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プロローグ

 唐突だが、ここは『魔界』……

 屈強かつ強靭な魔族が蔓延り、己の力を誇示する為の闘いに明け暮れている。


 そんなタフな世界にある名も無き荒野、そこには大量の屍が横たわっていた。その数、およそ5000。おそらく国同士の合戦跡か何かだろう。


 かつての魔界は、個と個のプライドを掛けたタイマン式の決闘的戦闘がトレンドだった。しかし、ある時から魔物は群れを成す様になる。多い方が有利だからだ。そして、数の優位性を知った彼らの多くが、国レベルの大規模な群れを形成する様になるのに、そう時間は掛からなかった。

 それに伴い、戦闘規模も個人戦から集団戦へと変化していき、闘いは『質』でなく『量』に左右されるようになる。また、闘争における基本概念も『気合』『根性』『暴力』『自分が』でなく、『効率』『計算』『策略』『他人に』を重視する様になっていた。


 故に、この大量の屍も、魔界ではありふれた風景……



 ……いや、よく見ると様子がおかしい。屍が着用している装備品の類がどれも同じモノなのだ。国同士の合戦跡ならば色、装飾等の差異が最低でも2種類は見られるはず……ならば内乱か?


 ……いや、もっとよく見てみると、さらに様子がおかしい。

 力なく横たわる屍の横で、力が有り余ると言わんばかりに大剣の素振りを行う男がいるのだ。

 男は大柄で、鋭利なデザインの鎧を装備。頭部は、獅子の如きフルフェイスメットだ。どうやら、この荒野で生命としての活動を継続できているのは、この男だけらしい。獅子顔の男は素振りを止めると、凄まじい勢いで大剣をバトンの様に回転させ、真上に投げる。そして歩み始めた。



「貴様ら、少しは手伝わんのか」

 獅子顔の男は不満げに言った。独り言か何かだろうか? ……否! 荒野には、いつの間にか獅子顔以外にも2つの存在が……!!


「いや、だって手ェ出したら機嫌悪くなるじゃん」

 その内の1人が返した。獅子顔よりも一回り小さい体格。鷹の如きマスク。軽そうな鎧に、風神の如き羽衣……明らかにスピードキャラといった風貌だ。


「フン……」

 顔をしかめながら獅子顔は続ける。


「いいか? オレはただ暴れたい訳ではない。強い者と戦い、糧としたいのだ。それがこんなザコ共相手では……ただの作業だぞ作業! 何の糧にもならんわ、こんなモノ!」

 屍を見渡しながら獅子顔は言った。



 ……もうお分かりだとは思うが、この大量の屍的惨状は獅子顔の男が暴れた結果である。これだけの人数を1人で相手取って勝利し、大して疲れた様子もなく仲間と雑談をしているのだ。



「うわ、手ェ出さなくてもこれかよ……相変わらずメンドくせー」

「こ、個人的には素振りの意味が分かりません。その無意味な素振りは作業に該当しないんですか?い、意味が分かりません」

 獅子顔の発言に文句をつけるスピードキャラと、もう1人。スピードキャラよりも更に一回り小さい体格に、白衣に似た服装。肩まで伸ばした黒髪。痩せ扱けた青白い顔に丸ゴーグルを着用しており、一見、魔族には見えない。が、ゴーグルのレンズは縦に2つずつある。


「黙れい!」

 2人を怒鳴りつける獅子顔。それに呼応するかの様に鋭い金属音が響く。先ほど宙に投げた大剣が、男の背中の鞘にホールインワンしたのだ。なんという正確さ! しかも宙に投げてから、かなりの時間が経過している訳だが……いったい、どれだけ高く飛ばしていたというのか!?


「……そういえばアヅマよ、さっき誰かと連絡を取っておらんかったか?」

「あ、あー、そうですそうです。連絡があったんですよ、ろ、ロアさんから」

「へー、ロアからねー」

「要件は?」

「た、たしか、珍しいモノを捕まえたから、楽しみにしててください……とか、い、言ってましたね、たしか。」

 どうやら黒髪ロン毛白衣はアヅマという名前らしい。名前も魔族とは思えない。ロアというのは彼らの仲間だろうか。


「珍しいモノ……だと? 詳しく聞きたい。それを貸せ」

 獅子顔が黒髪ロン毛白衣ことアヅマの小手を見やる。アヅマの小手には液晶的な物が付いていた。これは彼が作った機械式の小手で、通信など様々な機構を用している。魔界は機械技術も多少、発達しているが、彼の技術は基準を遥かに凌駕する。


