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暴走

啓一の怒りは頂点に達していた。しかし怒鳴り声を上げるわけでもなく、外面は至っていつもと変わらない様子で心理が読めない。

もはや啓一に味方する者は数少ない。ほとんどが偽りの支持表明だったからだ。

こちら側を支持しなければ、家族がどうなるか分かるな?という脅迫を受けて泣く泣く啓一を支持していた者が多くいたのだ。


ここまで簡単に脆く崩れ去るとは啓一も思っていなかった。


現在、啓一は取引相手である米国のパトリック商会の人間と面会をしていた。

人形を早期輸入したいとの願いを米国人は困惑した様子で聞いていた。

パトリック商会の答えはノー。密輸すること自体に抵抗はないらしいが、やはり早期となると時間的にも困難らしい。

啓一は苦虫を噛み潰した顔で断念した。



どうするべきか・・・・心を落ち着かせて考えてみる。

もうこちらの手駒はほとんど無く、争いを起こす戦力すらない。


車の後部座席で唸るように考え込んでいた啓一の隣にふと何かが現れた。そんな漠然とした感覚があった。

啓一が隣を見ると、眼鏡を掛けた二十代前半くらいの女性がリラックスきた様子で座っていた。


「な、お、お前は誰だ!いつの間に・・・・・・」


「あんまり大きな声を出さないで下さい。暑苦しいですよ?」

窓の外をじっと見ながら女性は言った。

「・・・・・お前は誰だ?」


「反剣教団の土屋 美鈴です。」

 美鈴は紙切れを啓一に手渡す。そこには見知らぬ住所が書かれていた。


「これは?」


「行けば分かりますよ。あなたが喉から手が出るほど欲しいものがここにあります。」

ニヤッと笑う美鈴の顔から目を離し、紙切れに書いてある住所を確認する。東京大都市でもかなり外れのほうに位置している住所だ。

啓一が顔を上げると隣にはもう誰もいなかった。啓一も思わず呆然としてしまう。

何だったのか・・・ただひとつ分かるのは彼女が反剣教団と名乗ったこと。それが何を意味しているのか、啓一は理解した。


「私を使ってどうやら一波乱、画策しているようだな。」

反剣教団が自分を利用しようとしていることについて思うところはない。むしろありがたいくらいだ。啓一にはもう何も残されていなかったのだから。


運転手に紙切れを渡し、すぐさま書かれていた住所へと車を向かわせた。

江戸から二時間弱掛かるほど遠方まで来ると、栄えた町並みというよりは平凡な庶民の町並みが広がっていた。

住所は鉄の塀で囲まれた工場を指していた。こんな辺鄙なところに自分が喉から手が出るほど欲しいものが本当にあるのだろうか?

啓一は車から降りて、ひとまず持っていたライターで運転手から返された紙切れを燃やした。

これでもう誰にも見られない。尾行も付いていないのは確認済みだ。

工場の敷地に足を踏み入れるが、もうしばらくの間使われていない古ぼけた廃場といった感じがする。

鉄屑がそこらじゅうに散らばっており、作業員が使った工具や軍手などの小物も放置されたままになっている。


「ここに何があると言うんだ・・・・・・」


「お待ちしておりました。必ず来ていただけると思っておりました。」


黒いスーツを身に纏った執事風の男が恭しく礼をした。


「ご案内致します。」


質問は山ほどあったが、啓一は何も聞くことなく男の後をついていく。そうすればすぐに答えが見えてくるという予感がしたからだ。


「こちらが啓一様がお求めになっている品です。」

廃材や使われなくなった機械などが置かれた場所に案内されると、男は布の被った物体を啓一に見せた。


・・・・・・これが私が必要としているもの?


