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ブラストコーポレーション

「家具?」

「そう。家具を製造している企業なの……表向きは。」

 

 タケルは剣警局に向かっていた。彼一人でなく寺内 瑠璃という女性も一緒だ。彼女はブラストコーポレーションの手の者に追われていたところをタケルに助けられた。二人は沈みかけた夕日を背に歩いている。人通りもほとんど無く、車もほとんど通っていない。

「そこが臓器提供の大元ってこと?」

「うん。いくつかの国から提供を受けてるけど、最も規模が大きいのは米国のトラスフォーっていう家具製造会社なの。」

「やっぱり人形の強化が目的?」

「その通りなんだけど、米国をはじめとした他国の軍事力を高めることが一番の目的みたい。」

 瑠璃曰く、ブラストコーポレーションは大和内に存在している企業でありながら、大和の軍事力の高さを憂慮しているらしく、その解決方法として他国の軍事力を向上させることで世界のバランスを取ろうと考えているようだ。最強で最高の人形を作り出し、次々と他国へと輸出していく。

 では何故そんなことをしようとしているのか。


「ブラストコーポレーションは大和の企業ではあるけれど、元々の創設者は米国人だったの。その人物の影響力は今も受け継がれている。」

 瑠璃は淡々と語っている。その知識の多さにタケルは舌を巻いた。

「何でそんなに知っているのかって思ってるでしょ?」

「え?」

「顔に出てるよ。」

「あ、ごめん。」

「ううん、構わないよ。」

 二人の歩調は少し緩まる。瑠璃の呼吸音が微かに聞こえるほど辺りは静かだった。

「私が北辰道場出身だってことは言ったよね?」

「うん。」

 瑠璃の話を聞く態度は整っていたが、自分たちの間に敬語が抜けていることに気が付いた。それほど瑠璃がタケルに対して心を許しているのだろう。それはタケルにも言えることだが。

「その北辰道場の門下生がこの数か月で数十名行方不明になったの。」

 タケルは息を呑んだ。まさかという気持ちが心を覆った。

「それが一人だったらそんなに大きな疑問を持たなかったと思う。心配はしたかもしれないけどね。でも十八人もいなくなるなんて普通じゃない。何かが起こってるに違いない、そう思ったの。それは師範も同じ意見だった。だから道場出身者で独自に捜索しようとしたの。そこで行き着いたのが…………」

「ブラストコーポレーション………」

「そう。ブラストが裏でよからぬことをしている。それが彼らが行方不明になったのと関係しているんじゃないかって、そう予想したの。」

「でもよくそこまで辿り着いたね。」

 北辰道場は東北の伊達地帯にある道場である。そんな遠方の地域をブラストと結びつけるのは少々無理があるように思えた。

「ちょっと勘がいい人がいてね。」


その人物を余程信頼しているのか、顔にもそれが現れている。


二人が話をしているうちに気付けば周りは薄暗い情景に変わっていた。それでもなんとか剣警局に到着することができた。予想したよりも早い到着だった。

 剣警局本部の前には見張り役の局員が立っている。タケルは少し緊張しながら話し掛けた。

 見張りの男は明らかに不審者を見る目をしていた。それもそのはず、タケルの腰には木刀が悪目立ちしており、その背後に控える瑠璃も道中で見つけた鉄棒を所持していたのだから。

「何者だ?」

 男の訝しげな表情は変わらない。その手は完全に抜刀する準備を整えている。

 不運にもタケルのことを知らない局員のようだ。タケル自身も自分が知られていると考えるほど自惚れてはいないが。

「あ、えっと、僕ら怪しい者じゃありません。」

「何者だと聞いている!」

「鶴来 タケルって言います。あの安藤さんか大輔さんに聞いてもらえばわかります。知り合いなんです。」

「安藤さんと空堂さんの知り合いだと?」

「はい、ちょっと緊急の用がありまして。」

 背中に汗をかいているのがはっきりとわかる。今斬られてもおかしくない。我ながら怪しい。

「…………緊急とはどんな?」

「ブラストコーポレーションについてです。」

 タケルの言葉は到底予想できるものではなかったのだろう。意外というよりも何故その言葉が出てくるのかという驚愕が表情だけでなく、彼の全身から溢れ出ていた。

「…………少し待っていろ。怪しい動きをしたらどうなるかわかっているだろうな。」

 タケルは静かに頷いた。

 見張りの男は懐から携帯を取り出して連絡をし始めた。相手はおそらく安藤だろう。

 電話を終えてからしばらくすると、本部の入り口から安藤が姿を現した。少し意外そうな顔をしている。

「鶴来くん、どうしたの?ブラストについての緊急の話って何?」

安藤はそう言ってタケルを一瞥したが、それ以上に存在感を放つ背後の瑠璃に釘付けになった。

「えっと••••••••そちらの方は?」

タケルが説明しようと口を開きかけたが、瑠璃が一歩前に出て、丁寧に一礼した。

「はい、私は寺内 瑠璃と申します。」

貴族のように優雅な作法だったので、安藤は思わず呆気に取られた。それは北辰道場という名門出身だからこそ身についているものなのだろう。


安藤はとにかく中に入ってと急かすように門を開けさせ、安藤も合わせた三人は正面玄関をくぐった。タケルにとっては今日二度目の剣警局本部だ。先程よりも人の数が減っている。時間帯の関係だろうが、それにしても少ない。

