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18:高原での戦い(3)

第18話です。

 アントライオンだったものは、旋回しながら上空へ舞い上がりました。

 そして、上空から私達に向けて急降下を始めます。


「避けろーーっ!!」

「うわぁぁあああ!!」


 そこへ居た騎士様達は為す術も無く吹き飛びました。

 魔物は低い姿勢を取ると、今度は顎を使って薙ぎ払いを仕掛けてきます。


「【ブレイジング】!」

「【ファイヤーボール】!」


 魔道士様達は魔法で応戦しますが、魔物は魔法が届く前に上昇し軽々とこれを避けてしまいます。


「まさか、アントライオンがこの魔物へ羽化するなんて……!」

「メアリ様、この魔物をご存じなのですか!?」

「“グランドヘルメス”────中級以上の冒険者数人でも苦戦する厄介な魔物よ」


 グランドヘルメス……アントライオンの顎と自在に飛び回る羽を持つその魔物は、私達をあざ笑うかのような鳴き声を発しながら上空を旋回し続けます。

 メアリ様は杖を上空へ向けて構えました。しかし、旋回を続ける魔物には照準が合わさりません。

 それをサポートするように魔道士様達は魔物へ向けて魔法を放ち続けます。

 私もフレアアローを乱れ撃ちで放ち、グランドヘルメスの足止めを狙います。

 連続的な魔法攻撃を避けるために、一瞬魔物の旋回運動が止まりました。

 ────そこに僅かにですが隙が生じました。


「受けなさい!【ボルテクス・インフェルノ】!!」


 動きを止めた魔物へ向け、轟音を立てながら上級の火炎魔法が突き進みます。


「ギシェェエエエエエ!!」


 グランドヘルメスは避ける様子も無く、その奇妙な形をした羽を大きく広げます。

 すると、グランドヘルメスの前に巨大な魔法陣が出現しました。

 魔法陣からは巨大な竜巻が出現し、目前に迫っていた上級火炎魔法を飲み込みました。


「そ、そんな……何であの魔物が魔法を!?」


 メアリ様は苦悶の表情を浮かべました。

 ここまで上級魔法を連発してきたメアリ様の魔力は、既に尽きかけてしまっているのです。


「ギガアアアア!!」


 グランドヘルメスが叫ぶと、上級魔法を吸い込んだ竜巻がこちらへ向かってきます。


「まずい、総員退避しろ!!」


 ロデオ様が叫びました。

 竜巻は魔法だけでなく周りの岩や砂も巻き込み、周囲に稲光も生じています。

 そんな巨大な竜巻に巻き込まれてしまっては、私達も無事ではいられません。


「メアリ様、私に掴まって下さい!」

「……こんなはずじゃ無かったのに!」


 私は、疲弊したメアリ様を連れて走り出しました。

 竜巻の進行速度は思いのほか早く、このままでは全員炎の渦巻く竜巻に飲み込まれてしまいます。

 禁じられていましたが、私は意を決し指輪を付けた左腕を前に伸ばしました。


 その時、私達の前にデミアントが現れました。


「何をしてるの!? あなたも早く逃げてください!」


 私の叫び声にデミアントはこちらを見ると、すぐに前に向き直りました。

 デミアントは、二本の足で立ったまま四本の腕を大きく広げました。

 すると、その足元から巨大な土の壁が生成され始めました。

 その大きさは、こちらへ迫ってくる竜巻を阻むほどの大きさまで広がって行きます。


 デミアントはそのまま竜巻を受け止める気のようです。

 私が止める間もなく、竜巻はもうすぐそこまで迫っていました。


「デミアント!逃げて!!」


 私はデミアントへ向けて手を伸ばしましたが、間に合いそうもありません。

 ついに、竜巻と土の壁が衝突しました。

 竜巻と土の壁は、ぶつかった衝撃で辺りに衝撃波を発生させながら消滅しました。



 私達は多少吹き飛ばされたものの、被害は軽微で済みました。

 ですが、直接壁の前に立ち、その衝撃を受けてしまったデミアントは────────


「しっかりしてください!!」


 私は倒れていたデミアントを抱きかかえました。

 腕や脚の関節が、あちこち折れてしまっています。他にも受けたダメージは深刻のようで、デミアントは私の腕の中で僅かに動くだけでした。


「すぐに回復魔法を掛けます!」


 私はデミアントに、中級の回復魔法【デオヒーリング】を掛けました。


 表面の傷はある程度回復しましたが、デミアントの容態にはあまり変化がありません。

 もう上級回復魔法で無いと救えない……

 悲しむ私に、デミアントは優しく触覚で腕を撫でてきます。

 まだ僅かにですが、その目には光が灯っています。

 ですが、このままでは、この心優しいデミアントは死んでしまいます。


「デミアント……まさか我々を救おうとするなんて……」


 ロデオ様は、片方の手で顔を覆いながら呟きました。

 

「あなたを死なせはしません……ロデオ様、お願いです!許可をください!」

「リズ……わかった」


 私は胸の首飾りへ手を添えて、精霊の名を叫びます。


「【カペルキュモス】」


 私の魔力を糧に目の前に眩しい光が発生します。

 光は収縮し、穏やかな表情の女性の姿をした精霊が現れました。


『優しき主よ、貴女の望みを叶えましょう』


 精霊は慈悲深い表情で私を見つめてきました。


「お願いです……あなたの癒しの力で、デミアントを救ってください!」

『わかりました。全力でこの者を救いましょう』


 彼女のかざした手のひらから光が発生します。

 その光は、柔らかな膜のようにデミアントを覆いました。

 心なしか、デミアントの表情が少し和らいだような気がします。


「ギシシシシ!!」


 上空では相変わらず、グランドヘルメスが旋回を続けていました。

 不気味な笑い声のような鳴き声が辺りに響き渡ります。


 その魔物の姿に、激しい怒りのような衝動が沸いてきました。

 人や無害な生物に害を為し、美しかったであろうこの高原の姿を変えてしまった悪魔は、ここで倒しておかなくてはなりません。

 左手を構え、火の化身の名前を呼びました。 


「【エプリクス】」


 私の呼び掛けに、炎を纏ったトカゲの精霊が姿を現しました。


『主よ、お前の為に力を振るおう』


 エプリクスの纏う炎は、私の感情を現すように真っ赤に燃え盛ります。


「エプリクス、あの悪魔を倒します。協力してください」

『容易い御用だ』


 私とエプリクスは、上空を飛ぶ悪魔を見据えます。

 グランドヘルメスは、私とエプリクスに向かって魔法による風の刃を放ってきました。

 それを避けると、エプリクスは口から巨大な炎の渦を放ちました。

 グランドヘルメスは炎を避けようとしますが、その炎の渦は魔物の四枚ある羽のうち二枚を焼き尽しました。


「ギガァァアアア!?」


 バランスを崩したグランドヘルメスの飛行速度が落ちます。


「こんな程度では済ませません……あなたは私達が必ず倒します」


 翼力の低下したグランドヘルメスは飛ぶのをやめ、高原の大地に降り立ちました。

お読みいただきましてありがとうございます。

この魔物のモデルはヘビトンボです。

昆虫が苦手な方は、検索したりしないでくださいね(汗)

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