男に許可を得ることも忘れ、その布に手を伸ばす。男は何も言わない。ただじっと見ているだけ。

布を取るとそこには金色に光る鎧兜があった。


「これは?」


「教団からのプレゼントです。」


「金の鎧兜・・・これを売って資金にしろと?」


「いえ、これはただの鎧兜ではありません。これは・・・・」


男が話を中断した瞬間、鎧兜が意志を持ったように動き始めた。黒い影が其を身に纏い、仁王立ちする。

荘厳で迫力があり、力に満ち溢れている。その存在感だけで思わず震えてしまう。


「これは人形か?」


「ええ、これは米国の最強人形兵器のひとつ、ガルシアです。今は反剣教団が所有していますが・・・・・・」


「どういうつもりだ?こんな大それたものを私に差し出すなど・・・到底正気とは思えんが。」


自分を使って小競り合いでも起こそうと考えているのだろう。それが啓一の予想していたことだったが、こんなにも凄い代物を与えられるとは考えてもいなかった。


「正気ですよ。あなたの力になりたいと幹部の皆さんはそう言ってます。」


ガルシアは微動だにせず、立ち尽くしている。電池が切れたロボットのようにピクリともしない。


「ガルシアよ、今日からあなたの主人はこの河瀬 啓一様です。よろしいですかな?」


「・・・了解した。啓一様に仕えよう。」

しっかりとした意志を持った人形であるのは理解した。これが自分の命令で動くというのが未だに信じられない。


 ガルシアを足元からゆっくりと観察する。今まで多くの人形を見てきたが、これはどの人形とも異なる精巧な作りをしていた。

 無条件でこのガルシアを授けてくれる教団側の意図を最後まで知ることはできなかった。がしかし、もうそんなことはどうでもいい。

啓一はどす黒い笑みを浮かべる。

これがあれば次こそ本当に思いのままかもしれない。想像が明確化され、よりいっそう現実的になる。


次の日から何かに取り憑かれたように啓一はこれからのことについて考え始めた。少数の部下と共に。


そして数日後、すぐに行動が起こされた。

 河瀬グループ配下の会社が一日のうちに数か所、物理的に破壊されたのだ。文字通り、物理的だ。

 大規模な爆発や喧騒が周囲に広がり、多くの怪我人が出てしまった。そのために剣衛隊や剣警局も動き出し、河瀬の問題は表沙汰になった。


 啓一からしたら寝返った奴らにそれ相応の報いを受けさせるといった感じだろう。それは傍から見れば暴走していると捉えられるだろう。


「はぁ、はぁ、お姉さま、河瀬工業もやられてみたい。」


「そう・・・・・お父様は何を考えているのやら。」


啓一の暴走にさすがの琥珀も困惑した様子を隠せない。噂では剣衛隊の桐原もこの件で動いているという。河瀬の名前は地に落ちた。それは啓一と琥珀の両者が望んでいなかったこと。そのはずだったのに・・・


「琥珀様、いかが致しましょうか。」


 洋次郎はこれからどうするのかを琥珀に質問した。

 桐原 武人が動いているとなると解決するのに時間が掛かるなんてことはないと思われるが、それでは何の意味もない。やはり琥珀の手で、翡翠の手で啓一の暴走を止めなくては。


「お父様・・・・・・いえ、河瀬 啓一の命を狙う。見つけ次第、仕留めましょう。」


「かしこまりました。」

洋次郎を初めとしたその場にいる全ての者達は何の驚きも感じることなく、さも当たり前かのように頭を下げた。その中にはもちろん、翡翠もいた。遅かれ早かれ、彼女もこうなることは覚悟していた身だ。今更どうこう言うことでもない。


琥珀を支持する人々はその話し合いの次の日から本格的に動き出した。剣衛隊、剣警局、そして琥珀の支持者達・・・三つの異なる勢力が江戸を跋扈し始める。それから長いようで短い数日間が始まった。


政府の方から大都市の住民達に危険人物情報というものが流された。河瀬 啓一を含めた四人の男だ。顔写真も晒されて、指名手配のような感じになっている。

ただし、この数日のうちに起こった爆発は直接的に彼等が起こしたものではないと判断されている。そこまでの戦闘力があるとは到底思えないらしい。あくまでも剣衛隊、もしくは剣警局の考えなので、それが正しいのかは分からないが。

何かしらの痕跡が残されているのではと思い、爆発した現場を調べ尽くした結果、異能剣技が使われた形跡がないことがわかった。

 生身の人間が異能なしの剣術だけでここまでの被害を出すのは難しい。出来るとしたら浅倉流剣術を完全に収めた者でなければ無理であろう。

 ということは人間ではないということになる。ならば残る可能性は一つだけ。


人形パペットの仕業ってことね。」


「そうなりますね。ただあの倉庫にあった人形は一つ残らず廃材に変わりましたから、いかんせん信じ難い事実ではありますが・・・」

  洋次郎も強い疑問を感じているようだった。

   

