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異端のベルカ─自由な冒険者の気侭な生き方─  作者: 智慧砂猫


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第9話『まだ始まったばかり』

 帰り道は、醜悪な臭いに包まれながらも気分はそれほど悪くなかった。助けられなかった命はあったものの、できるだけのことはやった。誰かに否定されるものではない。ベルカとミリネの二人は、確かに正しい道を歩んだのだ。


「帰ったらお祝いだね。私たち頑張ったと思うし」


「そうですね。私はベルカちゃんみたくは頑張ってないですけど……」


 流石に、傍にベルカがいなければ、ミリネも引き返す選択を取った。それほどにワーウルフたちは強力な個体だった。自分にできたのは、戦闘を他人任せにして怪我人の治療をするだけ、と申し訳なさそうにミリネが零す。


「そうかなあ。私は君がいてくれたから怪我人を守るなんて考えなくて済んだよ。どこかの誰かさんとは違って勇敢でとても助かった」


「あはは! それなら少しは自信になったかもしれません!」


 さっさと逃げたクランツのことを話題にしながら洞窟の外まで来る。やっと臭気の籠った洞窟から抜け出して新鮮な空気を吸い込む。


 ゆっくり吐きだそうとして、二人共びくっとする。洞窟の前に、大勢のギルドから派遣されてきた冒険者の救助隊が集まっていた。代表らしい壮年の男が、冷静に二人の傍へ歩み寄って声を掛けた。


「まさか無事に出てくる者がいたとは。危険な魔物が現れたと聞いて来たんだが……救助者は、その背負っている人達だけかね?」


「うん、何人かは既に亡くなっていたから、重要度が低いと判断して運んでこなかった。応急処置は済ませてあるよ。あとは本人たちの精神面かな」


 男は横目に、怯えるミリネに視線を流す。聖力を持つ人間がいたのなら怪我は問題ないだろうと判断して、ベルカと話を再開する。


「これから任務を救助から調査に切り替え、我々は内部へ向かう。今回の試験については後日報告をするから安心しなさい。君たちはギルドへ戻りたまえ。部屋を手配させてあるから、ゆっくり休むといい」


 簡易ポータルが設置され、町へは直通で帰れるようになっていた。ベルカは怪我人を預けて、ミリネと一緒に「お言葉に甘えて」とすぐに帰還する。長居する理由もないし、なにより遠出で景色を楽しむつもりが、すっかり台無しになった。


「ん~、服を綺麗にしたいね。流石に嫌な臭いが」


「お風呂に入りたいです、私も汚れてないのに臭いがしますぅ……」


「汚れを落としてから食事しよっか。後で集合しよ!」


「はい! ベルカさん、ありがとうございました。助かりました!」


「いいや、こちらこそ。じゃあ、また後でね」


 ギルドで受付から部屋の鍵を受け取り、ベルカは三階の部屋に向う。本来であればそうそう泊まれないような高級な個室は浴室もあり、わざわざ浴場まで出向かなくてもいいのだとひと安心する。


「おっ、クローゼットに着替えのシャツもあるじゃん。サイコー!」


 着替えの有無を確認したら、部屋の鍵を閉めて浴室へ向かう。最初から汚れる前提で、ラフな服装をしてきたのは正解だったなあ、と脱いだ服を丸めた。


「籠に放り込んだら服が綺麗になると良いのにな。あと、乾かしてくれたりとか。そんな便利な魔法とか開拓したら大儲けできるかも……なんてねぇ」


 鼻歌交じりに、髪を流し、身体も丁寧にタオルで隅々まで洗った。湯舟にも肩まで浸かり、わざわざ急ぐこともないだろうと疲れを癒す。


「……んふっ。これで絶対に冒険者試験は合格だな。あとは稼いで、どんな生活をするか。特に旅の目的もないもんなぁ、今のとこ」


 天井を仰ぎながら、深いため息を吐く。村から出て知見を深めるというのも目的ではあるが、それはあくまで生き方に過ぎない。いわゆる大きな夢とか、将来なりたいものがベルカには実体として何もなかった。


「(まあ、これから見つければいいか。どうせ私には無期限に近い時間があるわけだし、深く考えたところで、って感じがなくもない)」


 老いない、というのはメリットだ。親しくなった相手が自分よりも年老いて死んでいくのは寂しくあるが、かといってベルカは、他人に対してそれほど期待できるような人生を送っていない。今は、死んだら残念と感じるだけだ。


 その感性は肉体と違って永遠ではないことを、まだ理解していない。


「ふふ~。冒険者としてお金を稼いだら、まずは魔道具とかいっぱい買っちゃおうかな。そのうち自分の家とか買えるほど有能な冒険者になったりなんかしちゃったりして~! ああ、夢が膨らむなあ!」


 なんにしても始まったばかりだ。くねくねと身を動かしながら将来のイケてる自分を想像して楽しんでいる姿は現実など知ったことではないと夢を語り、まだ見ぬ仲間などまで思い描いた。


 だが、程々に、また湯舟に浸かって天井を仰ぐ。満足して冷静になると、なんとなく村が恋しく思うところもあった。色々問題はあったものの、なにひとつと思い出がないわけでもないのだ。


「おばあさん……。手紙、送ってくれるかな」


 楽しみだな、とひとり微笑んで、風呂をあがった。


「さあって、そろそろミリネに会いにいかないと!」

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