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追憶の救世主  作者: たかこ
第2部 東の森の魔女編
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第1章「イリスピリア」(4)

第1章「イリスピリア」


4.


 ごぉんと、見た目どおりの重厚な音をたてて、扉は開いた。

 真っ先にシズクの瞳に飛び込んできたのは、王座まで真っすぐに伸びる、深紅のじゅうたんだった。次いで、王の間の広さに息を呑む。上を見上げると、はるか上に光りを取り入れる為の窓があった。そこから日の光がシャワーのように差し込み、辺りは神聖な雰囲気に包まれる。全てにおいてスケールが大きい。エレンダルの城など、この足元にも及ばないだろう。

 荘厳な光景に見入っているシズクの前で、先頭をきってネイラスが歩きだした。彼に続いてセイラ達も歩き始めたので、慌ててシズクも歩を進める。その一歩一歩がこの広い空間に反響を繰り返すため、なんだか気持ちが落ち着かなかった。緊張のせいでもあるかもしれない。


 「――来たか」


 声は前方から聞こえた。

 厳格さを宿した低い声。発生源は、他でもない。前方の王座からだった。

 かつん。と一際大きな音をたててネイラスは立ち止まる。そして、恭しく頭を垂れた。

 「陛下、水神の神子様御一行をお連れしました」

 「ふむ」

 ネイラスにならってシズクも頭を下げる。しばらくしてから顔を上げると、前方を見上げた。

 少し段になっているところには、この国の主が座す石造りの椅子があった。王座にゆったりと腰掛けるは、大国イリスピリアを統べる者――すなわちイリスピリア王。

 少し白髪の交じりはじめた金の髪。厳格だが慈悲の光が宿る瞳の色は、リースやリサと同じ、明るいエメラルドグリーンだった。黄金色の前髪がかかる額には、王の証である金の輪が見え隠れする。ところどころ皺は走るが、それさえなければ彼はリースにそっくりな顔立ちだった。さぞかし若かりし頃は、イリスピリア中の乙女を夢中にさせただろうと思う。

 先王の急逝により、まだ20代の若者だった頃に王位を継いだ王。現在も齢40を過ぎたばかりだろう。普通ならばそれは、まだ王としては半人前と呼ばれる年令だったが、若くに即位した事もあって、彼は既に立派なこの国の主だ。

 レイ・S・ラグエイジ・イリスピリア75世。

 彼が今、目の前にいる。

 イリスピリア王は、ざっと一同を見渡すと、ある一点に視線を留め、そして口を開いた。

 「……なぜおまえ達までこの場にいるのだ」

 すなわち、彼の子である第一王子と第一王女の方を半眼で見ながら。

 「まぁその、成り行きよ。お父様」

 「だな。俺の場合、一人だけ城へ引っ込むのも変な気がするし」

 お互いの顔を見合わせながら、リースとリサは淡々と答える。

 王に対するかしこまった振る舞いや言動は、そこには全く無い。これで良いのかと一人はらはらするシズクだったが、アリスとセイラなどは慣れたもので、肩をすくめて互いを見合うだけだった。ネイラスにしても、軽くため息を零すのみ。

 「まぁいい。いつもの事だ。別に邪魔にはならんし」

 イリスピリア王に至っては、深いため息とともに、そうのたまうのみだった。実に息子達に寛容というか、すでに諦めてしまっているというか。

 「で、セイラ。久しぶりだな」

 「お久しぶりです陛下」

 リース達の件を早々に切り上げて、王はセイラに視線を向ける。それにセイラは、相変わらずのへらっとした口調で返した。

 あいさつを一つ交わしただけで、二人が旧知の仲だという事がシズクにもわかる。言葉では言い表わせない何かが二人の間に漂っていたからだ。セイラの雰囲気もいつもと少し違う気がする。どことなく肩の力を抜いているように思えた。

 「わざわざこのような形で謁見など開かなくとも、話があるなら夜にでも部屋に来れば良いだろうが。お前の事だ、どうせこの場では本題には触れず、あいさつ程度で済ますのだろう」

 「よく分かっていらっしゃる。けどまぁこれも社交辞令ですよ。一応僕も、水神の神殿の責任者ですし」

 「確かにな。最高責任者が挨拶なしに城に居候しては、神殿の評判が地に落ちる、か」

 そう言うことです。とセイラは肩をすくめてみせた。それを王は顎に手を当てる仕草をしながら見つめていたが、

 「まぁこれで挨拶は済んだ。本題は夜、私の部屋に来い」

 面倒くさそうに言うと、早く謁見を終わらせたいとでも言うかのようにため息をつく。イラついているのだろうか。仕事が山積みなのかもしれない。王は多忙なものなのだから。

 「それはそうと……」

 そんな事をシズクが考えていた時だった。謁見が終わるかに見えたのだが、王は更に話を切り出そうとする。一同の視線は、イリスピリア王の方へと集中する。シズクも周囲にならい、玉座へ視線を向けた訳だが、向けてから心臓が飛び上がった。彼の視線は、セイラでもリースでもなく――自分の方を向いていたから。それも、信じられないくらいに、冷たい色を宿した瞳で。


 「何故ここに、ティアミストがいる?」


 それまでの会話とは明らかに声色が違う。抑揚の無い、幾分冷気を含んだ声。そこから、感情は全く感じられなかった。いや、分かりやすいくらいに感じられるとも言うか。そこに含まれるのは――『拒絶』だ。

 「――――」

 あまりの王の変化に、シズクは息を呑んだ。先ほどまで和やかに会話をしていた人物と同じとは信じられないくらいの、鋭い視線がこちらを向いている。心臓が変なリズムで鼓動を打ち始め、額からは冷たい汗が浮き出てきていた。

 (何故?)

 心の中で、自問自答する。

 ここへ来る直前に、ネイラスは笑顔で、イリスピリア王はティアミストを歓迎してくれるという内容の事をシズクに言っていなかっただろうか。死んだ母はシズクに、イリスピリア王に会えば力になってくれると言っていたのではなかったか。

 歓迎して貰えると思っていた。力になってくれると信じていた。

 それなのに……今目の前にいるこの人は、明らかに自分を拒絶している?

 「…………」

 あたりは静まると同時に、糸を張ったような妙な緊張に包まれ始めた。絶句しているシズクの隣で、さすがのセイラも驚きを露にしている。彼としても、王のこの反応は意外だったのだろうか。

 セイラ以外の者にしてもそうだ、ネイラスも目を見開いて、主の突然の変化に戸惑っている様子。リースやアリスも同様の反応を示す。ただ一人、リサだけは状況がよく飲み込めていない様子で首をひねるのが見えた。

 「陛下、彼女は――」

 「ティアミストは滅びた。12年前にな。イリスピリア王家とティアミスト家の関係は終わったのだよ」

 セイラの言葉を遮って、王は更に言葉を紡ぐ。淡々とした口調だった。

 今まで人に拒絶された事が無いといえば嘘になる。しかし、こんな風に、全くの初対面で拒絶の意をぶつけられた事は初めてだった。シズク自身に非は無いだろう。もしあるとすればそれは、ティアミストであるという点だけ。


 「それなのにティアミストの娘よ――何故ここに居る?」


 有無を言わせぬ冷たい声は、容赦なくシズクの心に突き刺さった。

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