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追憶の救世主  作者: たかこ
第2部 東の森の魔女編
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第4章「決壊」(7)

第4章「決壊」


7.


 ――その証、守人へ捧げよ。


 かしゃんかしゃんと、意外にも軽快な音を立てて鍵と鎖は外れて行った。それらが完全に外れると、扉の雰囲気は一変してしまう。それまで頑なに侵入者を拒んでいるかに見えた灰色の扉は、ただ整然と本来の役目を果たそうと佇んでいた。

 「あ!」

 思わずミレニィが声を上げたのも無理が無いと思う。触れてもないのに扉が少しずつ開いていくのだから。それはまるで中へ客人を招き入れるかのように。あるいは、二度と帰れない罠へと罪人をおびき寄せるように。

 「…………」

 「入りなさい」

 警戒心むき出しの視線を扉に向けていたシズクだったが、剣を構えつつルビーにそう促されては、反抗する事は得策ではないと知れた。小さくため息をつくと、恐る恐る、部屋へと足を踏み入れていく。

 「ほら、貴女もよ」

 嘲るような口調の言葉に、ミレニィもよろよろとシズクの後に続いた。

 「――――」

 部屋は思ったより広い。地下であるはずなのに、天井が高いため、妙に開放感があった。

 扉を隔てた先の空間に入った途端、その場に満ちる空気が変わったのがわかる。汚れのない、神聖さを宿す空気。肌がぴりぴりと粟立つ感覚から、精霊の密度が異様に濃いのだろうと感じる。おそらく魔力が満ちる場所なのだろう。備え付けられたランプが、青白い魔法の光を宿しているのが何よりの証拠としてシズクの瞳に映った。

 禍々しくはない。むしろ神聖な空気だった。だが、長時間居ると体を壊してしまいそうな場所だとも思う。

 (……あれは?)

 殺風景と言ってもおかしくない程に何もない部屋だったが、ふと前方に不思議な物を見つけて、シズクは眉をひそめた。

 部屋の中央に位置する所には、シズクの腰の高さくらいまでの台座がある。その上で、丸い球体が淡い青色を放って輝いていた。人の頭くらいの大きさだろうか、街の占い師が使う水晶玉に、それはよく似ている。シズクの感覚が正しければ、部屋の濃い魔力の奔流はこの球体から来ている。これが何かは分からない。だが、何か強力なマジックアイテムの部類であるだろう事は予想が付いた。


 「へぇ、噂には聞いてたけど。本当に殺風景な部屋」


 カツン。とハイヒールが床を打つ音が聞こえる。振り返らずとも、声の主が誰かは分かりきっていた。ミレニィの後ろに続いて部屋に入ってきたルビーだ。彼女はシズクとミレニィを追い越すと、その赤髪をゆらりと揺らしながらこちらを振り返る。

 「……この部屋が一体何の部屋なのか、聞きたそうな顔ね」

 ふふんと鼻を鳴らすと、妙に勝ち誇った表情でルビー。不快感からあからさまにしかめ面になっているシズクには、全く気も留めない様子である。彼女はにやりと笑んで謎の球体へ視線を戻すと、朗々と謳うように、語り始めた。

 「大陸の中央に位置するイリスピリア大国は、魔道の国としてとても有名な国よね。イリスの町に張り巡らされた結界は非常に強力で、魔物だけでなく、悪しきもの、悪意あるものすら跳ね除ける。王家に管理され、王家の者によって維持されていた、正に国の象徴とも言える存在」

 それがどうした、と心の中で悪態を付く。彼女の言っている事は全て、この世界に生きるほとんどの者が知っている常識だろう。小さい子供ではないのだ。今更語って聞かされるような内容ではない。

 そんなシズクの思いを察したのだろう。ルビーは益々楽しげに笑うと、青い瞳をすっとシズクに据えてきた。

 「では……知ってるかしら? 500年前の金の救世主メシアによる世界救済以降、王家の人間達は結界の管理を一切しなくなったという事を」

 「え――」

 すぐ後ろで、ミレニィが声を漏らすのが聞こえる。イリスピリアの誇りでもある国の結界。それが、王家によって管理されるものではないという事実は、イリスピリア国民であるミレニィにとって少なからずショックをもたらすものであるようだ。