「い、嫌ですよ!もう通信終わってますし。それに……こ、壊しますし」

「何……壊す? なんだそれは。何の話だ」

「壊すでしょ! む、無意味な素振り! ド派手な納剣! ほ、宝剣でしょそれ!? 貴重でしょ!? なのにその扱い! だから僕のコレも……壊すでしょ! きっと!」

「いや待て、これはアレだ……オレのだ。そう、オレのだからだ。人のモノは大事にする」

「そ、そもそも、通信切れてますから! 既に!」

「お二人さん、増援来たよ」


「え?」


 獅子顔とアヅマは揃ってスピードキャラの方を振り向いた。遠くから大群が押し寄せてくるのが見える。屍と同じ防具をまとっているので、スピードキャラの言うように増援で間違いないだろう。


「チッ、また作業か」

 獅子顔が舌打ちしながら呟く。


「……確認したら、い、10000はいますね、あれ」

 小手の液晶をいじりながらアヅマが言った。彼の技術は基準を遥かに凌駕する。故に勢力分析も可能だ。


「フン……片付けるのは簡単だ。だが気が乗らん」

「あれ? でも、まあまあ強そーなのいるじゃん」

 スピードキャラが指しながら言った。


「何!? どこだ!?」

「ほら、2人いるよ、あの右奥のヤツと、左のアレ」

 確かに、のっぴきならないオーラを纏った、手練れらしき人影が確認できる。


「俺、片方に挨拶してくるわ」

 言うが早いか、スピードキャラは、その外見に恥じない速度で、敵陣右奥の手練れらしき魔物に向かっていった。


「あ! 貴様、抜け駆けする気か!! ……アヅマよ! ザコは任せたぞ!!」

「ええ? な、なんですかそれ!? 意味が分か、あ、ちょっと! 意味が!」

 アヅマの返事には何の反応もせず、獅子顔は道中のザコを吹き飛ばしながら左の方へ向かう。 





「まったく、か、勝手ですね2人とも…… まあ、今日はちょうどSABAKIを連れてきたから、い、良いんですけどね……」

 ブツブツ言いながら液晶を操作するアヅマ。2人が蹴散らしながら進んでいるとはいえ、手付かずの兵士達が大勢、アヅマに近づいている。果たして大丈夫なのだろうか?


「み、ミラージュコート、OFF」

 操作を終えたアヅマが呟くと、突然、彼の隣に天使的フォルムの巨躯が何処からともなく現れた。……いや、正確には初めからアヅマの隣に居たというのが正解だろうか。

 因みに、冒頭で獅子顔しか居ない様に見えたのも、この機構の作用である。彼の技術は基準を遥かに凌駕する。故に光学迷彩も可能だ。


「ひ、ヒィー! て、天使ィー!!」

 近づいていた増援兵士達は激しく恐れた。

 ……兵たちの突然の絶叫に書見中の皆様は「は?」と思われた事だろう。いや、天使見ただけでこんななんねーだろ、と。だが、この世界の魔族は本能的に天使を恐れる。これは遺伝子レベルで刻まれたリアルだ。


 とはいえ、この巨躯は本物の天使ではない。これはアヅマが作りだした『パワードテンシ』という対魔族戦闘用天使型決戦兵器なのだ!


「さあ、て、テストを始めましょうかね」

 アヅマが小手の液晶を操作するとSABAKIの至る所から駆動音が鳴り、各間接部分が緑色に発光した。そして、炎系魔力のジェットが起動し、5mはあろう巨躯を宙に浮かせると、ガトリング状の両腕から魔法エネルギーの弾丸を連続で発射した。


「ひ、ヒィー!! て、天使ィー!!」

 宙を舞い、ガトリングから弾丸を発射する事により天使再現度が増し、増援兵士どもは先ほどよりも恐怖する。


 天使とは古の時代、空からのガトリング放射と、輝く光の槍での近接戦闘にて、魔族を蹴散らしていた上位次元の存在だ。その恐怖は遺伝子レベルで刻まれたリアルであり、大抵の魔族は天使の姿を見ると、能力低下や頭痛、吐き気、胃痛、吐血などのステータス異常を引き起こす。


 そして、恐るべきことにアヅマはそれを見越してパワードテンシを作ったのだ! 同族を狩る為に天使を模すという、きわめて狂気的かつ背徳的な悪しき発明……!!