「人少ないですね。」

「ん?ああ、ちょっと出払ってるんだ。ブラストコーポレーションのことでね。」

「剣警局でも掴んでるんですね?」

「ああ、だから君達の知ってることも教えてもらおうか。」


安藤が案内してくれたのは事務室。普段は事務作業をする局員だけが黙々とパソコンやら何やらをいじっている光景が見られる場所だ。今はその姿もほとんどない。

タケル達は奥の小さな部屋に案内された。


「んじゃ、座ってもらえるかい?あと飲み物はお茶でいいかな?」

「はい、ありがとうございます。」

安藤は湯気が立つお茶をタケル達の前に置いた。

「それで••••••早速だけどブラストについて聞かせてもらえるかな?」

「はい。」

それから瑠璃が知っていることを事細かに安藤へと話した。タケルが聞いた内容もあったが、初めて聞くことも多々あった。

安藤は瑠璃の話に黙って耳を傾けていたが、表情は険しさを増していった。


「私が知ってるのはそれぐらいです。」

「•••••••わかりました。貴重な情報をありがとうございます。」


安藤は少し考え込んだ後、ふと口を開いた。

「僕らは今、ブラストコーポレーションに押し入る準備をしてます。」


だからこんなにも人が少ないのか。強制的に企業内部へと入り込む予定なのだろう。

タケルの予想はほぼほぼ当たっていた。それは誰でも帰結することができる予想ではあった。

どこからか大きく深呼吸する音が聞こえる。それが誰なのかは定かではなかったが、漠然とした覚悟が感じられた。

瑠璃は安藤をじっと見つめる。安藤はその視線を全部受け止め、言葉を続ける。

「もう政府の容認は取りました。話し合いで解決することはないでしょうから••••••おそらく死者が出る戦闘も起きるでしょう。」


「はい•••••••」


「寺内 瑠璃さん••••••あなたには行方不明者の関係者として同行してもらいたいのですが。」

行方不明者の身元確認のため、それが一番の理由だろう。

瑠璃は決心を固めたような強い目付きで首を縦に振った。答えはイエス。即答だった。

タケルは何も言わず、その場の動向を見守っていたが、さすがに瑠璃のことが心配になった。

彼女もまた人体実験をされそうになった身。タケルが想像する以上の苦痛と恐怖があっただろう。それにもかかわらず、彼女は首を縦に振った。覚悟したのだ。いや、覚悟していたと言った方がいいだろうか。同じ剣術を学んだ、同じ志を持った後輩達のために。


タケルから何も言うことはない。何も言えない。

ただ一つだけ。

「••••••••僕も同行したいです。」

「鶴来くんも?」

「はい。」

「これは君が思ってるよりも危険な仕事だ。それに局員ではない君を連れて行くのは••••••」

「成果を残す。」

「え?」

「剣客連合会E級から昇級するにはそれなりの成果を残さないといけないんですよね?」

「それは••••そうだけど。」

「ならこの件で僕は成果を残します。そして大輔さんから剣を学びます。」

何よりも瑠璃と関わって、最後まで見届けたいと思っていた。

安藤は困惑した表情を浮かべていたが、諦めたように微笑した。

「ふぅ•••••わかった。決心は固いみたいだね。なんとかするよ。」


「ありがとうございます。」

 タケルは一礼した。

 

 大輔さんへの説明は難しいだろうなと今から少し憂鬱になる安藤だったが、タケルを剣警局に巻き込んだのは自分であることは理解していた。それが無ければこの件に巻き込むこともなかっただろう。間接的には安藤にも責任がある、かもしれない。まぁ、安藤はタケルが大輔の指導を受けることを望んでいたため、不正規のルートで同行するように促そうとしていた。どんな危険が待っていようとも。


 

 タケルと瑠璃の二人は別室に連れられて、待機していた。安藤は備品庫にあった装備品を手に持って、戻ってきた。

 剣警局に支給される軍刀や局の紋章を象ったバッジ、そして安藤が着ている制服と同じものが一着、そこにはあった。

 それらを見てタケルは漠然とだが、安藤の考えを理解した。それは瑠璃も同じだった。

「タケル君はこれを着てくれ。」

「………はい。」

「わかってると思うけど、剣警局員以外を連れていくわけにはいかない。それは決まりだ。特にこういう重大な事件の場合はね。」

「じゃあ、どうするんですか?」

「うん。だから君には特別剣警局員になってもらう。」

 タケルはそれはどういうものなのかと問う視線を安藤に向ける。

「剣警局員だけじゃ間に合わない時に部外者に協力を仰ぐシステムでね。ある程度の実力があることが示されれば、年齢を問わず、特別契約を結ぶことができるんだ。」

 安藤は持ってきた制服の胸にバッジをつけながら言葉を続ける。

「大抵は名のある剣術士に頼むことが多いんだけどね。まぁ、はっきり言って誰でも構わないんだよ。政府関係者でなければね………よし、これで大丈夫。」

 

「私はどうすればいいでしょうか?」

 安藤は瑠璃の格好を見て、さすがにこのままではまずいなと思い、衣服がないかどうかを備品庫に探しにいった。瑠璃の服は所々破けていたり、はっきり言って外出するような格好ではなかったからだ。


タケルは別室で着替えを済ませ、安藤に出された書類に名前を書いた。その間に瑠璃も着替えを済ませたようだ。

安藤も他の局員らと連絡を取り合ったらしい。無論タケル達のことも話したようだ。


時間帯はもはや七時を過ぎ、外は真っ暗で窓ガラスには自分の姿が映し出される。


「もうそろそろ時間だね。計画は移動中に話すよ。」

安藤はそう言って、部屋の扉に手をかけた。












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