 「…………」

 だが、シズクは違っていた。静かにその不思議な色を宿す瞳を目の前の女魔族シェルザードに向けると、口をきつく引き結ぶ。ある一つの事が、正解に限りなく近い予想として浮かんでしまっていたからだ。すなわち――


 「ティアミスト家の魔道士達よ」


 凛とした声で、ルビーが正解を告げる。

 それは、予想していた答えであったはずなのに、シズクの胸は大音量で鼓動を打った。一方のミレニィはというと、一体何のことだろうとしかめ面で首を傾げている。彼女が知るはずが無いだろう。存在を歴史から消された、魔道士の一族の事など。

 「貴方なら分かるわよね、シズク。ティアミストの魔道士達がこの国の結界を守っていたの。この部屋と、彼らの持つ莫大な魔力を使って」

 そう告げた途端に、ルビーは声を立てて笑い始める。決して楽しいから笑っている訳ではない。明らかに嘲笑と、そして少しだけ同情が混じる笑いだった。自分が笑われている訳でもないのに、胸が締め付けられるのが分かる。右手を胸元へ持っていくと、胸がずきんと悲鳴を上げた。

 「…………」

 「まったく、お人よしにも程があるわ。王家から疎まれながらも、国の要を守るのだから。そんな事をしたって、感謝されるどころか、存在すら認めて貰えないのに。酷い話。そもそもシーナを追い出したのは、王家側の人間だったというのにね」

 (……え?)

 ルビーの台詞の最後が引っかかって、シズクは思わず彼女を見つめてしまった。

 (シーナが王家から追い出された?)

 それは果たして事実なのだろうか。リース達からは、彼女は自ら王家を離れたのだと聞いていた。王位を捨てて、イリスピリアの片田舎に身を寄せ、そこで『ティアミスト』と、自らを名乗ったのではなかったのだろうか。

 そもそも、何故ルビーはここまでティアミストについて知っているのか。全て彼女の虚構であると片付けるには、あまりに話の内容がリアルで説得力がある。魔族シェルザードとティアミスト家の間には、何がしかの関係が構築されていたとしか思えないような……

 「あら、言ってはいけない事だったかしら」

 明らかにそれまでとは違う反応を示すシズクに、ルビーは興味深そうに瞳を細めたようだった。

 「信じ難い内容? でも、嘘ではないわ。イリスピリア王家の人間なんて信用しては駄目。彼らは、国民に対しては無償の愛を傾けるけれど、ティアミストへは決して傾けない。両者は限りなく近しい存在ではあるけれど、繋がる事はないのよ」

 そう言ってルビーは、同情の篭った視線をシズクへと向けてくる。残酷さが込められた同情だった。

 イリスピリア王家とティアミストは決して繋がる事は無い。そうルビーに言われて、シズクの脳裏にはリースとリサの顔が真っ先に浮かんでくる。彼らとの出会いやこれまでのやりとりを思い出し、繋がる事が出来ないなんて、そんな事はないと思った。違う。と大声で否定したかった。だが、その気持ちは言葉へ変えられる前に、心の中で掻き消えていく。

 実際は、違わないのかも知れない。シズクがそうならないで欲しいと願っているだけで、いずれ、お互いの関係はそういう方向へと変わって行ってしまうのかも知れない。いや、事実今そうなりつつあるのではないだろうか。そんな気持ちが、シズクの中で沸き起こってしまったからだった。

 「……さて、無駄話はこの辺でおしまい」

 うなだれるシズクに、ルビーがかまうことは無かった。彼女は釣り上がった口の端を益々引き上げると、人差し指をすっと前方へ持っていく。

 「シズク、あれに手を触れて御覧なさい」

 あれと言って彼女が指差したものは、他でもない、殺風景なこの部屋に唯一存在する飾りらしきもの。人の頭大の、例の青い球体だった。

 相変わらず魔力を吐き出し続けてはいるが、何故かそれを視界に入れてシズクの中には不安な気持ちが沸き起こる。決して禍々しいものではないはずなのに、あれに近寄ってはいけないと感じてしまう。警戒音が頭の中でだんだん強く鳴り響きだしていた。