「そうね、その点に関しても調べる必要があるわね。」

  

  琥珀は爆発が起きた現場へと自ら赴いた。もちろん立ち入りは禁止されており、剣衛隊の制服を身に纏った者たちが動き回っている。琥珀は歩みを一切止めることなく、現場へと立ち入ろうとしたが、予想通り見張りの剣衛隊員が止めに入った。


「な、ここは立ち入り禁止だ。」


「知ってるわ。でも通してもらわないとこっちも困るの。ここの責任者を呼んでもらえない?」

  琥珀の押しの強さと存在感に見張りの隊員は少したじろぐ。


「・・・・・・ちょっと待ってろ。」

  不思議と拒否できない威圧感があったのだろうか、見張りは眉を潜めつつも責任者を呼びに行った。

時間にして三十秒ほどで見張りは戻ってくると、入っていいことを身振りで表した。

琥珀は礼を言って瓦礫と化した河瀬輸送の敷地に入っていった。そう、琥珀達が訪れた場所は河瀬輸送という会社があった場所。今はもう建物があったと思われる鉄骨が露わになっているだけで、悲惨な光景となってしまっている。


そんな中を奥に進んでいくと、白い布が張られた簡易な小屋が前方に見えてきた。扉はなく、開放的で中にある机やら椅子が見える。もちろんそこにいる剣衛隊の怪訝そうな視線も丸見えだ。


「やはり河瀬 琥珀・・・君だったか。」


「意外ですね。まさか貴方ほどの人が現場で指揮するなんて・・・・・桐原さん。」

琥珀の顔には動揺や驚きの感情は現れていないが、背後に控える部下達はあからさまに表情を一変させた。

そこにいたのは新大和帝国七人の剣聖の一人、桐原 武人だった。剣衛隊総隊長・・・つまり大和を代表する最強戦力だということ。

そんな人物が目の前に現れたとなると部下達の反応もわからなくはない。琥珀も表情には出さなかっただけで内心は驚いていたのだから。この件で桐原が動いているのは報告を受けていたが、まさか現場で自らが責任者として動いているなんて想像もしていなかった。だが裏を返せば桐原が動かざるを得ないほど緊迫した危険な問題だと政府は考えているということだろう。


自分達が知らない何かがこの爆発を引き起こした。啓一の仕業であるのは明白だが、彼の背後にサポートしている何者かがいるのではないかと琥珀は疑っている。それは桐原も同様だった。


何を言うでもなく、表情だけで二人はお互いにそれを察した。


「久し振りだな、君と会うのは。何年ぶりだろうか?」


「私が養成学校三年生の時にお会いして以来だと思います。」


琥珀の記憶からすると三年生の時に剣衛隊の新人らと合同稽古を行って以来の再会になる。桐原の方もその時の印象が強く残っているらしく、唯一その時に名前と顔を覚えたのが琥珀だった。


「そうか・・・もうそんなに経ったか・・・ただ、懐かしむためにここへ来たわけじゃないんだろ?」


「はい、単刀直入に言わせてもらうとこの爆発について教えてほしいのです。誰が何のために引き起こしたのか、を。」


「ずいぶんと正攻法で聞いてくるんだな。」


「意外と面倒臭いのは嫌いなんですよ。」


「俺が教えると思うか?」


「他の人ならば無理だったでしょうが、桐原さんならば必ず教えていただけると思いますが。」

琥珀は胸を張って言い放つ。言葉には出していないが、自信があると表情が示している。

桐原は真意を推し量るようにじっと琥珀の目を見るが、琥珀は何食わぬ顔で、感情を伺い知ることは一切できない。


やがて桐原は吹き出すように小さく笑った。

「俺じゃあ君が何を考えているのか分からないな。そこまでの心眼を持ち合わせてはいないようだ。いいだろう。ここで何があったのか・・・こちらが分かっているだけのことを教えてやる。」