 しかし、それを咎める者はいない。何故ならここは魔界だからだ!



「う、うおお!」

 増援兵の中から、大げさな鎧を纏った巨漢の兵士が100人程出張ってきた。獅子顔が倒した5000の兵にはいなかったタイプだ。


「わ、我々、装甲兵が盾となる! 天使の姿とはいえ所詮はニセモノ! お、臆するな!」

 台詞は勇ましいものの、当然、装甲兵達は実際ビビっており、既にステータス異常を患っている。が、防具自体の性能は変わらない! 彼らは迫り来る弾丸を確実に防いでいた。


「い、いけるぞ! 他の者は遠距離攻撃を頼む!!」

 弾丸を防ぎながら、少しずつ確実にアヅマに近づいていく装甲兵! 後方の一般兵達も、遠距離用の武具を手に持ち準備万端といった様子だ。このまま一気に形勢逆転か!?


 ……しかし、アヅマは余裕の表情!

「フーム、ち、着弾時に発生するエネルギーの拡散が、次弾の貫通性を妨げている様ですね……ガトリングは改善の余地アリと。では、ま、魔法エネルギーを収束固定化……」

 アヅマが液晶を操作すると、右ガトリングの先からライトセイバーの如き突起が発生! 古の時代に天使が使用したという『光の槍』の再現である。


 パワードテンシは体を前傾にし突撃! そして光の槍を装甲兵に突き刺す!


「ひ、ヒッ、グギャー!!」

 インパクトの瞬間、光の槍はその長さを増し、一撃で縦列の装甲兵10人程を串刺しにする。その衝撃波は後方の一般兵数百をも吹き飛ばした。


「フーム、こ、こっちは貫通に特化し過ぎたために、面の威力が疎かになっている様ですね。改善の余地アリと……ニシシシシ! やはり実戦はイイ! これでSABAKIはもっと強くなりますよ!!」

 アヅマは興奮しながら言った。この分なら兵士共の全滅は時間の問題だろう。





 一方、スピードキャラは、灰色のローブを着た男の首を片手で掴んでいた。

 相手はズタボロで、どうやら既に勝負は付いているようだ。


「ア、ガガ……ば、バカな……!」

 この灰色ローブ男の名はアッシュメーク。超上級魔術テレポートの使い手だ。テレポートの性質上、彼は素早い系のキャラ相手には絶対の自信を持っており、事実、今まで触れられたことさえ無かった。

 果たして、スピードキャラはどうやって彼を捉えたのか?


「……よ、予知……か?」

 アッシュメークは推理した。なるほど、確かに予知能力ならば相手の次の出現位置が分かる。


「いや、テキトーに動いてただけ」

「な……!?」

 スピードキャラの答えにアッシュメークは驚愕した。


 いや、ありえねーだろ、と書見中の方は思われたかもしれない。だが、事実なのだ。彼は相手がテレポーターだと分かるやいなや『周辺を超高速で縦横無尽に移動しまくれば、テレポート後の敵に出会すだろう』という発想から、作戦を実行。結果、無事に出会し、素手による暴力で制圧したのだ。



「ば、バカな…… そ、そん、な……バカ……な……アガッ!!」

 アッシュメークは驚愕のあまり脳に激痛を患った。無理も無い。要するにスピードキャラは、テレポートより速く動いているという事になる。そしてそれは常軌を逸した世界である魔界においても、まずありえない事なのだ……!!


「……げ、激速の、ラーバイン……お、おそるべ……し……」

 アッシュメークは律儀に相手の名前を紹介し、そのまま生命活動を停止した。


 彼の名誉の為に書くが、アッシュメークは決して弱くはない。彼は『テレポートを駆使して死角を維持しながら連続で無属性エネルギー砲を放ち、相手を消し炭にする』という血も涙もない戦術で有名な傭兵だった。その腕は確かで、各国の重鎮クラスから引っ切り無しに声が掛かる程。ランクで言えば所謂、特Aランクの使い手だった。

 そんな彼が敗北した。それは何故か?