 「触れないの? だったら代わりに、その子に触らせてもいいんだけど」

 残酷に微笑むと、ルビーは剣を構えてミレニィの元へ歩み寄ろうとする。涙目のミレニィは、恐怖でひっと声を上げて後ずさるが、ルビーが彼女の元へ辿り着く前に、シズクの身体は自然と動いていた。ミレニィの目の前に割と素早い動きで躍り出ると、シズクは彼女をかばうような形でルビーと対峙する。そうして出来る限りの強さで、睨みつけたのだ。

 目の前で突きつけられる剣に、心拍数は一気に上昇した。怖いか怖くないかと聞かれれば、もちろん怖い。今すぐこの状況から抜け出せるのならば、どんなに良いのだろうと思う。だけど……

 「ミレニィは関係ないでしょう」

 精一杯の冷静さを装って、シズクはそう言葉を発していた。

 自分はともかく、ミレニィが巻き込まれているこの状況は、どうにも許せなかったのだ。ただでさえ巻き込まれている彼女を、これ以上危険な目にあわせたくは無い。

 シズクは必死でルビーを睨み続けるが、彼女から返ってきたのは怒りでも脅しでもなかった。眉をしかめると、ルビーは呆れたように肩をすくめると、ため息を一つ零したのだ。

 「……貴方もティアミストの魔道士達と同じね。自分の事を好いている人間ならともかく、自分の事を嫌っている人間を助けるのだから。今のこの状況を作り出したのは、そのお嬢ちゃんの心なのに」


 「え……?」


 ピリッと張り詰めた空間に、ミレニィのかすれた声が響いたのはその直後の事。シズクは彼女の身を案じつつも、視線はルビーから外さない。じっと視点を動かさずに、女の次の言葉を待っていた。

 「ねぇ知ってる? 人間の感情の中で一番醜い感情が何か」

 「醜い感情?」

 問われてシズクは眉間にしわを寄せる。人間の感情にも様々ある。良い感情もあれば、逆に悪い感情もあるだろう。でも、その中で最も醜いものなど想像もつかなかった。

 「答えはね。『嫉妬』よ」

 答えにたどり着けないでいるシズクをおかしそうに見つめて、ルビーはあっさりと正解を言い放つ。

 「この感情一つで、一体いくつの国や町が戦争に巻き込まれた事でしょうね。でもね、知っているかしら。そういう嫉妬が絡んだ争いの中には、持ち主の嫉妬心を引き出して増幅させる『古の魔石』が関与するケースが多いって事」

 (魔石?)

 言われて、頭の中に浮かび上がってきたものがあった。ミレニィの――紅いクリスタルだ。

 「……ミレニィがおかしくなっていたのは、貴方の仕業な訳?」

 唐突に理解して、鋭い声で言い放つ。ミレニィにとっては突拍子も無い話だろうが、状況から考えて、まるきり的外れな意見ではないだろうと思った。

 ミレニィの紅いクリスタルから放たれる禍々しい魔力と、ルビーの放つ殺意はどこか似ていたし、おかしくなったミレニィに連れてこられたこの場所に、タイミング良くルビーが現れたのだ。決して偶然ではないだろう。シズク達がやって来ることを見越して、待ち伏せしていたとしか考えられない。

 考えれば考えるほど、それは限りなく正解に近いような気がして、胸の中から怒りが湧き上がってくる。ルビーがここに現れた目的など、分かりきっていた。先日シズクの前に現れた時同様、シズクの持つ銀のネックレスを手に入れる事だろう。どの道それが狙いだったのなら、もっと他にやり方があったのではないか。一般の魔法学校生に過ぎないミレニィを、巻き込む必要などなかったのではないか。ぐっと唇をかみ締めると、怒りのままにルビーを睨みつけていた。

