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16:高原での戦い(1)

第16話です。

 デミアントを連れてこのまま戻ってしまうと、きっと大変な騒ぎになってしまいます。

 言葉が通じるかはわかりませんけど、この子に木陰で待っていてもらうように言いました。

 どうやら通じてくれたみたいです。デミアントはその場に座りました。

 早速ロデオ様の所へ向かいます。


「ロデオ様、お話があるのですけど」

「ん?どうしたリズその髪型は。なんだかボサボサになっているぞ」

「髪型はどうでもいいので、ちょっとこちらへ来ていただけますか?」


 私はロデオ様を引っ張って、デミアントの待つ木蔭へと戻ってきました。


「おいおいリズ、私に愛の告白か?済まないが、私にはディア様が────」

「何をおっしゃっているのかわからないですけど、ロデオ様にこの子をご紹介しようと思いまして」

「ん?紹介…………ってデミアント!? よく見つけたな、でかしたぞリズ!」

「待ってください!違います!この子は悪い魔物じゃないんです!」


 やはりロデオ様は、この子を見るなり剣を構えました。

 デミアントは怯えて触覚が垂れ下がってしまっています。

 私はロデオ様を必死に説得し、剣を納めてもらいました。


「それにしても、本当に無害な魔物なのか?こいつ」


 ロデオ様がデミアントをぽんぽんと触りました。

 デミアントは、お返しにとロデオ様を触覚でぽんぽんと触ります。


「ふむ……何て言うか、確かに大人しい生き物だな」

「私もこちらのアリの生態はわからないんですけど、きっと彼らは人を襲うような魔物では無いと思います」

「こちらのアリ?」

「あ、いえ、何でも無いです」


 うっかり前世のことを口に出してしまいました。

 別に隠すつもりはありませんが、今はそれよりもこの子の事が大事です。


「この個体を見ただけで信用できたわけではないが、どうやらリズに懐いているようだし、しばらくお前のそばに置いて様子を見てみよう」

「ありがとうございます、ロデオ様!」


 こうして、私はロデオ様とともにデミアントを連れて皆さんの所へと戻りました。

 最初は皆さんもデミアントの出現に驚いていましたが、ロデオ様の説得もありわかっていただけたようです。

 エスカロ高原でデミアントと遭遇したら、すぐに切り掛かるのではなく様子を見るようにと伝令もしていただきました。 


◆◇◆◇


「こんなに大人しいデミアントは初めて見たわ……なぜかちょっと可愛いし」


 メアリ様はデミアントと過去に戦った事があるそうで、その時はやはり、他の魔物と同じように襲いかかってきたとのことです。


「こんな風に人に懐くような生物には見えなかったけどなあ……」


 そう言いながら、メアリ様はデミアントの顔をツンツンと触ります。

 デミアントは、そんなメアリ様の指を触覚で触ります。


「この子、名前付けましょう!名前!」


 ついにメアリ様はデミアントに抱き付きました。デミアントは苦しそうにうろたえています。


「駄目ですよメアリ様、きっとこの子は仲間とはぐれてしまったんです。仲間の所に返してあげましょう」


 私の前世の記憶からしても、アリが仲間の見当たらない場所に単体でいるというのはあまり考えられません。

 エスカロ高原が生息地ということですので、本来はそこに住んでいたのでしょう。



「どうやら着いたようだな……」


 気が付くと景色はすっかり変わり、木々は枯れ、岩肌と地面が広がる荒野のような場所へ辿り着いていました。

 アントライオンが出現した跡特有の大量の砂も散見されます。


 デミアントが急に震えだしました。私にギュッと抱き付いてきます。

 ここに来て、私はこの子をここへ連れてきた事が失敗だったと気付きました。

 この子は仲間の所からはぐれたのではなく、天敵(・・)から逃げてきたのです。

 そこで、たまたま私に出会った────もしかして、ここのデミアントはほとんどあの悪魔に…………



「アントライオンが出たぞ!」


 前方から声が響くと、途端に足元がすり鉢状の砂へと徐々に変化して行きます。

 前に戦ったアントライオンの時よりも規模が広く、それはここに棲息するアントライオンの力の大きさを表していました。


「メアリ様!」

「わかってる!」


 デミアントを岩場へ残し、私とメアリ様は駈け出しました。


「リズちゃん!あそこ!」


 騎士様達は既に応戦中で、怪我人も出ています。

 悪魔の大きさは以前戦ったものよりも大きく、体色も黒く濃くなっています。


「燃え盛る火炎よ、仇為す者へ降り注げ!【フレイムフォール】」


 メアリ様の火の魔法です。アントライオンの頭上に出現した魔法陣から炎が襲いかかります。

 それを受けたアントライオンは地面へと潜って行きました。


「ちぃっ、逃げられたか!それにしても何あの大きさは」

「皆さん、大丈夫ですか? ────【ラウンドヒール】」


 あれから私が覚えた中級回復魔法の一つです。

 カペルキュモスの回復術ほどではありませんが、広範囲に回復魔法が施せるのでこういう時は便利です。

 詠唱は心の中で行いました。


「リズちゃん、それ魔力の消費激しくない?大丈夫?」

「はい、精霊を呼ぶ時ほどでもありませんから」


 アントライオンがどこから出てくるか分かりませんので気は抜けません。


 すると急に大地が揺れ、すり鉢が二つ生じ始めました。どうやら今度は二体のアントライオンが出現したようです。

 規模は中程度が二つと言ったところでしょうか。最初に出現したアントライオンでは無いようです。


「魔道士部隊はアントライオンが出現したら攻撃してくれ!」

「わかりました!」


 すり鉢から離れ、私達はギリギリのところで待機します。

 やがて、二体の悪魔がすり鉢の中心から姿を現しました。


「撃てーーーー!!」


 ロデオ様の合図で魔道士様達が火の魔法を放ちます。

 魔法は二体のアントライオンに命中し、燃え盛ります。

 アントライオンは火から逃れるために再び潜ろうとしています。

 私は弓を構え、矢を一体のアントライオンの頭へと向けました。


「────【フレイムアロー】」


 放たれた矢は炎を纏いアントライオンの頭へ突き刺さります。

 その矢から生じる炎は、矢を抜かない限り砂へ潜ろうと消える事はありません。

 

「グギァァアアアア!!」


 まずは一体、仕留める事ができたみたいです。

 もう一体は逃がしてしまいましたが、次は仕留めます。


「リズちゃん、あんた今何やったの!?」

「矢に魔法を乗せたんです。ぶっつけ本番でしたけど、皆様の助けもあって上手くできました」


 メアリ様がポカンとした顔で私を見てきます。

 何か変な事をしてしまったのでしょうか?


「次はあたしが決めるわ。リズちゃんにばかり任せていられないものね」


 メアリ様はそう言うと、腰に掛けていた杖を構えました。

 すると、魔法を唱えていないのに杖からは大きな魔力がひしひしと伝わってきます。


「さあ、出てらっしゃい!あたしのとっておきの魔法で燃やしつくしてあげるわ!」


 再び私達の足元にすり鉢状が形成され始めました。

お読みいただきましてありがとうございます。

この戦いでは騎士様達は完全に役立たずですね……。

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