15:デミアントとの遭遇
第15話です。
騎士様達とエスカロ高原へ向かいます。
今回の討伐は、魔物の数が多い事から結構な大所帯になっています。
途中、丘陵を進んで行きます。そこはまるで小高い丘のようになっています。
幼い頃、マリーと一緒に遊んだあの丘のような場所です。花畑こそありませんが、見渡す限り草原が広がっています。
「もう少し行くとデミアントの生息地だ。ここらにはまだ自然が残っているが、そこはアントライオンの影響で荒野のようになっていると聞いている」
ロデオ様は少し緊張の面持ちでおっしゃりました。
つまりは、景観が変わることがアントライオンの住処に近付いた合図となるようです。
アントライオンは決して弱い魔物ではありません。あの時も、エプリクスが居なかったら全滅していた可能性があります。
今回はそのアントライオンが更に複数いる上、デミアントという魔物も多数いるのです。
コルンの魔道士様にも数人参加していただいたと言っても、気が抜ける戦いにはなりません。
「地図によるともう少しで着く。少し休息を取るぞ」
ここまで長い道のりだったこともあり、疲弊している方々も大勢います。
ロデオ様からの号令で、一度休息を挟むことになりました。
◆◇◆◇
「メアリ様は、アントライオンと戦った事はあるのですか?」
「そりゃあ、あたしは冒険者だからね。
他の冒険者と組んで何度か戦った事はあるよ。楽勝だったけど」
水を飲みながらメアリ様が得意そうに答えます。
「そうなんですか!さすがはメアリ様です」
私達があれほど苦戦したアントライオンを楽勝と言われてしまいました。
やはりメアリ様ほどの魔道士となると、アントライオンもそれほど強大な敵にはならないのですね。
「まあでも、弱点さえわかればどんな敵でもそれなりに簡単に戦えたりするものよ」
「弱点……ですか。アントライオンにもそんなのがあるんですね」
「うん。アントライオンなんかは特に火に弱かったりするからね。これは虫系の魔物に大体当てはまるんだけど」
あの悪魔に弱点があるなんて知らなかったです。
ということは、アントライオンにとってエプリクスは天敵のようなものだったのですね。
「でも、やっぱり他の協力も必要だよ。だってあの魔物、砂で火を消そうとしてくるし」
ああ、そういえばそんな事してましたね……。
火の魔法でしたら幾つか習得させていただきましたし、砂での消火にさえ気を付ければ私でも何とかなりそうです。
「アントライオンくらいさっさとやっつけて、あたし達は騎士さんとデミアントの戦いを高見の見物と行きましょうか」
それはちょっとご遠慮させていただきたいところです。
やはり魔物とは言え、前世の自分と同類の生物が騎士様達に傷付けられるところを見るのは、少し抵抗があります。
「メアリ様、ちょっとお花摘んできます」
お水を飲んだせいか、少し催してきてしまいました。
人間になってからは場所を探さなくてはいけないので、こういう時少し不便に感じます。
「いってらっしゃい、気を付けてね」
まだここが自然が残っているところで良かったです。荒野に入っていたら我慢するしかありません。
私は木々の茂る森の方へと入って行きました。
◇◆◇◆
すっきりしたところで、私は近くの沢で手を洗っていました。
すると、私の背後を誰かがツンツンと突いてきます。もしかしてメアリ様でしょうか?
あの方は魔道士様として尊敬はしていますが、こうしてすぐに私に悪戯をしてきます。あまりエスカレートする前に、少し怒った方が良いのかもしれません。、
「メアリ様、悪戯はおやめ────え?」
振り向くと、そこに立っていたのは人ではなく、私より少し大きいくらいの魔物でした。
「デミアント……?」
アリの頭に六本の手足、前世の私とは違い二本足で直立しています。
魔物は触覚で私を突いてきます。
「ちょ、ちょっと!くすぐったいです!」
私が抵抗しても、彼(彼女?)は触覚で突くのをやめません。
そういえば、私もアリの頃はこうして、触覚でコミュニケーションしていましたっけ……でも人間にはくすぐったいので止めてほしいです。
私はついに耐えきれなくなり、デミアントの体を両手で押し返してしまいました。
その勢いに驚いたデミアントは、尻もちをついて倒れてしまいます。
人に害を為す魔物と聞いていましたが、これはちょっと意外です。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
魔物なのに酷くうろたえてしまっています。怯えているようにも見えます。
人間になってしまった私には、この魔物から発せられるフェロモンはわかりません。
ですが、なんとなくコミュニケーションの仕方は覚えています。
指でデミアントの体を数回突いてみました。
「──────!」
デミアントは顎を大きく開き喜んでいるように見えます。こうしていると、何だか私も嬉しくなってきました。
ふと見てみるとデミアントの体は少し汚れてしまっています。
私は水で濡らした布を使い、デミアントの手足と触覚を拭いてあげました。
すると、デミアントも顎を細かく使い私の髪の毛をグルーミングしてくれます。
どうやら、コミュニケーションは上手く行ったようです。
久しぶりにアリとコミュニケーションができて、私も嬉しくなってきました。
「あの、言葉は喋れないですよね?」
「──────?」
無理みたいです。首をずっと捻っています。
そんなに捻ると首が落ちてしまいそうなので慌てて止めさせます。
でも、一つわかった事があります。デミアントは人に害を為すどころか全く無害な魔物です。
ロデオ様達に説明しなくては、無益な殺生が起こってしまいます。
「私に付いてきてもらえますか?」
「──────?」
ああ……やっぱりわからないですよね。
どうしましょうか……アリだった頃はこういう時、相手を咥えて連れていったりしたんですけど、そんなことはできませんし……
「──────!」
デミアントが私に触角をピタッと付けてきました。
ああ、わかってくれたんですね。
私はデミアントの触覚が離れないように歩いて行きます。
さて、ここからが問題です。
この子をロデオ様達のところへ連れて行って、果たして無害な魔物だとすぐに信じていただけるのでしょうか。
それどころか、出会い頭に切り付けられてしまう可能性もあります。そうなっては居た堪れません。
振り返りデミアントを見ると、無邪気な感じで顎を動かしています。
この顎は牙として攻撃手段にもなりますので、騎士様達の前ではあまり動かさないでほしいのですけど……。
お読みいただきましてありがとうございます。
アリさんのコミュニケーションは多種多様にあります。触覚でのコミュニケーションはその一つだそうです。
ちなみに普通のアリと白アリは種類が違う生き物だったりします。




