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異端のベルカ─自由な冒険者の気侭な生き方─  作者: 智慧砂猫


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第10話「目標」

 湯浴みも済ませて、疲れも吹っ切ったベルカはギルドの酒場へ足を運ぶ。相変わらず人でごった返す騒がしさは、田舎育ちには少し慣れない。勝手に席に着いて良いものかどうかも分からず思案するしかない。


 魔物相手には堂々としているのに、常識を前には委縮してしまう。


「あっ、ベルカちゃん。こっちです、こっち!」


 自分の名前を呼ぶ声に、どれほど安堵をしたことか。少し離れた席に見える友人の笑顔に救われて、ベルカは力が抜けた。


「ごめん、遅れちゃったね。もう注文終わった?」


「好きそうなものを注文しておきました! 私、お金ならありますよ!」


「冒険者になって日も浅いのに、もしかしてお金持ちの子だったり」


 冗談めかして言ったが、ミリネはふふんと鼻を鳴らして自慢げだった。


「これでも貴族出身なんです。両親は、私の夢だからと背中を押してくれました!」


「あはは、そう……。いいなぁ、私は自由に暮らしたくて稼ぎにきたから」


「そうなんですか。これまではどんな生活をされてきたんです?」


「自分で作った魔法薬を売ってたんだよ。元気がでるヤツ。でも、良いのを作ろうと思ったら材料費が掛かるだろ。もっと高級なものが作りたいからさぁ」


 なんでもやろうと思うと金が掛かるものだと机にぐだっと伏せた。冒険者も最初は稼げたりはしないし、在庫のある魔法薬を売っても、大した額にはならない。できるだけ金が稼ぎたいとぼやいた。


「そういうミリネこそ、聖女になる資格のある人間が、どうして冒険者に?」


「うーん。それこそ聖女になるためなんです」


 届いた山ほどある料理にさっそく手を伸ばし、口の中に放り込んで頬を膨らませながら、ミリネは語った。


「聖女となった人の多くは、言い方は悪いですが世間知らずです。神殿は閉鎖的な場所ですから。でも、救うべき人は神殿の外にもたくさんいます。だから、私は色んな人を助けながら、聖女としての自分をさらに磨こうと思ったんです」


 神殿で静かに祈りを捧げるだけなら誰にでもできる。人々を癒す聖女として、やってくる人々に癒しを与えるだけでなく、冒険者として多くの関わりをもった方が聖女としての力を得られると考えた。そして同時に神殿へ訪れて祈りを捧げることの意味を人々に説き、信仰を広めたいとも。


「そうだ、ベルカちゃんもどうですか。神殿でお祈りなんて捧げに……」


「私はいいよ。宗教は関わるとろくなことが……あ、いや。悪く言うつもりはないんだけど、あまり興味持てないんだよね。よく来てた牧師が胡散臭くて」


 神を信じる者は救われるとやってきた牧師の言葉に、村人たちは頷いてお布施までしていたのをベルカは知っている。そして、その牧師が受け取ったお布施の半分を自分の懐に入れていたことも。


 何も知らない田舎の人間だと思ったら平気で騙す。村人たちも平気で騙される。何度か忠告をしたことはあったが、聞き入れられなかったので放置した。いつかはどちらも痛い目を見る時がくるだろうな、と。


 だから神を信じない。信じられない。神など誰も救わない。


「神様ってのはね、ミリネ。君に言うことじゃないけど、助けてなんてくれないんだと思ってる。だから、私は信仰はしない」


「……そう、ですね。ベルカちゃんの考えも分かります」


 神が人間に救いを与えるならば、それは死という名の救済。生きているうちは、手など差し伸べもしない。でなければ争いが起きるはずもない。ミリネもそれは分かっている。だが、それでも信仰を失ってしまうのは、心にさえ救いをもたらさない。皆が信じるものを信じられるように。次の希望を抱けるように。


「私はそれでも皆様を神のお導きに与れるようにしてあげたいのです」


「……そんなに心広いのに、クランツのことは嫌いって言ったんだ?」


「救いとは別に、聖女が好き嫌いをしてはいけない理由はありませんよ」


 クランツのように自分の方が偉いと思ってる人間は嫌いだ。ベルカのように誰にも対等な人間は好きだ。ミリネは、そういう性格だった。


「自分の保身のために他人を見捨てられる。力が及ばないと分かっているならともかく、できるかもしれないことから目を逸らすのは、神の救いを授かるに値するでしょうか。私はそうは思いません。────ですから」


 ステーキを口いっぱいに頬張りながら、きりっとしつつも緩さのある顔で。


「私は、正しくあろうとする人達全てが救えるような聖女になります。そのために、冒険者の頂点とも言える最高ランクを目指すつもりです」


「ははっ、すごい立派な夢。私もそれくらいの目標が欲しいなあ……」


 ただの金稼ぎにきた自分とは天と地の差だな、とベルカは自分が恥ずかしくなる。


「じゃあ高級魔法薬専門店を開くというのはどうでしょう?」


「……そうだねえ。私にはそれが向いてるかもねえ」


 まだ悩むベルカに、ミリネがびしっ、と骨付き肉で指して言った。


「そうですよ。それに大きな目標よりも、目の前から組み立てていくのもいいと思います。ベルカちゃんはなろうと思えばなんにでもなれます。優秀な冒険者になって、ちょっと多くお金を稼いで、まずは持ち家を買う。なんていかがですか」


 ほんの少し考えてみる。首都で悠々自適に、冒険者として適当に稼ぎながら庭先で本を読み、人の往来と声を音楽に過ごす昼下がり。テーブルには温かいコーヒーとマカロンを用意して、ときどき訪ねて来る誰かと言葉を交わす。


「……うん。うんうん。良いね、決めた!」


 酒をぐいっと煽って、カップを机にだんっ、と強く叩いて置く。


「前よりもっと自由な暮らしを首都でする。そのために、冒険者として色んなところに行って、たくさんお金を稼ぐ! やっぱ私にはこれしかないや!」

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