 答えはシンプルだ。

 スピードキャラが速すぎて強すぎたのだ。



「俺の自己紹介、感謝するぜ」

 そう言いながらスピードキャラことラーバインは、呆然としている周辺兵士の一人にアッシュメークの屍を投げつけた。


「ちゃんと埋めて、弔ってやれよ」

 ……最早、兵士は誰一人として彼に襲いかからなかった。勝てないと思ったからではない。それはラーバインの強さを称えての事だった。かつては個々の力を重視していた魔族、その本能がそうさせたのだろうか。

 

 やがて、兵士の1人がハッと思い出したかのように穴を掘り始め、他の者もそれを手伝い始めた。


「え、今なの? 今、ここに埋めんの?」





 場面変わって、獅子顔の男……彼の戦いも佳境を迎えていた。


「ハァー…… ハァー…… クソヤローが……!」

 獅子顔の相手は、彼の1,5倍はあろう体積を持ち、青くて立派な鎧とトゲ付きの大型小手を装備したクマの如き戦士。その名もグリズムー。今回の襲撃を任されている大将クラスで、ベア系魔族最強と噂されている豪傑だ。彼の凄まじい腕力と破壊的な小手のハーモニー的な腕の一振りは、一度で100体のオークを吹き飛ばしたという逸話を持つ。しかし、実際は110体であり、この事をグリズムーは気にしていた。


「フン、一振りでオーク100体と評判のスイングも、その程度か」

「ハァー…… ハァー……」

 いつもならば、ここで「110体だ!」と訂正するグリズムーだが……今回、彼は何も言わなかった。否、言えなかった。全く余裕がない。獅子顔はそれほどの相手なのだ。

 だが、単に余裕がないだけではない。この沈黙は、起死回生の一撃を放つための体力回復という役割も担っている。……そう、まだ彼は諦めていない!


「……次でトドメだ」

 獅子顔は大剣を構え、踏み込む! 次の瞬間、踏み込んだ足元にクレーターを作りつつジェットの如き勢いでグリズムーに突っ込んでいった! 一方のグリズムーは両手の指を組み合わせる。まさか、この期に及んで命乞いか? ……否!!


 獅子顔の勢いに乗った縦振り斬撃が直撃する直前、グリズムーは左に高速回転! がっしりと組み合わせた両腕を回転に乗せて横にスイングさせた! これが彼の奥の手だ!


「何!?」

「くたばれ!!」


 大剣と小手! 魔界金属同士がぶつかり合い、独特の凄まじい衝撃音が響く!


「うおおお!!」

 獅子顔の縦斬撃と、グリズムーの横回転式ダブルスレッジハンマーが鍔迫り合う!


「腕は2本だが威力は10倍だ!! 俺はこの技でオークを1000体吹き飛ばしたのだ!!」

 グリズムーは額に血管を浮かべながら言った。最後の大技、失敗は許されない! 一瞬足りとも気の抜けない緊張感が場を支配する。


 ほぼ互角の鍔迫り合い…いや、ややグリズムーが押している! やはり、背水の覚悟と決意で挑む者の一撃は重い! 今の彼ならオークを1500……いや、2000体は吹き飛ばせるだろう!


「このまま、サーモンの様に吹き飛ばしてやる……!」

「ぐおおお……!」


 ……だが、次の瞬間! 凄まじい斬撃音!

 

「ば、バカな……!」

 グリズムーの巨体は縦に裂かれていた! 押していた筈のグリズムーが、一体何故……!?

 

 ……獅子顔の大剣を見ると、その斬撃面の逆刃が炎をまとっていた。

 これが逆転劇のカラクリである。獅子顔は設置面の逆刃に爆炎を発生させ、その爆発力により剣圧へブーストを掛けたのだ!


「オレに、これを使わせるとはな……」

「く……クソヤローが……」

 傷を抑え、後ずさるグリズムー。


「テメーらの様な……テメーらの様なハンパなクソヤローに……!」



「なんだと?」

 その言葉に反応する獅子顔。


「事実だろう! 国や組織に属さず、サークルノリで好き放題の無法者共……! 税も責任も何も背負っていない、魔族のツラ汚しよ! ……い、いくら強かろうが、テメーらはハンパなクソヤローだ……! 俺は……俺は絶対に認めんぞ!!」

 グリズムーは自身の大好物であるサーモンの如く、顔を真っ赤にし、まくしたてる。



「フン……笑止!!」

 そんなグリズムーを獅子顔は一蹴。そして続けた。


「ハンパはどっちだ?」


「な……何ぃ?」

 グリズムーがたじろぐ。


「魔族とは本来、個々の力を重視する誇り高い生き物! それが今や群れを成し、数に頼ったコス狡い方法で争い、領土を広げ、群れを大きくし、法律で縛る。そして再び尊厳のない争いで領土を広げ……その繰り返しだ」


