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異端のベルカ─自由な冒険者の気侭な生き方─  作者: 智慧砂猫


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第5話「嫌な気配がする」

 巨大なクリスタルの前で、魔法使いの男がやってきた三人に笑顔で小さく会釈をする。移動先の指定とポータル開通の役割を担っており、何時、誰が、何処へ行ったかを記録しておくために立っていた。


「こんにちは、クラウンポータルサービスのカイトと申します。初めてのご利用はお安くなっております。通行許可証をお持ちの方は無料でのご利用が可能となっていますが、許可証はお持ちでしょうか?」


 尋ねられて、ベルカは折りたたんでいた通行許可証の紙を広げて手渡す。


「これです。ギルドの冒険者としての認定試験を受けに、ゴブリンを討伐してくるよう言われたので、近くの森までお願いします」


「承知致しました。帰りは徒歩になりますが、構いませんか?」


 徒歩か、とベルカが後ろを振り返る。ミリネとクランツの意見も聞かなければ、自分の一存では決められない。


「どうする、森はそう離れてないらしいけど……」


「俺は別に問題ない。三十分くらい歩くだけだって聞いてる」


「私も、いっぱい食べたからいっぱい運動しないとです!」


 気合はバッチリで、気にすることもなかったなとベルカも胸を撫で下ろす。


「問題ないそうなのでお願いします」


「はい、ではこちらのクリスタルの前に立ってください」


 三人は促されるまま並び、大きなクリスタルを見あげた。魔法使いの男がクリスタルに触れると輝き始め、森への道を映し出す。


「目の前に森が見えていると思いますので、そのまま進んでください。初めての方は不安かもしれませんが、水の中に潜るのと似たような感覚ですので、そう怖くありませんよ。それでは皆様、行ってらっしゃいませ」


 最初にベルカがクリスタルに触れると、水面に波紋が広がるようにクリスタルの表面が揺れ動いて驚いた。話には聞いていたが、実物はとても不思議な現象を見せ、無邪気な子供心をくすぐった。


 今度は勢いに任せて飛び込んだベルカは、一瞬、視界が光に包まれた。眩しさにぎゅっと目を瞑ったが、程なくして落ち着いた。ゆっくり目を見開いたとき、視界に飛び込んできた光景に息を呑む。


「わあ……すごいなあ」


 目の前に広がる大自然。平原を進んだ先にある広大な森の入り口では立て看板が『この先、危険』と注意を促す。振り返ればもう来た道はなく、あるのは遠くに見える首都の姿だけ。たった一歩で随分と遠くまで来たんだと胸が高鳴った。


 新しい冒険の予感がして、森を前にテンションがあがる。


「はあ、これから試験か。さっさと終わらせて帰ろうぜ」


「クランツ……。君はこの景色を見ても、何も感じなかったりするわけ?」


「んなもん当たり前だろ。金にもなんねえのに興味なんかあるかよ」


 悪態を吐かれて、やはりとことん反りが合わないなと苛立った。感受性が薄く、芸術にも理解を示さない。ただ目の前にある現実だけが全てと言わんばかりの、周囲に馴染めないタイプの男。そう評価を改めた。


「ベルカちゃん、いきましょ~。私も早く行きたいです!」


「君も? 少しくらい景色を見たっていいのに……」


「気持ちはわかりますよ。でもベルカちゃん、まずは任務です」


 へへっ、と楽しそうにミリネは笑って言った。


「今はパーティで来てますから、仕方ないです。あとでじっくり楽しみましょ!」


「おっ、話が分かるね。それならさっさと済ませちゃおう!」


 意気投合する二人を振り返って、クランツがチッと舌を鳴らす。 


「ガキみたいなこと言ってねぇで早くしろ。俺を待たせるなよ」


 自分が蚊帳の外なのが気に入らず、悪態を吐く。自分の立場を相手より高い位置にして、偉そうに先頭を歩く。ベルカとミリネはわざとらしく肩を竦めた。


「行きましょ、ベルカちゃん」


「うん。たかがゴブリンだ、すぐに済ませよう」


 三人は地図を見ながら森を進んだ。いくつかのゴブリンの巣があるポイントが赤い丸で囲まれていて、手っ取り早く済ませるのに最も近い場所へ向かう。


 森は地図で見るよりずっと広く、なかなか目的地には辿り着かない。目印となる木などを確かめながら進んでいるので道は間違っていなかったが、とにかく歩かされて、到着する頃には少し足が怠く感じた。


「思ったより遠かったんじゃねえの。まさか遠回りでもしたか」


「まさか。間違いなく私たちは正しい道を歩いてた。……にしても、それまでの道のりでゴブリンの一匹も見なかったね。ちょっと変じゃない?」


 違和感を覚えるベルカをクランツが鼻で笑った。


「もの知らずだな、お前。ゴブリンってのは夜行性だ、昼間はうろつかねぇ」


「場合によることを喜々として語らないでくれる?」


 知識としてゴブリンが夜行性というのは常識だが、その基本的な話にも、具体的な理由がある。クランツの言葉を真っ向からベルカが否定した。


「人里の近く以外で暮らす場合は、昼間は森の中で木の実なんかを集めてるんだよ。夜には猛獣がうろつくことが多いから、襲われたら逃げる際に全部捨てていかないと犠牲になる。ゴブリンって数が多いと厄介だけど、二、三匹程度じゃあ狼にとっては良い餌だ」


「それじゃあ、んなもん、俺たちの気配を感じ取って巣に帰っただけだろ」


 ベルカは首を横に振ってさらに続けた。


「彼らは人間を恐れてる。だからか、少々知恵は回っても行動は単純で愚かだ。大体は数匹が見張りも兼ねて巣の近くにいるんだけど、それもない」


 木の上を指差されて、クランツも視線をあげた。確かに以前聞いたことがあると思って、否定はしなかった。ただ少しだけ、悔しそうに巣の入り口を見た。


「だとしても、俺たちは巣に入ってゴブリンを何匹か仕留めるだけでいい。そいつが終われば、はれてギルド所属の冒険者ってわけだ」


「そうですねぇ、私もそれには同意見です。はやく済ませましょう」


 ミリネが鼻をつまんでしかめっ面を浮かべながら言った。


「此処は酷い臭いがします……。私、嫌いなんですよ。────さっきから、妙に嫌な気配を感じるんです。私の聖力がそう告げてます」

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