琥珀は安堵に満ちた表情を包み隠すことなく浮かべて、綺麗な角度の礼をした。

「ありがとうございます。」



「河瀬 啓一が直接この爆発を引き起こしたわけではない、君もそう思っているのだろう?」


「ええ、今の河瀬 啓一にはそれを引き起こすほどの力はない。それは確固たる事実だと思います。ということはつまり他の何者かの援助を受けている・・・私はそう考えています。」


「さすがだな。正解だ。こちらの調べによるとその相手は反剣教団らしくてな、ちょっと手をこまねいてるところだ。」


想像さえしていなかった組織の名前を耳にした。反剣教団、大和最凶の裏組織。俄には信じ難い話だったが、それを話しているのが桐原であることと、反剣教団の力ならばこれくらいのことは造作もないというのが明らかで、より話の信用性を増す形になっていた。


「さすがに驚くだろう?あの組織の全貌は未だに分かっていないからな。何のために河瀬 啓一に近付いたのか見当もつかない。」


「そして啓一は教団の口車に乗った・・・・・・いや、相手が何を考えているのかはこの際どうでもよかったのかもしれないですね。」

琥珀の言葉に桐原は意外な感覚を抱いた。


「何故そう思うんだ?」


漠然とそんな気がした・・・というのが本音だが、啓一の今の心理状況が本当に何故だか手に取るように理解できたのだ。今だかつてこんな感覚はなかったと思う。でもそれはただ単に意識していなかっただけかもしれない。父と娘という関係性だから察することができるのか。血縁というのは説明することができない感情さえも理解できてしまうものなのか。


何と言えばいいのか言葉が見つからない琥珀の姿は非常に珍しい感じだった。


「俺の父親も犯罪者だ。」


桐原は唐突な内容の言葉を口にした。


「桐原 武敏って名前の剣衛隊の隊員だった。俺がガキの頃は武敏みたいな剣術士になりたいなんて思ってたさ。ただ桐原 武敏は裏組織と繋がってたんだ。金のために仲間の情報を売る行為を何度も何度も繰り返した犯罪者・・・すぐに処罰されたよ。」


その時に武敏を処罰したのは当時、軍政大臣を勤めていた二条 宗親だ。今の帝国大元帥。

桐原自身もそれを知っているし、それについて何も思うところはない。処罰されるのは至極当然のことだ。父親について恨みも憎しみも抱いていない。もはや興味がないのだ。まるで他人事のようなもやっとした感覚があるだけ。


