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浅倉 新左衛門

 満月の夜、この日は街灯が無くても辺りを見回せるほどの明るさだった。優奈もタケルもすっかりと寝静まった時間帯に新左衛門は浅倉家の敷地外の歩道を歩いていた。東京大都市の湘南地区は三月でも肌寒い。ましてや真夜中の現在では上着が無ければ、体が震えてしまうほどだ。

 それでも浅倉 新左衛門は浴衣を着ているだけで日中と何も変わらない。

 歩いて向かう先は浅倉家から徒歩五分の広々とした空き地。普段は近所の子供たちが好き勝手に遊び回っている場所だ。しかしこんな真夜中では案の定、人の姿は皆無だ。



「何の用じゃ。」

 新左衛門は数秒間空き地の中心に近い位置で佇んだ後、口を開いた。

 月明かりで仄かに明るい前方から突然、一人の男が現れた。黒い服の上からでもはっきりとわかるほどの屈強な肉体を持つ男。

黒い短髪、黒い髭、そして光が差し込まない暗黒の双眸。

「はい、少し小耳に入れてほしいことがありまして。」

「何だ?」

「関東の裏組織が何やら不穏な動きをしている模様です。」

「それは政府直属の一族、あずま一族としての正式な情報か?喜一郎。」

 政府直属の東京大都市監視官、東 喜一郎。東一族の五代目族長であり、初代からずっと政府の下で任務を果たしている。反政府の人間からは「政府の犬」と揶揄されているが、それと同時にその情報網は非常に脅威とされている。

「はい。正式な情報です。ただ他の誰にも話をしていません。」

「ほう••••••••政府を通していないと?」

 東一族は政府の監視下で動くのが常である。しかし今回は誰にも話を通さずに新左衛門に接触したということだ。これが何を意味するのか。


 新左衛門は眼光鋭く、喜一郎を見据える。

「政府内部の誰かが絡んでいると?」

「はい。まず間違いなく。」

 新左衛門は剣聖に選ばれているが、政府を好いていない。このことは大和人ならば知っている有名な話だ。反政府を掲げるまではいかないが、政府の呼びつけにはほとんど応じないのだ。

 そんな中でも喜一郎とは友好な関係を築いていると言える。それは東一族四代目族長であった東 源一郎と新左衛門が面識があった関係で、二人はしばしば酒を酌み交わした仲だ。

「まぁ、政府にいるどこかしらのスパイの存在を今、気にしても仕方ないだろう。それよりも、詳しいことを教えてもらおうか。」

「はい、組織名は東京漣会。構成員まではわかっていませんが、剣士養成学校東支部に飾られている一本の刀の存在を気にしているようです。」

 裏組織というものは東京大都市でも何百、新大和帝国の中では何千の数が存在する。刀剣や金品の窃盗をする組織や施設を平気で爆発するような危険な組織すら存在する。東京漣会が養成学校の装飾刀を気にしていることを考えると、そこまで危険な組織だとは思えないが。 

「養成学校東支部の装飾刀はそんなに高価な物なのか?」

 新左衛門は視線を空中に彷徨わせて、熟考している。

「九州連合の刀工、吉岡一文字雲生の作品である翔華翔乱らしいです。」

「ほう•••••国宝とまではいかないが、かなりの名刀、だな•••••••」

 翔華翔乱は柄の部分が鈍く光る金色であり、漆を塗っている鞘は艶のある黒が豪勢な雰囲気を醸し出している。二十年前に作られた雲生には非常に珍しい装飾用の刀であり、そこが価値の高さに繋がっている。


「目立った動きをしていないため、養成学校側は気付いてはいないようです。そういえば新左衛門様のお孫さんが通っていたと記憶していますが。」

 優奈と喜一郎には面識はないが、東の四天王と言われている優奈は全国区で有名であるため、喜一郎の方はよく知っている。しかし裏世界の住人である東一族は政府関係者と一部の人間しか知らないため、優奈はその存在を全く知らないだろう。白と黒。明と暗。対照的な世界に住んでいる二人だと言えよう。

「ふむ、そうだな。優奈にも気を付けるように言っておこう。何かわかったらまた教えてくれ。」

「了解しました。」

 

 

夜風が木々を揺らしている。銀色に輝く満月は雲一つない空に高々と昇って、地上を照らす。


「それと••••••••今年の剣聖会議、どこでやるのか決まったのか?」

 少し言い淀んだのは、気が進まないからだろう。その様子を見て、終始無表情だった喜一郎も苦笑した。


「今年は西京の天羅城で行われるとのことです。正式な知らせは後日封筒で送られると思いますので。」

 剣聖会議は今年で五百回という節目の伝統ある会議。驚異的な戦闘力を持つ剣聖は政務官を交えて現状報告をしなければならないのだ。武蔵やノーブルは剣聖に選ばれてから、一度も会議に参加していない。武蔵に限っては政府が勝手に剣聖に選出しただけだ。


(東京漣会………聞いたことないのぉ。気を付けるに越したことはないか………)

 新左衛門がご苦労だったと一言声を掛けると、喜一郎は暗闇に同化したように目の前から消え失せた。

 彼が消えたのを見てから、新左衛門はゆっくりと空き地から去って行った。


 

 














 

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