第3話「新たな出会いを求めて」
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────首都には大きな冒険者ギルドがある。大陸に生息する魔物を退治して生計を立てる人々の集まる場所だ。各地に点在するダンジョンに立ち入り、無尽蔵に発生する魔物を倒して、素材を剥ぎ取ると高く売れたりする。
手に入った素材などは武器や防具、あるいは生活に必要な道具を作るために使われるので、需要と供給に見合った職業として人気だ。ただし、命に係わる危険も付きまとうために、一概に優れた職業とは言えないが。
「ま、楽に生計を立てるとなると冒険者がベストだよね」
冒険者になるためにはギルドに所属しなければならない。さっそく足を運ぼう、と首都でも特に目立つ木造の大きな建物を目指した。巨大な鳥の巣に大きな卵のオブジェが屋根に象徴として飾られた建物は、遠くから見ても一目瞭然。道に迷うことなく誰でも辿り着けるようになっている。
入口から既に集まった人々でごった返していて、出入りが激しく二の足を踏む。ずっと田舎に引っ込んでいたので、常識は頭に叩き込まれていても、いざやるとなると気が引ける。自分が入って大丈夫なのか、と不安に顔が引き攣った。
それでも入らねば話は進まない。ごくりとつばを飲み、勢いに任せて意気込んだ一歩を踏み出す。本の知識だけでなく経験を積むためだ、と。
「いらっしゃいませ、初めての方ですか?」
受付嬢の柔らかい笑みに、ベルカは肩の力が抜けた。
「はい。実はトロントウッドから来まして……。首都に来るの初めてだったり」
「そうなんですか。私の祖母もトロントウッド出身ですよ、同じですね」
「あはは、奇遇だ。ちょっと気持ちが落ち着きました、ありがとうございます」
同じ地域にルーツを持つというだけで緊張感が解れていく。
「あっ、そうだった。冒険者として登録したいんですけど、お願いできますか」
「ギルド登録ですね、出来ますよ。まずはこちらの書類に記入をどうぞ」
必要なのは名前。年齢。生年月日。性別。出身地。家族の有無。いずれも個人を特定するためのもので、冒険者になって命を落とす者も決して少なくない。亡くなった後、現地で回収された遺体や遺品を届けたりする必要がある。そのために、身分をはっきりさせておいた方がギルドも楽だからだ。
「……あら、ご家族のところに記載がありませんが」
書類を確認した受付嬢に問われて、ベルカは平然と答えた。
「ああ、それならいないです。村で親に捨てられてるので。村でも、あまり良い扱いは受けて来なかったから、誰かに送り届けるものとかないんですよ」
一瞬、アデラのことが脳裏を過ったが、年齢的なものを考えれば、自分が死んだことが伝わってしまうのかと思うと無駄な負担はかけたくなかった。
「承知いたしました。では、こちらがギルド員の仮登録証となります。本登録証は冒険者認定試験を受けて頂いてからお渡しいたしますね」
「えっ、認定試験なんていうのがあるんですか?」
何もかも初めてで、本だけでは知り得ないこともある。細かな規定についてとなれば、なおさらだ。受付嬢は丁寧に、ベルカが分かりやすいように説明する。
「たとえ簡単な依頼でも、多くの場合は魔物と対峙することを想定します。ですので、まずは最低限にこなせる魔物討伐を行って頂くのです」
背後の棚から取り出した一枚の書類を差し出す。書いてあるのは認定試験申請書。試験会場は町から東へ行った森にある洞窟となっている。
「最初に冒険者となる方々にはゴブリンを三匹、討伐して頂きます。その証として、ゴブリンの体の一部や、身に着けていたと分かる装飾品を持ってくることになります。ですが、魔物は魔物。危険ですので、必ず三名での同時試験となることを事前にご了承して頂く決まりもあるんです。ご理解頂けましたか?」
ベルカは頷きながら、書類の必要な項目を記入していく。
「すごく分かりやすかったです。でも三名からということは、他に誰かいないと駄目なんですよね。同じ仮登録証を持ってる人が」
「それは問題ありませんよ。毎日のようにギルド員は増減していますから」
怪我や病気、あるいは死亡することでギルドを辞める者もいれば、逆に金稼ぎだったり、体を鍛える名目で冒険者になろうとする者もいる。あらゆる理由で出入りの激しいギルドでは、毎日のように試験の順番待ちをする人々がいた。
「ちょうど、お待ちの方があちらにいらっしゃいますよ」
目を向けると、ギルドの一階に併設された酒場の片隅で、美味しそうにステーキを食べる少女がいる。桃色の長い髪を大きな三つ編みに束ね、世間の荒波に揉まれた経験もないような愛らしさ溢れる顔で口いっぱいに肉を頬張った。
「ミリネさん、ミリネ・ヒメネスさん。こちらに来て頂けますか?」
口の周りを汚したまま、ミリネがくるっと振り返った。
「あっ、ふあ……はい! ちょっと待ってください! 後、ひと口なんで!」
皿に残ったステーキをがばっと口へ放り込み、咀嚼も少なく喉に送り、ナプキンでサッと口を拭いたら受付までやってきて、びしっと背筋を伸ばす。
「ミリネ、ただいま到着です!」
変わった子だなあ、と横目にベルカが苦笑いをする。
「ミリネ・ヒメネスさん。こちらはベルカ・モーゼルさん。あなたの試験に同行する最初のパーティメンバーとなります。よろしいですか?」
ミリネがジッとベルカを見つけてから、ニコッと満面の笑みを浮かべた。
「はいっ、私はこの方が良いです! とても優しそうなので!」
「別に優しくはないよ、自分で言うのもどうかと思うけど」
ミリネは真剣な顔をして、否定するベルカを叱るように言った。
「駄目ですよ、自分を卑下するなんて。もう、そういうこと言う人ほど根は優しいものなんだって私は知ってます、田舎のお爺ちゃんもそんな感じでした!」
「比べる対象よ。まあいいけど。よろしくね、ミリネ」
村の外では自分を腫れ物のように見る人間はいない。そう思うだけで心が軽い。ミリネの純粋さは、いっそうベルカの胸に沁みるような温度がある。
差し出した手をミリネが両手に力いっぱいぎゅっと握って微笑んだ。
「はい! よろしくお願いしますね、ベルカちゃん!」