 獅子頭はグリズムーの目を見て、さらに続ける。


「貴様が負けた要因はそれよ! オレにブーストを使わせるほどの暴力を持っていながら、自らを群れに縛り付けた……それが貴様とオレの勝敗を分けたのだ!!」


「くッ……!!」

 グリズムーはガックリとうなだれ、膝をついた。実際、彼にも思う所はあったのだろう。国に税を納め、軍の大将という重責を負う自分に。群れに、国に縛られる自分に……。



「……俺の負けだ。トドメをさせ」

 どこかスッキリした表情のグリズリーの方へ、獅子顔は歩んでいく。


「貴様の暴力は本物だった……オレは一生、貴様との戦いは忘れんぞ」

 そう言うと、獅子顔は剣を上げた。



「サラバだ、クマタロー」

「……グリズムーだ、クソヤローめ」





「貴様ら、何をやっておる」

 獅子顔はアヅマとラーバインの所に戻っていた。


「いや、何って……穴掘ってんだけど」

 そこには敵兵と共に穴を掘っているラーバインの姿が。


「ちょ、ちょっと、シシマルさんも言ってやってくださいよ! 僕のSABAKIまで穴を掘らされてるんですよ! い、意味が分からない!」

 アヅマが言った。シシマルとは獅子顔の事だろう。そのまますぎる。


「ほらアレだよ、穴掘りのデータを取るみたいな感じでいーじゃん。大将も倒したから、もう戦う必要もないんだし。善戦した敵を弔ってやろーぜ」

「これですよ…… し、シシマルさんはどう思います?」

 同意を求める様なアヅマの問いにシシマルは、しばらく考え……そして答えた。


「……掘りながら考えるとしよう」


「じょ、冗談でしょ!? い、意味が分からない!意味が!」

「まだ定例会まで時間はある。それまで特にやる事もないだろう?掘って埋めたら、奴らと合流するぞ」

 そしてシシマルは、背中の剣で穴を掘りだした。


「え? ほ、宝剣を穴掘りに!? い、意味が! 宝剣が!」

「ハハ、流石、話が分かるね。……そういや、今回のヤツはどうだった?」

「……こうして穴を掘り、弔うに値するくらいは楽しめた」

「ちょ、ちょっと! SABAKIに砂を掛けないでくださいよ!!」

「そっか……そういや、ブースト使ってなかった?」

「……いや、使ってはおらん」

「えぇ? ウソだー、使ってたって」

「使ってはおらん」

「ああ、駆動系に砂が……」

「いや、絶対使ってたって! 今も若干、焦げ臭いし」

「これはアレだ……高速で穴を掘っているから、摩擦で燃焼しているのだ」

「ちょ、ちょっと、こっちは僕! ぼ、僕がいて! 僕に砂が掛かってますから!」

「おい、アヅマ、貴様さっきからウロチョロと……迷惑だぞ」

「あと騒がしいんだけど」

「え、嘘!? な、何これ? 何この扱いは!? い、意味が! 意味が!!」




 ……彼らは強い。凄まじく強い。

 そんな彼らが、合流を仄めかしていた。これは、彼らと同等の強さを持つ者が他にも存在し、尚且つ徒党を組んでいるという事になる。


 彼らのように、国や組織に属していない集団を、魔界では『サークル』と呼んでいる。

 奇遇な事に現実世界でも、集団をサークルと呼ぶ文化が存在する。しかし、魔界で使われるサークルは、現実世界よりもネガティブな意味合いを持つ。国や組織に属し、役割を務め、税を納めるという魔族の三大義務……それらを果たしていないハンパ者という意味が秘められているのだ。

 事実、大抵のサークル系魔族はザコばかりだった。それは、ある程度の能力がなければ三大義務を果たす事が出来ないからだ。よって、サークルは爪弾き者の集まりとなる。だから弱い。


 だが、彼らは違った。凄まじく強かった。

 この魔界で最強の集団は、巨大な帝国でもなければ、何処ぞの軍事組織でもない。間違いなく彼らである。


 何にも縛られず、自分達の好きな様に……魔族の本能に従い、彼らは生きてきた。




 しかし、彼ら(サークル)崩壊(クラッシュ)する。


 他ならぬ、彼ら自身の手によって。


 その強さゆえに。



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