12:リオン盗賊団
第12話です。
「あの、宿屋はどこにあるんですか?」
「もう少し先だよ」
こちらの方向はあまり活気もありませんし、宿屋が無さそうな気がするんですけど。
「あの、本当にこっちなんですか?」
よく考えたら、なんだかおかしいです。
馬車の停めてある場所からもどんどん遠ざかっていますし、お二人の知り合いなら私が一人かどうか確認するのも変な話です。
「あの、離してください!」
手を離そうとすると、男の人の私の手を握る力が強くなりました。
「お転婆な子だなぁ。子供は大人に逆らってはいけないよ?」
「お二人が宿屋にいるという話は嘘だったのですね!?」
男性はより一層手の力を強めてきました。
必死で抵抗しますが、強い力で手首を締められてしまいます。
「聞き分けの悪い子には、こうだ!」
「うぐっ!?」
目の前が────暗く────────
……
…………
………………
目を覚ますと、そこは薄暗い室内でした。
明かりが灯っている場所に、男の人達が集まって何か話しています。
「ここはどこですか?」
「目が覚めたかい?ここは、俺達のアジトだ」
アジト?宿屋では無いのは確かなようです。
逃げなくちゃ……手が動きません。ロープで後ろに縛られてしまっています。
「ロープを解いてください!」
「それは無理な相談だなぁ。ところでこの指輪はどうやったら精霊呼び出せるんだ?」
あれは、お母さんの指輪!? 私が気絶している間に盗まれてしまったの!?
「それは大事な指輪なんです!返してください!」
「それも無理な相談だ。なんせ俺は今、精霊の力の宿ったアクセサリーを収集していてね。
盗賊団をもっとでかい組織にするためにも、精霊の力が必要なんだよ」
盗賊団……そういえばギルドの掲示板に盗賊団のことが書いてあったような……?
「申し遅れたな。俺はこの盗賊団のボスをやってるリオンってもんだ。
お前がこの指輪について話しているのを部下が聞いていてな。攫わせてもらったってわけさ」
リオン────間違えありません、あの掲示板に書いてあった人達です。
まさか、ギルドで話していた事を聞かれていたなんて……!
「親分、この小娘はどうしますか?」
「どうせ俺達の姿を見られて無事で返すわけにはいかないだろ。適当に奴隷にでもして売ってしまえばいいさ」
この人────さっきの男の人です!
やっぱり私、騙されていたのですね……!
「これで、水の精霊と火の精霊が揃ったわけだ。使い方はおいおい調べればいい。
じゃあ、お譲ちゃんにはもうしばらく大人しくしていてもらおうか」
「その指輪はお母さんの形見なんです!返して!返してください!」
「おい、そろそろ黙らせておけ」
「へい」
男の人達が近付いてきます。
悔しいです……
大事なお母さんから貰った指輪を盗られてしまったのに、私一人ではどうする事もできません……!
諦めかけたその時、外で大きな音が響きました。
もしかして、レド様とメアリ様が助けに来てくださったのでしょうか?
「大変です、親分!!」
「何事だ、騒々しい!」
「魔物の群れがアジトを襲っています!!」
魔物!?
「野郎共!ビビる事は無い、迎え討て!!」
リオンの声で、それぞれが武器を持って出ていきます。
そして、戦いの声が室内にまで響き渡ってきました。
「魔物なんかにビビって盗賊が務まるかってんだ」
そう言いながらもリオンは落ち着かない様子です。
魔物の唸るような声が段々とこちらに近付いてきてるのがわかります。
「うわぁーーーー!!」
建物の壁を破って、手下の人が飛び込んできました。
壁の外には目が光る魔物の姿が数体見えます。
「無理です親分!こいつには剣も斧も効きません!」
「どいつもこいつもだらしねえ……おい、俺の武器を持ってこい!」
リオンは、手下の人に命じて鞘に装飾の入った剣を持って来させます。
その剣を抜こうとした時、遂に魔物は建物の中に入ってきました。
それは、大きな岩の魔物。それが何体も入ってきます。
「どんな魔物でも、俺のこのミスリルの剣にかかれば敵じゃねえんだよ!」
リオンは魔物に切りかかります。魔物は微動だにせず剣をそのまま受けました。
そして、剣は大きな音を立てて折れてしまいました。
「嘘……だろ?」
切っ先の折れた剣を眺めている隙に、魔物はリオンを殴り飛ばしました。
「ぐぁぁああ!!」
リオンは大きく吹き飛び身悶えて動かなくなりました。
気を失ってしまったのでしょうか。
手下の人達も魔物に応戦しますが、やはり通じず皆吹き飛ばされてしまいました。
魔物の力は強大で、骨が体から飛び出てしまうような大怪我をしている人達もいます。
やがて魔物の一匹が私に目を付け、こちらへと向かってきました。
「レド様……メアリ様…………!」
私の声が二人に届く訳もなく、魔物はその拳を大きく振りかぶります。
攻撃の瞬間、私は身を捻り、辛うじてかわす事ができました。
魔物の攻撃は、私を繋いでいた柱を叩き折りました。
腕と足は縛られたままですが、そのお陰でなんとかその場を抜け出せました。
手下の人が持っていたのか、ナイフが落ちています。
私は急いでナイフを後ろ手に掴み、まずは腕のロープを切りました。
そして、解放された腕でナイフを持ち、足のロープも切ります。
「指輪……お母さんの指輪は……」
気絶しているリオンのポケットから指輪を取り返しました。
すぐに指にはめ直します。
「【エプリクス】!」
私の魔力を吸収し、その巨大な炎を纏ったトカゲは姿を現しました。
「あの魔物達を攻撃してください!」
『御意』
エプリクスは魔物達に向かって炎を浴びせます。
魔物達は炎に押され、ジリジリと外へと後退して行きます。
エプリクスの炎は建物にも引火しました。早くここを離れなければ危険です。
「……うがっ……」
リオンや手下の人達のうめき声が聞こえます。
「……助けてくれ……死にたくないよ……」
「……怖いよ……助けて……」
彼らはもう動けません。
建物が燃えてしまえば、一緒に焼かれてしまいます。
「……死にたくない……」
「あなた達は……もし私が逆の立場だったら助けてくれるというのですか!?」
「……痛いよぉ……」
「あなた達は勝手です……悪い事ばかりしてきたのですから、こうやって天罰が下るんですよ!!」
苦痛に喘ぐ声、絶望に咽び泣く声が聞こえます。
こんな人達がどうなろうと────
「……お母さぁん…………」
その声を聞いた時、私は無意識に動いていました。
「……ありがとう……ありがとう……」
思わずヒールを掛けていたのです。
「ずるいです……そんなの!」
私は、手遅れになっていない人達にヒールを掛けて回りました。
リオンにもヒールを掛けます。
「すまん……」
「ここはもう燃えてしまいます……手下の人達を連れてどこへでも行ってください!」
『ぐぬううぅぅ……!』
エプクリスから、今まで聞いた事も無いような苦しい声が聞こえました。
振り向くと、エプリクスが疲弊している姿が目に飛び込んできました。
「エプリクス、どうしたの!?」
『こやつら、炎だけでは倒せぬ……』
「そんな!?」
大きな岩の魔物は、表面が多少黒くなるだけで大したダメージを負っていないようです。
まるで私達を嘲笑うように頭をぐるぐると回します。
そして、魔物達はゆっくりと歩を進め、こちらへと向かってきました。
リズがリオンを呼び捨てなのは、彼を軽蔑しているからです。
※一部誤字を修正しました。




