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01:人間に生まれ変わりました

第一話です。

 私はアリです。

 たくさんいる働きアリの中の1匹です。

 女王様と、これから誕生する兄弟姉妹の為に、毎日一生懸命働きました。


 雨の日も、風の日も、雪の日も、雹の日も。

 私達は休むことなく働き続けました。


 ある日、仲間の働きアリが1匹死にました。

 仲間達とせっせと運びます。

 死んだ仲間は、次の世代の子供達の糧になります。


 翌日も、仲間の働きアリが1匹死にました。

 人間に踏まれたからです。

 仲間達とせっせと運びます。


 そんな毎日を過ごしてきました。



 ある日、私の体が動かなくなりました。

 足も全く動きません。

 触角は少しだけ動きます。

 ああ、そうか、もう足は無いんだ。

 私の首から下は、砂の底に居た悪魔に食べられてしまいました。


 残念です。

 私は次に生まれてくる兄弟姉妹の糧になれそうもありません。

 最期までお役に立てずに申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 意識が薄れて行くのを感じます。


 この世に生を受けた日のことを思い出していました。

 卵から生まれたばかりの私を、女王様は優しく運んでくれました。

 あの時の女王様の慈愛に溢れた顔を、私は今でも覚えています。

 優しくて、逞しくて、美しい女王様。

 私は、この方を守るために生まれてきたんだ。

 女王様の為に働くことは、私の生き甲斐でした。


 もしも願いが叶うなら、最期に女王様の下に行きたい。

 今まで頑張りましたねと褒めてもらいたい。

 女王様(はは)の温もりをもう一度感じたい。


 死んでいった仲間達も、こんなことを思っていたのでしょうか。

 それは、わかりません。


 大きな影が迫り、私に大きな牙が迫ります。

 そして、私の意識ごと砕かれてしまいました。



◆◇◆◇



 何と言うことでしょう。

 気が付くと、私は人間の家の中に居ました。

 たしかに私は悪魔に食べられてしまったはずです。ここは、一体どこなのでしょう?


「さあ、お食事の時間よ」


 大きな人間が迫ります。

 このままでは踏まれてしまいます。よくわかりませんが、せっかく助かった命。ここで無駄にしたくはありません。


「どうしたの? 怯えているの?」


 人間は私に話し掛けます。

 何を言っているのかよくわかりません。

 それが余計に恐怖になります。

 人間と言えば、私達にとってはあの恐ろしい悪魔以上の敵です。その巨体で仲間は何匹も犠牲になったのです。


「しょうがない子ね……」


 人間は私を掴もうとします。

 怖いです。助けてください。その願いもむなしく、私は捕らえられてしまいました。

 そこで、私は気付きました。人間の大きさって……このくらいでしたっけ?


 大きいと言っても、私の記憶にあった大きさより小さく見えます。

 これでは私を踏みつぶすにしても、一回では無理でしょう。

 そうだ、牙で噛みつけば! ……あれ?牙がありません。代わりに自由に開閉できる何かがそこにあります。


「ふふっ、何面白い顔してるのかな?」


 人間が笑います。私を見て笑ったのでしょうか?

 捕らえられたままでは逃げることもかないません。

 手足をジタバタさせます。最後の抵抗です。


「こら、暴れたら危ないでしょ?」


 あれ?私の手……おかしいです。まるで人間のような手をしています。

 足も、二本しか見当たりません。これではまるで、私が人間みたいじゃないですか。


「リズはお転婆だな」

「貴方に似たのよ」

「君にだろ?」


 大きな人間が増えました。絶体絶命のピンチです。

 どういうわけか、私は小さな人間になってしまったようです。

 そういえば、旅人のコオロギさんから小人の話を聞いたような覚えがあります。

 きっと私はそれになってしまったのです。


「何を怖がっているのか分からないけど、安心して。 私は貴女のお母さんよ」


 お母さん?

 人間の表情は、あの日の女王様(はは)のように慈愛で満ちていました。

 この人間は、敵では無いようです。私は抵抗するのをやめます。

 ああ、お母さんか。お母さんは私を胸元に抱き、歌を歌ってくれました。

 どうやら私は、この人間の子供として生まれ変わったようです。


 悲しいです。

 この人間を見ていると、女王様(はは)を思い出します。

 それが何故かわからないのですが、悲しいのです。


 涙が出ました。声も出ました。そして、私の泣き声が室内に響き渡りました。


「あら?オムツかしら?」


 お母さんは、私の面倒を一生懸命に見てくれます。もう一人の人間は、困ったような顔で私を見ています。


 私はアリでは無くなりました。私は人間となったのです。

 人間の体は、思いのほか窮屈で動き辛い形をしています。

 今はお母さんが居てくれていますが、すぐには働けそうもありません。

 この先、一体どうなってしまうのでしょう。

 初めての人間の生活は、不安でいっぱいです。

お読みいただきありがとうございました。

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