「剣衛隊に入隊してからの苦労は今思えばなかなかのものだったけどな。」

桐原は小さく笑ったが、琥珀はそこで初めて自分が慰められていることに気付いた。まあそれに気付いたからといってなにがどうなるわけでもないのだが。


「まあ君は父親だからといって甘い判断をするような人間じゃないだろう?」


「ええ、もちろんです。あの人はもう取り返しのつかない犯罪を犯しています。あの人は、殺すべき存在ですから。」


覚悟は決まっている。琥珀だって父と上手くいっていた時期もあった。憧れを抱いていた時期もあった。でも今は違う、何もかもが。


「共闘しようとは言わん。ただお前達が河瀬 啓一に対して何を起こしてもこちら側は手助けも邪魔もしない。」

琥珀達のすることに関与しないということは自由に動けるということ。それを懇願するためにこの場所まで来たので、桐原の提案は願ったり叶ったりだ。


「ありがとうございます。それで結構です。」


「検討はついているのか?河瀬 啓一がどこにいるのかを。」


「いえ、それはまだ。でもすぐに見つけますよ。」

琥珀は爆発した現場を調べるように洋次郎に合図した。

凄惨な瓦礫場を見渡しながら何かしらの痕跡がないかを調べるが、かなり時間が掛かりそうだ。

ここはお任せくださいという洋次郎の言葉に琥珀は頷き、その場を後にする。


現場を出た瞬間に、懐の電話が鳴り響いた。

その相手が誰なのかを出る前に察することができた。


「翡翠?どうしたの?」

電話の相手は翡翠。今は共に行動しておらず、爆発が予測される地点に向かっている途中のはずだ。

「う、うん。今、河瀬宝飾に向かってたんだけど、その途中で爆発があったの。」


「河瀬宝飾が爆破されたの?」

河瀬宝飾は金銀やその他宝石類の売買を行っている会社だ。


「たぶんそうだと思う。」


「分かったわ。逃げろなんて野暮なことは言わない。ただ慎重に行動するように。」


「うん。無謀と勇気は違う、でしょ?」


「ええ、わかってるじゃない。それ、希美にも伝えといて。」


「うん、わかった。」


琥珀は電話を切るとすぐに車に乗り込み、河瀬宝飾に向かうように指示を出した。さすがは琥珀選任の運転手、焦ることなくスムーズかつ素早い対応で車を発進させる。ここから河瀬宝飾までの道のりは車で三十分は掛かる。その間に逃げられる可能性もあるので、焦りが込み上げてくる。琥珀はその感情を押し留める。


一度だけ深呼吸をするといつも通りの冷静さを取り戻した。そして同時に背後から付いてくる車に気付いた。すぐに桐原だとわかった。尾行されているわけではなく、桐原にも琥珀と同じように連絡が入ったのだろう。

こうも頻発して爆発を引き起こすということは捕まるのを恐れていない現れだ。

やはり琥珀が知っている啓一とは異なる印象を受ける。捕まらない、もしくは止められない自信があるということか。


三十分後、琥珀達そして桐原は目的地の河瀬宝飾に辿り着いた。瓦礫の山が目の前に広がり、通行人が逆方向に逃げていくのが確認できる。それとは逆に過剰な興味を抱いた者達は野次馬のように敷地の前に群がっている。


琥珀が車から降りるとすぐに翡翠がこちらに向かってきた。

「三十分のうちに変化はあった?」

「ううん、ないけど、まだこの敷地の中にいるよ。」


「それは好都合ね。逃がさないようにしないと、ね?」

琥珀は小さな笑みを浮かべて、腰に携えた刀剣の柄を握り締める。

なおも爆発が起きる。

もはや残骸しかないにもかかわらずだ。何のためなのかは分からないが、今はこれを引き起こしている人物を仕留めるのが最優先。


黒い煙と真っ赤な炎が上がり続け、今もなお近付くことはできない。もどかしい気持ちを抱きながら周囲の状況に変化が訪れないかをしっかりと注視する。


「また派手にやらかしてくれたな。」

琥珀は背後から聞こえた声の主の方へ視線を向けた。


「桐原さん・・・」


「視界が悪いな。ちょっと待ってろ。」

桐原はそう言うと腰に携えた刀を抜き、軽く一閃した。

振り抜いた剣圧は凄まじい風力を生み出し、その影響で瓦礫は散りと化し、炎はあっという間に消え去った。


一般人はもう周囲にはいない。剣衛隊により避難は終わっている。いるのは剣を持つ者のみ。


「ようやく姿が見えたな。」


桐原が呟いた以外、誰も言葉を発しなかった。その場の全員が唖然としていたのだ。想像していたモノとは全く異なるモノがそこにあったからだ。

まばゆいばかりの金剛の鎧兜を身に纏った人間ではない何か・・・・・・

異様な存在感を放ち、一気に周りの空気が張り詰める。冷え切った空気に体は寒気を覚える。


「あれが最近の爆発を引き起こしていた奴の正体・・・・・・・?」


「どうやらそうみたいだな。驚いたことに人間じゃないみたいだが・・・」

 琥珀の呟きに応える桐原は抑揚のない声色でそう言った。

 金色の鎧兜はようやく琥珀たちの方へと顔を向けた。

 顔という概念があるのかさえ分からない。人間なら顔に当たる部分には何もないのだ。無。闇が広がっているだけだ。


 誰もかれもが鎧兜の一挙手一投足に注意していた。しかし目の前の異質な存在はそんな注意など嘲るような動きを見せた。瞬きを一度するだけの時間で視界から魔法のように消えたと思いきや、琥珀の後ろにいた剣衛隊の隊員を何人も一斉に吹き飛ばした。ただの体当たりで軽く百メートルは吹き飛び、ビルに大穴を開けた。


 鎧兜は間を置かずに次の獲物に向かって突撃しようとする。それを桐原は完全に防ぎきる。

「・・・・・すごい移動速度だな。本気でやらなければ危険だ。全員、気を引き締めろよ。」


 その場にいる全ての戦闘員が覚悟を決めた強い頷きを返した。





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