14:あれから五年が経って
第14話です。
もしあの時カペルキュモスが居たら、私の居た町の人々は助けられていたのでしょうか。
結局、こんな事を考えても結果論です。
あれこれと考えても、もう私の両親も町の人々も、マリーも戻らないのですから……。
……
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あれから、アステア国の人々は一時的にコルン王国へ移り住むことになりました。
王様の計らいでディア様の保護も決まり、その見返りとしてロデオ様達アステアの騎士様達はアステア復興までの間、コルン王国へ仕える事になりました。
ディア様は現在、身分を隠す為に表向きは修道女として修道院で過ごされています。
水の精霊の力が宿った首飾りは、盟約したとはいえ所有者がいればお返しするつもりだったのですが、これはリオン盗賊団が冒険者から仕入れた物だったようで、盗品では無いそうです。
リオンからは、私に持っていて欲しいと言伝があったとお聞きました。
両親を亡くした子供達は孤児院へ集められました。
私もその孤児院で育ち、マザーのお手伝いをしながら勉学に励み、時々訪れる魔道士様達に魔法を教わったりもしました。
武器の使い方も覚えようと、リトル様に弓の使い方も本格的に習いました。
最初はうまく弦が引けませんでしたが、リトル様の指導のお陰で少しずつ上達していきました。
そして、五年の月日が流れました────────
◆◇◆◇
「リズさん、ここに居られたんですね」
「クルス様、おはようございます。
見てくださいこのジャガイモ。立派に育ちましたよ」
私は普段、農家の方と一緒に畑仕事をしています。
やはり土いじりは落ち着きます。きっとアリだった私には、土をいじったり収穫した野菜を運ぶこのお仕事は天職なんだと思います。
「確かに立派ですね……って、そうじゃなくて、ロデオさんがリズさんを呼んでいるんです」
「私を、ですか?」
クルス様に連れられて、王宮の方へ向かいます。
王宮へ入るのは初めてです。少し緊張してしまいます。
「リズさん、本当にこの数年でお綺麗になりましたね」
「ありがとうございます、クルス様。お世辞でも嬉しいです」
クルス様は私をからかってきます。
お世辞でもそう言っていただけるのは嬉しいのですが、少し恥ずかしくなってしまいます。
会議室に通されると、そこには騎士団の方々が大勢おられました。
「ロデオ様、お久しぶりです」
「リズか!? 見違えたな……もうすっかり大人だ」
「ありがとうございます、ロデオ様。ところで私にご用件があるとお聞きしましたが」
「ああ、そうなんだ。これを見てもらえるか?」
ロデオ様は円卓上に周辺の地図を広げました。
「このコルン北にある丘陵なんだが、アントライオンが出現したとの報告があってな」
「アントライオンですか?なぜこんな山岳地帯に?」
「どうやらここにあるエスカロ高原に、奴らの主食になるデミアントが棲息しているらしい」
「デミアント?」
デミアントというのは、アリ型の魔物のようです。どちらも人間に害を為す魔物のようで討伐対象になっているそうです。
この世界にも、私の前世と同じような大きさのアリは存在します。デミアントは普通のアリとは違い大型で、集団で人を襲うこともあるようです。
今回の騎士様達に下された任務は、アントライオン及びデミアントの討伐とのことです。
「リズも知っての通り、アントライオンには我々騎士の剣は通りにくい。
そこで国中の魔道士に声を掛けているんだが、なかなか集まらなくてな……それでリズにも声を掛けさせてもらったというわけだ」
正直、元アリの私には魔物であってもあまりアリの討伐を幣助するのは気が進みません。
「メアリにも声を掛けた。リズが来るといったらそれはもう喜んでいたよ」
「まだお手伝いするとは言っていませんよ?」
デミアントの相手は騎士様達が行うそうですけど、アリである彼らが斬られたりするところをあまり見たくないのが本音です。
「精霊魔法は使う必要は無い。むしろあれはアステアとしては切り札にしておきたいから、なるべく使わないでくれ。
それに、リズが魔法を習得している事も聞き及んでいる」
「あの、でも……」
私が言い淀んでいると、懐かしい声が会議室に響きました。
「リズちゃ~~~~ん!!」
メアリ様です。
それはもう、もの凄い勢いで抱き付かれてしまいました。私が挨拶をする暇もありませんでした。
「メ、メアリ様、お久しぶりです……」
「リズちゃんってば、すっかり大きくなっちゃって!あたしの事はお姉様と呼んでもいいのよ!?」
「そ、それはちょっと……メアリ様に失礼かと……」
ロデオ様がなんとか力尽くで引き剥がしてくださりました。
こんなに焦ったのは、岩の魔物と戦ったとき以来です。まだ少しドキドキしています。
「リズちゃん、久しぶりに一緒に戦えるね!お姉さんもうリズちゃんに会えるのが楽しみでさ!」
「あの、私まだ今回の討伐に参加するとは……」
「あれからあたし、魔法の修行更に積んでね!パワーアップしたメアリ様の魔法を見せてあげるわ!」
「ですから……そのですね?」
駄目です。メアリ様のマシンガントークが続きます。
ロデオ様を見ます。あきれた顔で見ているだけで助けてくれません。
クルス様を見ます。きっと助けてくださると思っていたのに目を反らされてしまいました。
◇◆◇◆
メアリ様から解放され、先程の話に戻ります。
今回の依頼の主目標は、コルン王国と他国の交易に使われているエスカロ高原の安全を確保することにあるそうです。
ロデオ様達しては、コルン王へ忠義を示す為にもこの依頼を断る事はできないそうです。
確かに、コルン王国には私達アステアの避難民を助けていただきました。
それに報いる為には、私もこの依頼を受けるしか無さそうです。
「わかりました。私もお手伝いさせていただきます。
でも、アントライオンでしたらメアリ様だけでも充分ではありませんか?」
「それがな、複数体目撃されているんだよ」
アレが何匹も居るとおっしゃるのですか……!?
あの時、あの悪魔に対する恐怖は払拭したつもりではいますが、複数体ともなるとちょっと……
生理的に駄目というか、苦手な生物ではあります。
私は今回のお手伝いを受けてしまった事を、いろいろな意味で後悔しました。
お読みいただきましてありがとうございます。リズは15歳になりました。
話には出てきませんでしたが、孤児院には第6話の最後に出てきた子供もいました。




