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異端のベルカ─自由な冒険者の気侭な生き方─  作者: 智慧砂猫


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第7話「信頼を預ける」

 出発したはずの冒険者とは装備の数も、死体の数も合わない。進めば進むほど危険に突っ込むのは分かっていても、助かる可能性がゼロではない限り、ベルカは無視して引き返すことはできなかった。


 異を唱えたのはクランツだった。


「ふざけてんのか!? お前も帰るんだよ、同じパーティなんだぞ! ここにある死体を見てんだろ、どうやって殺されたかなんて想像したくもないのに、嫌なイメージが頭の中に浮かんできやがる! お前にそうなられるのは気分が悪い!」


 身振り手振りを大きく、説得を試みるもベルカの心は微動だにしない。それどころか、クランツの言葉をわざと小馬鹿にするように鼻で笑った。


「随分と友達目線だね。君、さっきまでの自分の態度とか自覚してないのか?」


「おま……っ! わかったよ、好きにしろ!」


 こんな奴と組むんじゃなかったと悪態を吐きながら引き返す。帰り際にミリネの肩をぽんと叩いて「さっさと行こうぜ」と促したが、彼女は動かなかった。手に握りしめた聖杖を握りしめて────。


「私も行きます、ベルカちゃん」


 驚いて声をあげたのはクランツだった。帰ろうとして、思わず振り返った。


「はあ!? お前まで何言ってんだ、死にてえのか!?」


「死にたいわけではありませんよ。あなたとは違いますから」


 つんとした態度に、わなわな震えるクランツだったが、チッと舌打ちすると、やはりそのまま引き返してしまった。わざわざ命懸けで他人を助けるなどまるで理解ができなかったし、二人とは相性が最悪で、自分を立てない女とつるんでいても気分を害するだけだと自身を正当化した。


 だが、結果的にベルカとミリネには都合が良い。気の合わない者がいれば、いざというときに連携が取れない可能性もある。早々に離脱してくれて助かった、と内心では胸を撫で下ろすような安心に満たされた。


「良いのかい、ミリネ。この先は本当に危険なんだろ?」


「だとしてもです。もし、ベルカちゃんの言う通りに生存者がいるんだとしたら、私の聖力は役に立つはずですよ。魔法よりも高い治癒力がありますから」


 なるほど、納得。ベルカも多くの知識と修練を積み重ねてきたが、たとえ建物ひとつを吹き飛ばせるほどの大きな魔力を持っていたとしても、どこにでもいる小さな聖力を持つ者には治癒力で劣るのだ。


「わかった。出来る限り、君を守れるよう行動するよ。どの程度の強い魔物がいるかにもよるけど……まあ、私って結構強いから大丈夫でしょ」


「クランツとは違うベクトルで自信家なんですねぇ。嫌いじゃないですけど」


 不安は抱えつつも、お互いを頼りに笑顔を浮かべる。緊張も解れたところで小さく頷き合い、洞窟をさらに突き進んだ。出来るだけ慎重に息を殺しながら、徐々に近づく気配にミリネの表情にも緊張が再び現れ始めた。


「そういえば、この先へ進む前に聞いてもいいですか」


「うん。これが最後かもしれないから何でも聞いて」


 嫌な返し方だなあ、とミリネがしょぼくれた顔をして尋ねた。


「ベルカちゃんってどうやって戦うんですか。魔法の杖も魔導書もないし、武器も持ってないですよね。見るからに素手ですけど……何も持たないとか?」


 首を横に振って、ベルカはニコッと笑顔で答えた。


「全部かな。基本的には魔法主体になると思う」


「魔法主体って……道具もなしに戦える魔法使いなんて上澄みでしょう」


 優秀な魔法使いというだけで貴重な人材だ。その中でもさらに、魔法に使う道具を一切持たない者たちがいる。それも、指折りで数えられる程度に。これから冒険者になろうかというベルカが、いかに優秀な人間であったとしても、ミリネには当然の如く信じられない話だ。


「それって、そんなにおかしいこと? あっ、もしかして魔道具がないと異端者扱いされたりするのか。こいつ舐めてるだろ、みたいな」


「……はは。それなら心強いかもしれません。信頼します、いいですか」


 聖力が感じられるのは、魔物のような邪悪な気配だけだ。人間の悪意も感じ取れる場合もあるが、少なくとも個々人の魔力の大きさは感じない。もしかしたら、とミリネも小さな希望を感じて緊張が僅かに解れる。


「ベルカちゃん。私の経験だけを頼りに言えば、この先にいるのは獣です。ゴブリンの巣に入り込み、彼らの数を意にも介さない。運動能力も高いと思います。さっきの死体、一人は頭を強く打って亡くなっていましたが、もうひとりは腹を切り裂かれていました。なのに、他に外傷らしい外傷はなかった」


 冒険者になろうと決めたのは、たくさんの人々を救いたかったから。自分には大きな聖力が宿っているから。これまでに感じてきた魔物の気配は、人々の受けた傷と、そこに纏わりつく瘴気で記憶している。近付いて、さらにハッキリした。


「(トロールなら普通の人間は潰れてる。ホブゴブリンなら、今も巣にはあちこちにゴブリンがいたはず。────だとするなら、この先にいるのは)」


 目を瞑って集中する。漂う魔物の気配の輪郭が感覚で理解できた。


「奥にはワーウルフが三匹います。それも、いくらか大型の」


「あぁ、了解。情報をありがとう、君がいてくれて助かったよ」


 慎重になるのはここまで、とベルカはぐぐっと背筋を伸ばす。


「────じゃあ、野犬狩りといこう」

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