 「……勘違いしないでもらいたいわね。あくまで私は手を貸しただけ。これはね、私にとっては嬉しい誤算だったのよ」

 だが、シズクの視線を受け、心外だといった様子でルビーは肩をすくめたのだった。そうして真っ赤な剣を下ろすと、もう片方の手でシズクの後方に控えるミレニィを指差す。正確には、ミレニィの胸に輝く紅いクリスタルを、だろうが。

 「あの石を彼女に売ったのは確かに私。でも、はなから貴方をおびき寄せるために利用するつもりなんて無かったわ。こういう結果になったのは全部、お嬢ちゃんの気持ちがもたらした事よ」

 ね、そうでしょう。と甘く誘惑するように、ルビーはミレニィに向かって言う。言われたミレニィはというと、青ざめた顔で目を見開くのみだった。何かを思い出したのだろう、あの時の。とかなんとかうわ言のように呟いている。

 「先のファノス国の内乱の大元になった魔石って聞いてね。本物かどうか確かめるために、ちょっとした実験のつもりだったのよ」

 「それで、ミレニィに?」

 低い声が、シズクの唇から零れ落ちた。黒い、怒りを内包した声。だがもちろん、ルビーはそんなもので怯んだりはしない。ふふんと鼻を鳴らすと、実に楽しげに口の端を引き上げた。

 「嫉妬が最も簡単に現れるのが『恋』でしょう? 手頃な恋する乙女にこれを渡して、どうなるか見たかったのよ。偶然にも、王子様に恋する子が来て、面白い事になりそうとは思ったけど……まさかこんな風に事がまわるなんて、さすがに期待してなかったわ」

 だからね。とルビーは更に言葉を続ける。すっとその双眸を薄めると、若者を惑わす妖魔のような目でミレニィを見つめた。

 「お嬢ちゃんがした事は全て、お嬢ちゃん自身の『心』の結果よ。魔石は、それだけでは何の効力も発揮しないもの。お嬢ちゃんの嫉妬心があって初めて、それを増幅させる方向へと持っていくの」

 「! そんなんじゃ――」

 「王子様とシズクが親密で、嫌だったのでしょう? 仲良しのお友達も取られちゃって。そりゃあ妬ましくもなるわよね。絵に描いたように見事な嫉妬心だったわよ」

 「ち、ちが――」

 「何が違うのかしら? 石の誘惑に負けて、私の囁きを疑う心も無くして、こうしてここにシズクを連れてきたのがいい証拠じゃない」

 「違う!!」

 明らかに嘲りを含んだ言葉に、破裂したかのようにミレニィが叫んだ。悲痛な顔だった。大粒の涙がいくつも零れ始めると、わっと泣き出してミレニィはその場に崩れ落ちてしまう。

 「私……私そんなつもりなんかじゃ……」

 「…………」

 両手で顔を覆って肩を震わせるミレニィを心配そうに見つめた後で、シズクの視線は再び目の前で嘲笑うルビーへと向いた。対するルビーも、ミレニィへと向けていた視線をシズクへと戻している。

 「さあ……どうするシズク? 触れるの? 触れないの?」

 打って変わって残忍な声色になると、ルビーは射殺すような視線を送ってくる。血色の剣は、再びシズクの方を向いていた。

 相変わらず警戒音はけたたましく鳴っている。ルビーがここまで触れさせようとするのだ。あの球体に触れて、シズクにとって良い事が起こるはずは無い。だが、ミレニィと自分と、どちらかの選択肢を迫られて、出てくる答えは一つしかなかった。

 ふうっとシズクは息を一つ吐くと、意を決して右足を前へ踏み出す。視線を前方へ据えると、あの謎の球体を見た。だが、彼女の歩みは一旦そこで止められてしまう。

 「――――」

 ローブの裾を掴む手があったから。

 球体へと向けていた視線を戻すと、少しだけ呆けた顔で、シズクは自分のローブを引っつかむ手と、その張本人を見つめていた。うずくまった状態のまま、涙でぼろぼろにはなっていたが、こちらを必死で見つめてくる彼女の――ミレニィの瞳には確かに光があった。ほんのしばらく、ミレニィの嗚咽しか聞こえない状況の後で、唐突に時は回りだす。

