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影縫う剣と蒼き城の執事  作者: わまたよ


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第三部 第八話――終結

南方の森が、悲鳴を上げていた。


大地は抉れ、樹木は途中から断ち切られ、空気そのものが重く澱んでいる。

魔族が本気で魔力を解放した証だった。


「前列、耐えろ! 後列、間断なく撃て!」


ガイウスの怒号が森に響く。

騎士団は円陣を組み、魔力を全身に循環させ、盾と剣を硬化させていた。

衝突するたび、空気が爆ぜる。


魔物の群れが、まるで濁流のように押し寄せる。

巨大な獣型。多肢の異形。

その背後には――魔族。


三属性を同時に操る存在が、冷笑を浮かべていた。


地面が一瞬で凍り、次の瞬間、内側から破裂する。

氷と土と圧縮された空気が混ざり合い、殺意の塊となって放たれる。


「散開! 密集するな!」


魔法師団が応じる。

彼らは詠唱を行わない。ただ感覚と経験で、現象を引き起こす。


湿度を奪い、熱を逃がし、空気の流れを捻じ曲げる。

直撃は避けられたが、それでも数名が吹き飛ばされた。


「――椎名様!」


セリウスの声が切迫する。


魔族の上位個体が、前に出た。

爵位持ち――明確に、戦況を破壊しに来ている。


周囲の魔力が一斉にそちらへ吸われる。

森全体が、その存在を中心に歪み始めた。


椎名は、前へ出た。


剣を抜く音は、静かだった。


魔族が嗤う。

魔力を持たぬ人種が、何をするというのか。


だが次の瞬間。


椎名の足が、地を蹴った。


魔法的な加速ではない。

筋力と重心と踏み込みだけで生じた、純粋な速度。


魔族が反応する前に、間合いへ入る。


放たれた魔力の奔流を、椎名は斬った。


概念的な話ではない。

魔力が形を成す直前、その「流れ」を断ち切った。


「――な……?」


驚愕が浮かんだ瞬間、魔族の胴がずれた。


血が噴き、魔力が暴走し、肉体が崩壊する。


一太刀。


それだけだった。


戦場が、凍りつく。


「……続けて来ますか」


椎名の声は穏やかだった。


答えるように、別の魔族が複数動く。

今度は連携。空間を歪め、重力を狂わせ、視界を奪う。


騎士団では対応できない領域。


椎名は、一歩も退かなかった。


剣を振るたび、何かが“起きる前”に消えていく。

火は燃え上がらず、水は形を持たず、闇は広がらない。


技術と経験で、発生を許さない。


やがて、魔族側が気づく。


――これは勝てない。


角笛のような音が森に響き、魔物たちが一斉に後退を始めた。


撤退。


それも、完全な。


森に残ったのは、破壊と沈黙だけだった。


数刻後。


騎士団は倒れた仲間を確認し、治療を行い、陣を整えた。

死者は出なかった。奇跡的に。


「……終わりました、ね」


ファルカが、震える声で言う。


椎名は、剣を納めた。


「ええ。森での戦いは、ここで一区切りです」


だが、その目は遠くを見ている。


「ですが――魔族との戦争は、始まったばかりです」


南方の森は、沈黙を取り戻した。

しかしそれは、勝利の静けさではない。


世界が、一段階深く、戦争へ踏み込んだ音だった。

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