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影縫う剣と蒼き城の執事  作者: わまたよ


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第三部 第七話――戦後

戦場に残ったのは、焦げた土の匂いと、まだ熱を帯びた空気だった。


南方の森の縁。

先ほどまで魔物と魔族が溢れていた場所には、折れた樹木と抉れた地面が広がっている。

朝日が差し込むたび、その破壊の痕跡があらわになった。


「……想定より、被害は少ない」


ガイウスは報告書に目を落とし、低く呟いた。

騎士団の死者はゼロ。重傷者も最小限。

それ自体が、異常な戦果だった。


「皆様の練度と連携の賜物です」


椎名は静かに頭を下げる。

その表情はいつもと変わらないが、内心では一つの違和感を反芻していた。


――引きが早すぎる。


魔族側の動きは、明らかに様子見だった。

数と質を揃えながら、本気の一手を打たずに退いた。


「椎名様……」


控えめな声が、背後からかかる。


ファルカだった。

まだ幼さの残る顔には、恐怖と高揚が入り混じっている。


「……あれが、本当の戦なのですね」


「ええ。ですが――本物は、これからでしょう」


椎名はそう答え、森の奥を見つめる。


ファルカは、戦場に立たせてはいない。

だが、後方からすべてを見せた。

魔法が地を割り、命が消える現実を。


「怖い、です。でも……」


少年は拳を握りしめる。


「逃げたい、とは思いませんでした」


椎名は少しだけ、目を細めた。


「それは立派なことですが、誇るべきことではありません。

 恐怖を知ってなお踏み出す覚悟があるか――それが、大切なのです」


ファルカは深く頷いた。


その頃、森のさらに奥――。


苔むした岩の上に、魔族たちが集っていた。

先の戦で退いた部隊の指揮官たちだ。


「……あの剣士、異常だ」


「魔力を使わず、我らの攻撃を断つなど……」


「魔王様に報告すべきだな」


一体の魔族が、低く笑った。


「いや。報告はするが――次は、試す」


空間が歪む。

その場にいた魔族の一部が、影に溶けるように消えた。


「南方の森は、もう前哨ではない。

 ――本戦だ」


再び、前線。


椎名は公爵家へ向けて、戦況報告を書き上げていた。

言葉は丁寧に、だが危機感は隠さず。


「南方の森における魔族の動きは、明確に組織的です。

 次は、より大規模な侵攻が予想されます」


封を閉じた瞬間、ふと、胸の奥がざわめいた。


――来る。


理由はない。

だが、戦場を幾度も潜り抜けてきた感覚が、そう告げている。


「椎名様」


リディアが静かに声をかける。


「皆様、椎名様のことを……英雄のように話しています」


椎名は小さく首を振った。


「私は、英雄ではありません。

 守るべきものがあるだけです」


視線の先には、訓練を始める騎士団。

そして、その端で剣を握り直すファルカの姿。


南方の森は、再び静まり返った。

だがその沈黙は、嵐の前触れだった。


次は、退くためではない。

奪うための戦いが来る。


椎名はそう確信し、剣を腰に戻した。


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