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影縫う剣と蒼き城の執事  作者: わまたよ


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第三部第十一話 ――剣の届かぬ場所で、火は灯る

南方の森は、再び深い静寂を取り戻していた。


焼け焦げた地面には、すでに新しい芽が顔を出し始めている。

魔力の濁流が通り過ぎた痕跡は残りながらも、世界は何事もなかったかのように、再生を選んだ。


だが――

人の世界は、そうはいかない。


首都ヴァルアスでは、南方の戦いを巡る噂が、形を変えながら広がっていた。

「魔族を退けた英雄譚」として語る者もいれば、

「公爵領が力を隠している証拠だ」と警戒する者もいる。


どの言葉にも、真実は一部しか含まれていない。


アルヴァリア公爵領は、勝利を誇示しなかった。

戦果を喧伝することも、他国を威圧することもない。


ただ、淡々と備えを固めた。


騎士団は配置を改め、

魔法師団は森の魔力変動を常時観測し、

補給路と避難経路は見直され、静かに整えられていく。


「戦争の準備は、戦争を呼ぶ」と言う者もいる。


だが、椎名は知っていた。

備えなき平和こそ、最も脆いということを。


――夜明け前。


城の裏庭で、椎名はファルカと向かい合っていた。


「今日は、ここまでにいたしましょう」


「……はい」


ファルカは木剣を下ろし、荒い息を整える。

まだ幼い身体には、十分すぎる稽古だった。


「疲れましたか?」


「……少し。でも、嫌じゃないです」


その言葉に、椎名は微かに目を細めた。


「無理をする必要はございませんよ」


「でも……」


ファルカは一瞬、言葉を探すように視線を彷徨わせ、それからまっすぐ椎名を見た。


「強くならないと、守れないって……教えてくれたの、椎名様ですよね」


静かな問いだった。


椎名は、すぐには答えなかった。

しばし空を見上げ、薄紫に染まり始めた東の空を眺める。


「……ええ。確かに、そう申しました」


そして、ゆっくりと続ける。


「ですが、それは“剣を振るう理由”ではございません。

 “剣を振るわずに済むようにする理由”でもあるのです」


ファルカは、少し考え込み――

それから、ぎこちなく笑った。


「……難しいです」


「いつか、分かれば十分でございます」


城の鐘が、朝を告げる音を響かせる。


同じ頃。


遥か北方、魔族国家インベイの深奥。


玉座の間で、魔王は指先で宙をなぞり、歪んだ地図を眺めていた。

南方の森、アルヴァリア公爵領、その中心に刻まれた“異物”。


「……やはり、面白い」


椎名という存在。

魔力を持たぬ、剣のみの者。


世界の理から外れた存在が、戦の均衡を崩し始めている。


「殺すには惜しい。

 だが、放置するには危険すぎる」


魔王は、静かに笑った。


「次は、森では済まぬぞ」


――再び、公爵領。


椎名は、城の廊下を歩きながら、心の中で静かに誓う。


(剣を振るうべき時は、必ず来る)


だが、それまでは。


この場所を、

この人々を、

そして――未来を。


剣の届かぬ場所で、守り続ける。


戦は終わった。

だが、物語は終わらない。


それは、

国家と魔族、

剣と魔法、

そして一人の“名もなき執事”が交差する、次なる章の始まり。

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