付いたままマリーさんは挨拶します。
「うちの子、人見知りが激しくていつもこうなの。リズちゃん、お友達になってあげてね」
恥ずかしがり屋さんということでしょうか。
マリーさんとお友達。つまり、仲間になればいいんですね?
「マリーさん。わたしとおともだちになってください」
「……うん」
「リズちゃん、マリーさんじゃなくて、マリーでいいのよ」
そうなのですか。
仲間ですもんね。私に初めて仲間ができました。
「サラ、ちょっと公園にでも行かない?」
「いいわね。じゃあ、中央公園で休憩しましょう」
お母さん達に連れられて、私達は公園という場所に向かいます。
◇◆◇◆
水が噴き出ているものがあって、木々も沢山生えています。
人間もいっぱいいます。まるで大きな庭みたいです。
ところどころにベンチがあって、休憩するのにもちょうど良さそうです。
「リズ、ここが公園よ」
「あら、リズちゃんは公園初めて?」
「いつもは庭で遊ばせてたのよ。 私もなかなか家を出られなかったから」
お母さん達はお喋りに夢中です。
私もマリーとお話をしたいのですが、ヘレナさんの足元に隠れてしまっています。
「そうだ。リズちゃん、マリーと一緒に遊んできなさいな」
「マリーとですか?」
「うちの子の人見知りを治すチャンスだわ」
「わかりました。マリー、あそびましょ?」
「……うん」
マリーは頷くとヘレナさんから離れて歩き出しました。どこに行くんでしょうか?
「すなばいこ」
「すなばですか」
どこなんでしょう?
マリーに付いて行くと、そこには広い砂だまりがありました。どうやらここで遊ぶみたいです。
「おやまつくろう」
「おやまですか」
おやまって何でしょう?
マリーは砂を集めてそれをどんどん盛って行きます。
「リズも」
「はい」
私も砂を盛って行きます。巣でも作るのでしょうか?
「たたいて」
マリーは表面をペタペタと叩き始めました。私も真似してみます。
「ちがうの。もっとやさしく」
怒られました。ちょっと強く叩き過ぎたみたいです。
私の叩いた場所はへこんでしまっていました。元のなだらかな形に整えて行きます。
「たのしい」
「たのしいですか。よかったです」
マリーは喜んでいるみたいです。ちょっと可愛らしいなって思いました。
「できた」
そこには、小さな三角錐ができていました。おやまって山のことなんですね。
「トンネルほらなきゃ」
「まかせてください」
穴を掘るのは得意です。アリでしたから。
横の方を慎重に掘り進めます。
「わたしはこっちから」
マリーは反対側から掘り進めます。でも、あの掘り方だと崩れてしまうような……。
「あ!」
マリーの方の斜面が崩れてしまいました。
「うぇーん!」
マリーは泣きだしてしまいました。
トンネルを掘るのを失敗してしまったことが悲しかったのでしょう。
「すぐなおしますよ」
また砂を盛り、ペタペタと叩きます。斜面は元通りになりました。
「リズ、じょうずだね」
「まかせてください」
ついでにトンネルも掘ってしまいます。マリーのやり方だと、また崩れてしまいますから。細かく、慎重に、時に大胆に掘り進めます。
「リズすごいね」
「まかせてください」
アリだった経験が役に立ちました。遂にトンネル開通です。
すると、マリーはトンネルに手を突っ込んで、私の手を握ってきました。
「あくしゅ」
「あくしゅですか」
よくわかりませんが、マリーが喜んでいるので良かったです。
お母さん達がやって来ました。公園でのお遊びは終了です。
「またあそんで」
「ええ、またあそびましょう」
私に初めてのお友達ができました。公園は綺麗で楽しいところです。ぜひまた遊びに来たいと思います。