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影縫う剣と蒼き城の執事  作者: わまたよ


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第一部 第二話 ――魔法の世界で、魔法を使わぬ者

 冒険者たちは、距離を保ったまま椎名を囲んでいた。


 敵意はない。

 だが、警戒ははっきりと感じられる。


 それは当然だろう、と椎名は思った。

 得体の知れない男が、魔法も使わず、たった一振りで魔物を斬り伏せたのだ。


 先頭に立つ壮年の男が、一歩前に出る。


「私はガルド。アルヴァリア公爵領に属する冒険者です」


 腰を軽く折り、礼をする。

 形式ばらないが、品のある所作だった。


「椎名と申します」


 同じように、最小限の礼を返す。


 それだけで、男――ガルドは目を細めた。


「……妙な名ですね」


「異国の者です」


「なるほど」


 それ以上は踏み込んでこない。

 その距離感に、椎名はわずかな好感を覚えた。


「先ほどの魔物、あれは“森から溢れた個体”です」


「溢れた?」


「ええ。南方の大森林では、時折こうして魔物が境界を越える」


 仲間の一人が、地面に残った淡い光――魔物が消えた痕跡を指差す。


「本来なら、魔石が残るはずなのですが……」


「魔石?」


 椎名が問い返すと、今度は露骨に驚かれた。


「……魔力を持たないのですか?」


「ありません」


 はっきり答えると、場の空気が変わった。


 ざわり、と小さな動揺。


 誰かが、冗談だろう、と言いたげに息を吸う。


 だが、椎名の表情は変わらない。


「信じられない、という顔ですね」


「正直に言えば……はい」


 ガルドは苦笑した。


「この世界で、魔力を持たぬ者は……まず、いません」


「そうですか」


 それでも、椎名は動じなかった。


 魔法が常識の世界で、魔法を知らぬ。

 その事実を、彼はただ受け止めている。


 ――その時。


 空気が、変わった。


 肌が、粟立つ。


 椎名は、冒険者たちよりも先に、視線を森へ向けていた。


「……来ます」


「え?」


 次の瞬間、地面が弾けた。


 土が舞い、黒い影が跳び出す。


 先ほどよりも大きい。

 筋肉の塊のような体躯。

 爪は長く、牙からは涎が垂れている。


「上位個体だ!」


「魔法陣展開!」


 冒険者たちは即座に散開した。


 後衛の魔法士が、空気を掴むような仕草をする。

 目に見えぬ力が集まり、周囲の温度が一気に上昇した。


 ――炎。


 圧縮された熱が、矢のように放たれる。


 魔物は咆哮し、だが勢いを止めない。

 皮膚が焦げても、怯まない。


(防御が厚い……)


 椎名は、静かに距離を詰める。


 魔法は、確かに強力だ。

 だが、それは“万能”ではない。


 魔物が魔法士へ向かって跳ぶ。


「まずい!」


 ガルドが叫ぶより早く、椎名は踏み込んでいた。


 ――抜刀。


 低い姿勢から、下から上へ。


 関節。

 筋肉の流れ。

 重心の位置。


 すべてが、見えていた。


 魔物の腕が、落ちる。


 遅れて、血が噴き出した。


 魔物が悲鳴を上げた瞬間、椎名は懐に入り込む。


 ――突き。


 刃は、心臓の位置を正確に貫いた。


 魔物の体が、崩れ落ちる。


 沈黙。


 冒険者たちは、言葉を失っていた。


「……魔力なしで、上位を?」


 誰かが、呟く。


 椎名は、刀を拭いながら答えた。


「生き物なら、倒せます」


 その言葉は、驕りではなかった。

 ただの事実だった。


 ガルドは、深く息を吐き、そして笑った。


「あなたは……危険だ」


「そうですか?」


「ええ。敵に回したくないという意味で」


 そして、真剣な目で続ける。


「もしよろしければ、我々と共に来ていただけませんか」


「どこへ?」


「アルヴァリア公爵領へ」


 その名を聞いた瞬間、椎名の胸に、奇妙な予感が芽生えた。


 ――ここが、転機だ。


「……話を聞くだけなら」


「十分です」


 森の奥から、微かな視線を感じながら。


 椎名は、まだ知らない。

 この選択が、やがて国家を動かすことを。

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