 「触ったら……触ったらだめ! 行かないで!」

 言いながらも、ミレニィの空色の瞳からは大粒の涙がとめどなく流れ続ける。ミレニィも、あの球体からただならぬ何かを感じてしまっているのかもしれない。

 「わ、私ね、確かに貴方の事、羨ましいと思ったのよ……でも……でもね、こんな事するつもり、本当に全然無かったの」

 「ミレニィ」

 「こんな事になっちゃって……ごめんね……ごめんなさい――シズク!」


 ――ミレニィはいい子だよ。シズク。信じて欲しい。


 今朝のジャンの言葉が、頭の中で一際鮮明に響く。それと同時に、涙が浮かんできて視界が揺れた。だが、最近何度か流していた涙とは全く違う意味合いの涙だった。だからシズクは、鼻がつんとするのを押さえて、無理やり笑う。そうしてしゃがみこんで、自分のローブをひっつかむミレニィの手を解くと、その細い肩を包んでやんわりと抱きしめていた。ふわんと、女の子の香りが鼻をくすぐる。ルームメイトのアンナの事が頭に過ぎって、益々それがシズクの胸を締め付けた。


 「ミレニィ。――ごめんね」


 こんな事に巻き込んでしまって。怖い思いをたくさんさせてしまって。

 口から真っ先に出た言葉は、それだった。それ以外に、自分が彼女に言える言葉なんて思いつかなかった。

 抱きしめる腕を解いて、ミレニィの顔を見ると、少しだけ彼女は落ち着いてきたようだった。涙は相変わらず止まっていなかったが、綺麗な青色の瞳はしっかりとシズクを見つめている。

 「魔道士の名家の末娘だから、大丈夫だよね……」

 独り言のようにそう呟くと、シズクはミレニィの手を取って、自身のポケットに入っていた物を握らせる。

 「?」

 対するミレニィは、瞳をぱちくりさせながら、手のひらの中の物を見つめて、首を捻っていた。部屋の魔法の光を受けて、手のひらの中のそれは不思議な色を放つ。少しだけヒビが入った、青い美しい石。偉大なる蒼イアーリオ・ワイスの欠片である。

 せめて今の自分にできる事はこれ位しか無いから。

 (魔力を吸い尽くしたら駄目だよ。リオ、彼女を守ってあげて)

 それだけ心の中で告げると、もう一度息をついてから、シズクは立ち上がる。後方からミレニィが駄目! と叫ぶ声が聞こえたが、聞こえなかった事にする。ゆっくりとした動きで目的の場所に向かって歩き出していた。

 途中、妙に勝ち誇ったようなルビーの瞳と視線がぶつかったが、鋭くにらみつけただけだ。だが、彼女の横を通過したときにかけられた言葉だけは、ねっとりと耳に残って離れる事はなかった。


 「最も残酷な死に方って、何かしら?」


 台座の前に辿り着いて、水晶をすぐ目の前に据える。近づくと、より濃い密度の魔力が感じられて、背中が粟立っていた。ためらいつつも、ゆっくりとそれに向かって右手を差し出す。いろんな事が頭の中に浮かんだが、それも段々どうでも良い事のような気がしてきていた。

 「――――」

 ひんやりと無機質な冷たさを手のひらに感じた瞬間、どこかに引きずり込まれそうな感覚に陥る。そうして自分の体がふわりと浮かんだような気がした。だが、それまでだ。視界が真っ白になっていったかと思うと、次の瞬間にはもう何も無くなってしまっていた。


 「生きながらの死って、一体どんな感覚なのかしらね」


 ごとりと崩れ落ちるシズクの様子を見つめつつ、ルビーがそんな事を言う。ミレニィが盛大に悲鳴を上げて、益々泣き叫んだが、それももうシズクには聞こえない事だった。

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